第一章 図書寮都市(ずしょりょうとし)

第2話 記憶

 幼い頃の記憶にある両親の姿は背中だけだった。姿勢の悪い猫背は、人工的な灯りに照らされた机と、椅子の間に収まっているのが常だった。学校よりも、同じ年頃の友人たちと遊ぶよりも、猫背の背中を見ているのが好きだった。


 呼んでも振り向かない時には、背伸びしてコンロで熱いお湯を沸かし、お茶をいれた。差し出すときに横顔だけでも見ておきたかったから。それから、一緒に少しだけお茶を飲んだ。


 お茶をいれるのが大分上手くなった頃、俺の元に役所の人間がやってきた。


 俺を“特別な”人間が集まる寮に、所属するようにと言ったのだ。学校が引けてから、塾に通うようなものという簡単な説明で、ただそれは政府が俺たちのような人間を管理するためで。


 お茶を入れる回数が減った代わりに、時々、茶柱の実を入れることにした。


 だから俺がいれたお茶には、時々、茶柱が立つ。


 両親は、それを無邪気に喜んでいた。

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