容姿はまず白紙。


「……ごめんね、こんなブスが告白なんかしちゃって……」


「ブス? それは誰と比較して言ってるの?」


 放課後。

 下駄箱に入っていた手紙を読むと、


「3F東の空き教室で待ってます」という呼び出しがあった。


 決闘するための果たし状ではなさそうなので、きっと告白だろう……愛の方の。

 自分がモテるとは思わないけれど、好き嫌いはその人にしか分からない。こんなオレを好きになってくれる人は絶対にいないっ、と言い切ることはできない。


 冗談かもしれないけど、本気だったとしたら無視するのは可哀そうだ。実は冗談で、ドッキリで、笑い者にされるくらいなら……、まあ、許容範囲だ。

 ここで無視して、明日、女子たちの間で愛の告白を無視した男になるよりはマシだ。


 待たせるのも悪いと思い、足早に指定の空き教室へ向かった。

 待っていたのは、クラスメイトの女子だった。彼女は緊張でガチガチになりながらも、一生懸命に気持ちを伝えてくれた。ドッキリではなく、ちゃんとした愛の告白だった……。


 そして、愛の告白を言い終えた後に、なぜか言い訳するように言ったセリフが、彼女自身による、自分の容姿を卑下する評価だった。

 こんなブスが。……こんな? ブス? 彼女単体だけを見ても判断はできないだろう。彼女だけを見て、ブスか美人かを判断したのなら、それは客観性を捨てた好みである。


 オレが、好きな顔か嫌いな顔か……たったそれだけだ。


 彼女の容姿が美人か不細工かなんてのは、隣に誰かがいないと分からない。当然、彼女よりも美人が立てば、彼女はブスだし、彼女よりもブスが立てば、彼女は美人となる。

 逆に、彼女を判断基準として、隣に立った誰かを美人か不細工で分けることもできる。だからひとりでぽつんと立ったまま、自分のことを「ブス」と判断するのは、納得できないな。


「ひ、比較……?」


「うん。たとえば……、身近な人で言えば、田村たむら先生……、先生と君を比べたら、君の方が可愛いと思うよ……。でも、もしも、最近ドラマによく出てる主演の女優さんがいれば、君はめちゃくちゃ不細工だと思う……。誰かと比べて君は上か下か、そこで初めて分かるんだから……。ブスだと自己評価を出されても、オレはそれを鵜呑みにはしないよ」


 それに、女優さんよりは不細工だとは言ったけど、ここも好みである。

 中には、人気の女優さんよりも彼女が可愛いと評価する人だっていると思うし……、結局、美人かブスか、なんてのは人の好みだ。

 見ている側によって変動する。

 彼女が動いたところで、どちらか片方に偏ったまま固めることはできないのだ。


 評価はふらふらと揺れている。

 人によって、振れた針が止まる位置は違うのだ。

 だから考えるだけ無駄である――……少なくとも。


「……この場にいるのはオレと君だ……、比較すれば、君の方が可愛いよ」


「えぇ……? 嬉しくないんだけど……」


 当然なんだけどね。


 ここでオレより不細工だ、なんて言われたら、立ち直れないかもしれないな……――彼女は、そんな気がした。


 まあ、その評価もオレが主観で選んだことであり、逆転することは当然、あるのだけど。


「で。どうする? 愛の告白は取り消すか?」


 色々と酷いことを言ったかもしれない……失望するなら、それも仕方ないだろう。


「…………ううん、なかったことにはしない。

 す、スキ、だからっ、付き合ってくれませんか……?」


「いいよ」


「……ブス、ううん――……でも、やっぱり比較すれば、ブスだと思うんだけど……?」


 自分の容姿に自信がないようだ。

 ……自信満々でもちょっと鼻につくけど……、謙虚過ぎて卑下するのも困ったものだ。

 中間が欲しいのだけど……そういう自信は、今後、オレが取り戻させてあげればいいか。


「ブスかもね。でも美人の時もある――だって、それは比較対象によるんだから」




 …了

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