コールドスリープしてる仮定


「三十歳にもなってゲームばっかりして……いつまでも子供よねえ――」


 親戚の集まりである。

 そして、挨拶代わりにかけられたのは、聞き飽きたセリフだった。


 ゲームと聞けばすぐに子供をイメージするのも、偏見な気もするが……まあ、『大人』の自覚がある人からすれば、ゲームなんて子供が遊ぶものだと思うのだろう。


 そうなると大人の遊びとは? 酒を飲むこと? ゴルフ? 野球? 酒はともかく、スポーツは子供だってするものだ。

 なのにどうしてゲームだけ?

 ゲームと似たようなものだと、アニメもそう思われている節がある。アニメは子供が見るものだ、と――でも、大人も見るからこそ、アニメ映画は興行収入という結果で数百億という記録が出ているのではないか?


「大人だってゲームをするよ。スポーツみたいなものじゃないか……ほら、ゲームだって競技化してるし……ニュースで見たことないか?」


「見たことあるけどねえ……人がゲームをしているのを見て楽しいの?」


 そんなことを言い出したら、サッカーや野球だってそうだろう……。野球なんて、赤の他人が白球を追いかけている様を、テレビカメラ越しに見ているだけだ。

 サッカーなんて、22人のおっさん同士が、ボールを蹴り合って芝生の上を駆け抜けているのを、俺たちは俯瞰して見ているだけだ……。知り合いが出ているなら応援するが、そうでもないのに見ているだけって……なにが楽しいのか。


 サッカーゲームの方がまだ自分で操作できる分、楽しいだろう。ゲームがより現実に近づいているリアルなグラフィックなのだ、画面に映されている映像など、現実とほぼ同じである。


「大人はお酒を嗜んで仲良くなるものよ……、ゲームばかりしていると、周りの人がゲームをしていなかったら、話に入れないじゃない」

「そういう場には呼ばれないし」


「呼ばれることもあるかもしれないでしょ……お酒が飲めないと空気が悪くなるものよ」

「……じゃあなんで呼ぶんだよ……」


 飲めないって言っているのに呼ばれることもある。あれはどういうつもりなんだろう?


 座席を埋めてほしいのだろうか。割り勘をする時、ひとりあたりの値段を少なくするためだろうか……それならそれでいいけれど、酒が飲めないだけで空気が悪くなるのだけはやめてほしい。酒が飲めないって言っているのに、それを知った上で呼んで、席についてソフトドリンクを頼んだら、空気が悪くなる……、なにがしたいの?


 飲めないって話を聞いていなかったわけじゃないんだから、そこは立て直してくれよと思うが……。


「酒、酒ねえ……。でもさ……あれって体に悪いんでしょ?」


「それは、まあ……そうね」


「俺は酒を飲むことを、数十年単位で続ける、超遅効性の自殺だと思ってるんだよな」


 あと煙草も。

 体に悪いと知りながらも摂取するのはもう、軽めの自殺のようでもある。


 死にたいなら好きに嗜めばいいけど……、酒を飲み続けている人はいざ体が悪くなって、死が分かると、その寸前で「死にたくない」って言うんだよなあ……。分かってたことじゃないの?


 脅威が目の前までこないと、やっぱり本心ってのは分からないものなのかもしれない。


「……そういう屁理屈を言っているのも、昔から変わらないわね……いつまでも子供だわ」


 うんうん、と呆れた親戚一同である。


 うーん……、俺に、なにを期待しているんだか。


「俺は子供だよ……だって、ちゃんと老化するコールドスリープしていたようなものだし」


 老化をさせないためのコールドスリープなのだから、意味がないと思うけど……まあ、言いたいことはそうではない。

 なので、今だけは目を瞑ってほしい……。幸い、親戚一同も、特に気づいていなさそうだし、自分から言う必要もない。


「……コールドスリープ……? いや、してないでしょ」


「しているようなもの、って言ったんだけど。……15歳の子供を眠らせて、10年が経った時……目覚めた25歳の彼は人生経験を積んでいないんだから、25歳じゃなくて15歳でしょ? たとえ体が25歳でも……、その子供は15歳のままなんだ……俺は、そういうことなんだよ」


「いや、だから――あんたはコールドスリープなんてしてないでしょ」


「うん。してないだけだよ――

 コールドスリープしていないだけで――俺は今も15歳のままなんだよ」


 中身は。


 たとえ、これまでの時間の経過をこの目で見ていたとしても、経験を積んでいなければ眠っていたようなものだ……。

 コールドスリープしていながら(していないけど)、時間経過をこの目で見ることができているのは、実際にコールドスリープしているよりは、間違いなく得だろう?


 眠らなかった人生。


 だけど俺は、なにも積み重ねてこなかった……それでも。


 ゲームは終わらない。


 終わるも続けるも、俺次第なのだから。



「――今が幸せなら、それでいいじゃん」




 …了

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