魔力量は正義
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・黒鳥の翼
フォロシスクロウの翼。
小柄ながらも強靭な翼は、どこまでも飛べる可能性を秘めている。
漆黒の翼は、遥かなる自由を求め、奔放に羽撃ていく。
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「おお、テキストがかっこいい……!」
黒チュンチュン改めフォロシスクロウがドロップしたアイテムを確認し、僕は感嘆の声を上げる。
やっぱりレアエネミーだったからなのか、他の素材アイテムと比べてフレーバーテキストが拘った感じに書かれている。
少なくともウルフとかスライムのドロップアイテムは、ここまで凝った書かれ方はしてなかったはずだ。
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・ウルフの毛皮
ウルフの毛皮。ごわごわした手触りをしている。
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うん、やっぱり。
それに今の撃破だけで5レベから7レベに上がっているから、経験値量的にも通常モンスターとは別枠である事は間違いなさそうだ。
「……あ、そうだ。パラメーターにポイントを割り振っちゃおうか」
折角、今の戦闘で10ポイント獲得したわけだしね。
さっきはポイントを割り振らないでおいた事が功を奏したけど、一応、逐次上げていくやり方も試しておこう。
後になって、やっぱりこまめに上げておけば良かったってなるかもしれないし。
もしかしたらこっちが悪手って可能性も全然あるけど、こういうのは後から修正をかけやすい序盤のうちに色々やっておくのが吉だ。
「とりあえず……筋力は当分割り振らなくていいよね」
近接武器で戦う以上、筋力が高いに越した事はないけど、筋力特化にしたいわけじゃないし。
それよりも真っ先に上げなきゃいけないのは……やっぱりMPかな。
このビルドで一番困る状況って、MP切れで遠くにいる敵に攻撃できなくなったり、回復手段を失う事のはずだから。
実際問題、MPに余裕があれば、さっきの戦闘で武器をぶん投げるという荒技をしないで済んだはずだ。
「だとしても、10ポイント全部振っちゃうのは流石にやり過ぎかな……?」
でも、ちょっと増やした程度だとあまり効果はないというか、恩恵は薄いよね。
「……いいや、全部MPに突っ込んじゃえ!」
知力や敏捷、それか低めの器用さや精神力も上げておきたい気持ちはあるけど、まずはMP問題を解決するのが先決だ。
レベリングやドロップアイテムを集めるにしても、ボスみたいな強敵と戦うにしてもMPがあった方が色々と安定する気がする。
そういうわけで僕は、意を決して10ポイント丸々MPに注ぎ込む。
この選択が正しいという自信はないが、これでひとまずの問題は改善したはずだ。
後は様子を見ながら、足りないと思う部分を補っていく事にしよう。
「うん、おっけー。それじゃあ……街に戻って今日のところは終わりにしようかな」
キャラメイクとかフィールドに出るまでの準備を含めれば、もう結構な時間が経っている。
ちょっと物足りなさはあるけど、今日はまだ平日だしこの辺でセーブしておこう。
そして、街に戻った僕はそのままログアウトすることにした。
「それにしても……意外と武器を投げる戦い方、意外としっくり来たなあ」
——それは、ブレイがアンジェネをログアウトして暫く経った頃の事だ。
エンディシア大平原の中にある小さな雑木林で、数人の男が酷く疲弊した様子で腰を抜かしていた。
連中の視線の先にいるのは、濡羽色の髪の少女だ。
男達は彼女を精一杯に睨み付けるも、紅玉を彷彿とさせるような真紅の瞳に一瞥され返すと、一気に威勢が弱まってしまう。
「お、お前……何が目的なんだ!?」
「……目的?」
「そうだ! 姿を現すなりいきなり襲い掛かってきて、俺らがお前に何をしたっていうんだ!?」
必死に叫ぶ男に、少女は微塵も臆する事なく蠱惑的な笑みを溢す。
「ふふっ……愚問ね。
「はあっ!? じゃあ、なんで——っ!!」
「——
少女の掌の上に黒い魔力——闇属性の魔力が灯る。
異能の種子。
解明者と呼ばれる人間に備わる力に依るものだ。
その能力は多種多様、人の意志に呼応して力の片鱗を芽吹かせる。
解明者が世界に現れるようになってから二ヶ月、男達も何度かその力を目の当たりにした事があった。
だが、少女の異能は今まで見たことのない類のものだった。
「……ああ、最初の質問に答えて無かったわね。端的に言えば……目障りなのよ、貴方達。私が思い描く理想の世界にはね」
「……は?」
少女は冷え切った眼差しで、男達を蔑むように見下ろす。
口元にはたわやかな笑みが浮かんでいるが、それが逆に男達が彼女に抱く恐怖を加速させる。
その姿はまるで——、
「……さてと、お喋りはこれくらいにしましょうか」
少女の掌に灯っていた魔力が腕全体に宿り、やがて掌一点に凝縮すると、直後に膨張を始める。
一瞬で直径五十センチ強ほどのサイズにまで巨大化すると、少女は躊躇う素振り一つ見せずに、その魔力の塊を男達の後方に建てられたテントに射出する。
「お仕置きよ」
そう言い残し、踵を返す少女。
直後、背後からは「やめろ!」だの「助けてくれ!」だのと、男達の情けない悲鳴が聞こえてくる。
「——安心なさい。死にはしないわ」
死ぬのと同じくらい怖い目には遭うけど。
うわ言のように小さく呟き、雑木林を抜け出たところで少女は指をパチンと鳴らす。
刹那——後方で凄まじい爆発が発生した。
後方にちらりと視線を遣れば、木々の大半が吹き飛んでいた。
「ふん、花火にしては随分と貧相ね」
しかし、これは己の非力さによるものだ。
加えてコンディションも万全ではない。
本当なら一帯を更地にするほどの威力の爆撃をしたかったのだが、今はこれでよしとしよう。
「あんな小物の為に赤ネームになるのは勿体無いもの」
あはは、と高笑いしながら少女はその場を去って行く。
その後ろ姿を遠目で眺めながら、男達の一人が振り絞るように呟くのだった。
——
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