第一章 図書寮都市(ずしょりょうとし)
第2話 記憶
幼い頃の記憶にある両親の姿は背中だけだった。姿勢の悪い猫背は、人工的な灯りに照らされた机と、椅子の間に収まっているのが常だった。学校よりも、同じ年頃の友人たちと遊ぶよりも、猫背の背中を見ているのが好きだった。
呼んでも振り向かない時には、背伸びしてコンロで熱いお湯を沸かし、お茶をいれた。差し出すときに横顔だけでも見ておきたかったから。それから、一緒に少しだけお茶を飲んだ。
お茶をいれるのが大分上手くなった頃、俺の元に役所の人間がやってきた。
俺を“特別な”人間が集まる寮に、所属するようにと言ったのだ。学校が引けてから、塾に通うようなものという簡単な説明で、ただそれは政府が俺たちのような人間を管理するためで。
お茶を入れる回数が減った代わりに、時々、茶柱の実を入れることにした。
だから俺がいれたお茶には、時々、茶柱が立つ。
両親は、それを無邪気に喜んでいた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます