女神様も楽じゃない

@Kawashuezoshika

女神ホワイトの日常

「残念ながら、田中さんは死んでしまいました。」


 今日も死者がやってきました。この方の死因は過労死です。最近多いですよね。

 私は日本担当なのですが、300年前と比べて明らかに増えています。


「あの、私はどうなるのでしょうか?天国ですか?地獄ですか?」


 田中さんは不安そうな顔をしています。この感じだと、異世界転生という進路を知らなさそうです。

 ちゃんと伝えないといけませんね。


「田中さん。残念ながら、あの世には天国も地獄もありませんよ。転生一択です。地球か別世界かを選べますが、どちらがいいですか?」


 田中さんが愕然としています。死者の皆さんの大多数がこんな感じの反応です。


「どちらか、というのは?大体、転生って何ですか?」


「転生とは生まれ変わる事ですね。今の空きを見ますと、地球ならオーストラリアの雑草か日本の蚊が空いていますね。転生先として人間が良いのでしたら、異世界枠で『世紀末ボコレイン』が空いていますが…。」


 田中さんが固まりました。やっぱり衝撃しかありませんよね。しかし田中さんは運が悪いです。何でこんな選択肢しかないのでしょうか?


「あの、日本で人間という進路はないのでしょうか?できなくても、出来れば安全なところで人間に転生したいのですが…」


 ああ、心苦しいです。田中さんに残酷な事実を伝えないといけません。


「田中さんが希望する進路を引ける可能性は、無量大数分の1以下です。今世が幸運だったのです。ですから、諦めて進路を選んでください。地球で雑草か蚊をやるか、異世界『世紀末ボコレイン』で人間をやるかを。」


 田中さんは絶望の表情を浮かべました。そうですよね。でも、天界の規則だから仕方ありません。


「すみません。1つお聞きしたいのですが、『世紀末ボコレイン』というのはどんな世界なのでしょうか?」


「『世紀末ボコレイン』は暴力至上主義の異世界ですね。血と拳と犯罪が全世界で日常茶飯事な世界です。まあ、雑草や蚊よりはマシかもしれません。勝てば全てが叶う世界でもありますので…。」


 田中さんが崩れ落ちました。私が同じ立場なら自殺を考えますもの。当たり前ですよね。まあ、私は死ねませんが。


「なんとか、何とかならないのですか!私は人生で沢山善行を積んだはずです。なのに、こんな進路しかないのですか!」


 ああ。田中さんも勘違いされていましたか。勘違いされる方多いのですよね。

 これもまた、残酷な事実なのですが…。


「大変心苦しいのですが、前世の行いは転生とほとんど関係ありません。運だけで決まるので…。」


「ほとんど?」


 少し田中さんが明るくなりました。これはその可能性に賭けるということでしょうか。


「はい。厳密には前世の行いで転生を決めることもできなくはないです。ただ、おすすめはしませんが。」


「それはどんな方法なのですか?」


 田中さん、必死です。私が田中さんの立場でも同じような反応をするでしょう。ただ、私はその手段を取りませんが。


「転生ルーレットです。善行を積んでいるほど幸せな生活ができる可能性が高くはなります。ただ、どんな結果でも受け入れなければいけません。これに賭けますか?」


 田中さんは拳を握りました。決意を固めたようです。


「やります。やらせてください。」


「では、くじを引いてください。」


 田中さんは緊張の面持ちでくじを引きました。結果は、太平洋のオキアミ。

 何とも言えませんが、受け入れていただくしかありません。


「そんなぁぁぁぁ!」


 田中さんは私に掴み掛かろうとしました。すかさず転生ボタンを押します。

 田中さんは悲鳴をあげて、転生装置へと送られていきました。


 女神様って大変です。転生先を上司に言われたように転生者の意思を誘導しなければなりませんから。

 オキアミを自立した意思で選んでいただけて良かったです。これで上司に詰められなくて済みますね。


「女神ホワイト様。次の死者がお待ちです。」


「はい。入れてください。」


 女神様は暇じゃありません。ブラック労働です。




 

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