第29話 ベアハッグ!
外観の撮影をしている時のことだ。
それは、ちょっとした合間に起きた出来事だった。
「マユさん、久しぶりです!」
唐突に真希さんが、わきゃっとマユさんに抱きついた。
「久しぶりだね、真希ちゃん」
真希さんは私より身長が低い。
たぶん百五十センチちょっとだろう。
ちょうどマユさんの胸の高さに、頭がきている。
「半年ぶりくらいじゃないですか? 相変わらず、腰細いですねー!」
真希さんが、ぎゅううっと力を込めて抱きしめる。
「あははー。真希ちゃんは相変わらず……あったかくていいねー」
「なんです、それ。はっきり、ぽっちゃりって言ってくれればいいのに!」
「やだよ。それって、大字苑1枚コースでしょ?」
さも楽し気に笑い合う二人。
大字苑1枚って、なんの話だろう。
あと……なんか、すごく仲がいい。
ついでに、どうでもいいけど抱きついてる時間が長いと思う。
「ん?」
私がマユさんのことを後ろから観察していたら、真希さんと視線がぶつかってしまった。
バチンと音を立てたのち、瞬きも忘れて見つめ合う二人。
たまらず、先に目を逸らしたのは私の方だった。
「ふぅん♪」
何かを見透かしたかのような声が聞こえた。
「ねぇ、マユさん。今度、一緒にカラオケとかどうですか?」
「何でまた……私、カラオケは苦手だから嫌だって言ったじゃん」
「えぇー。マユさんの歌、聞きたいですよー!」
ふ、ふーん。
行ってないんだ。
へー。
私なんか、二人きりで行ったけどねー。
マユさん、私のために歌ってくれたし。
しかも、ライカさんだし。
「ん?」
……しまった。
また、目が合ってしまった。
さりげなく、すい〜っと視線を外す。
たぶん、さりげなくないけれども。
「ほら、真希ちゃん。浅田さん呼んでるよ、行かないと」
「はーい。マユさん、またあとでね!」
そう言って真希さんは、私の方にもう一度視線を向けると、意味深な笑顔を見せてきたのだ。
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