勇者ビルドの戦い方

「ファイアボール!」


 掌から放たれたバスケットボール程の大きさの火球が、頭上を飛んでいる小鳥型のモンスターチュンチュンを撃ち落とす。


「雷刃衝!」


 刀身に雷を宿した斬撃が青いゲル状の生物スライムを両断する。


「——ファーストエイド」


 淡い緑を帯びた白い光が身体を包み込むと、わざと攻撃を受けて消失させておいたHPが一瞬で回復する。

 それからインベントリから取り出したMPを回復させるアイテム——マジックポーションを飲み干してから僕は、スキルシードで習得したスキルの性能に手応えを感じてうんと頷く。


「……うん、良いね」


 ファイアボールは弾速がちょっと遅いのが難点だけど、威力があって射程もあるから剣が届かない飛んでいる敵とかに有効なスキルだ。

 術の発動待機中はその場から動けないけど、そもそも術を使うのは敵の攻撃が届かない安全圏にいる時だからそんなに気にしなくていいかな。


 雷刃衝は技の出が早く、攻撃後の隙も少ない普通に優秀な剣技だ。

 おまけにリキャストも短いから今後も積極的に使っていって良さそうかも。


 ファーストエイドはファイアボールと比べて消費するMPがちょっと多いことがネックではあるものの、今のHPであれば一発で全快出来るし、マジックポーション代を差し引いてもポーションを買い込むより全然お得だから個人的には満足な性能だった。


 こんな感じにスキルも発動させていきながら、僕は平原を突き進みながらどんどんモンスターを倒していく。


 基本的に敵の攻撃は回避で対処し、回避が難しそうなものだけガードで凌ぐ。

 正直、全部受け止めた方が楽で安定もするけど、このゲームにはどうやら装備毎に耐久値が存在しているみたいだから、可能な限り損傷は抑えておきたい。


 それから反撃にただの斬撃とスキルを駆使したり、たまに盾で殴ったりしてモンスターを撃破し、戦闘回数を重ねていく。


 最初から覚えていたスパワースラッシュは、強烈な斬撃を放つ雷刃衝と似たスキルだったけど、動きが少し大振りで後隙もあるから、使い勝手はどうしても雷刃衝に軍配が上がってしまう。

 単純な物理攻撃だからかMPを消費しないという利点はあるにしろ、使用頻度はあまり高くなかった。


 となれば当然、ある一つの問題に直面する。


「……うん、まあこうなるよね」


 モンスターを狩り始めてから数十分後。

 街を出る前に買っておいたマジックポーションがあっという間に底を突く。

 ついでに言うと、残りMPは0……完全にリソースが尽きてしまっていた。


「参ったな。回復は治癒術頼みで普通のポーション買ってないんだよなあ……」


 戦っているうちに5レベルまで上がっているとはいえ、回復リソースがない状態で戦うのはリスクが大きい。

 それに僕が今いる場所はチュートリアルエリアの外側——それに伴って敵も強くなっているはずだから、ここは無理せず一旦街に帰るのが賢明だろう。

 売却用のドロップアイテムも結構手に入った事だしね。


 そう思った矢先だった。


「——ん、あれって……?」


 ふと、空を見上げると一風変わったモンスターが視界に止まる。

 シルエットはチュンチュンと一緒だけど、明らかに色合いが違う。

 本来は栗色っぽいカラーリングだったけど、今頭上を飛んでいるのはカラスを彷彿とさせる黒の鳥型モンスターだった。


「レアエネミー……かな?」


 単純に色違いなのか、似ているだけの通常モンスターなのか。

 少なくとも現時点で言えることは、初めて目にするモンスターという事だ。


 であれば、ここで取るべき選択肢は一択。


「予定変更。帰るなら最後にあのモンスターを倒してからだよね……!!」


 分類的にはエンジョイ勢に入るのだろうけど、これでもゲーマーの端くれだ。

 レアエネミー(多分)と戦えるこのチャンス……逃すわけにはいかない。


 とはいえ、残念ながら現状、僕にあの黒チュンチュンを攻撃する術が無い。

 MPが残っていればファイアボールで攻撃出来たんだけど、無いものをねだっても仕方ないか。

 そもそもMPに余裕があったとして、それであのモンスターを倒せるという保証があるわけじゃないし。


「うーん……どうしたものかなあ」


 こうなるんだったら盾じゃなくて弓を買っておいた方が良かったかな。

 一応、騎士の装備可能武器には弓もあったはずだし。


 ——でも、それはたらればか。


 仮に弓を買ったとしたら、今度は矢の購入に予算が割かれてマジックポーションが買えなくなっていたかもしれないし。

 それよりも今考えなければならないのは、どう現状を打破するかだ。


「何かいい解決方法は……」


 術スキルが使えなくて、飛び道具も持ってない状況で、それでも上空に飛んでいるモンスターを攻撃するには——、


「……あ、そうだ。これならいけるかも」


 スキルも何もないから成功するかは微妙だけど、やるだけやってみようか。

 その前にレベルアップで獲得した手付かずだったステータスポイントを全て筋力に割り振って、と……よし。


 準備完了、あとは黒チュンチュンに目掛けて力一杯、


「よいしょ、っと!!」


 ——ぶん投げる。


 放たれた剣は、真っ直ぐと黒チュンチュンに飛んでいき……命中する。

 ただ直撃には至らず、翼を掠めるだけだったから撃墜とまではいかなかった。


「それなら……こっちも!!」


 攻撃の手を緩めまいと、続け様に盾を思いっきり投げつける。

 さっきの投擲で距離感を掴めたおかげか今度は上手く命中に成功し、頭付近に盾が激突する。

 途端、黒チュンチュンは真っ逆様になりながら墜落し始めた。


「よしっ!」


 ぐっと拳を握り締める。

 でも、呑気に喜んでばかりもいられない。

 まだ黒チュンチュンの肉体がポリゴンに四散していないからだ。


 残ったHPを削り切る為にも急いで投げた剣と盾を拾わないと。


 すぐさま僕は、落下した武器達を回収しに地面を蹴る。

 まずは黒チュンチュンと一緒に地面に落ちた盾を拾い上げる。


「——っ!」


 瞬間、空中で体勢を立て直した黒チュンチュンが僕に襲い掛かってきた。


「おっとっと……!!」


 完全に逆上してしまっているようで、攻撃がかなり激しい。

 おまけにレベル差とか怒り状態が相俟ったせいか、盾でちゃんと防御をしているのにも関わらず、衝撃が肉体にまで伝わってじわじわとHPが削れていた。


 これは真っ向から受け止めちゃダメなやつだ。

 直感する。


「守り方を変えないと……!」


 耐久値の消耗速度を度外視してでも確実に盾で受け止めてしっかりガードする方針から、極力回避と受け流しでやり過ごす方向にシフトし、黒チュンチュンの猛攻をどうにか耐え凌いでいく。

 それでも全てを捌き切る事は出来ず、HPは少しずつ消耗していくが、残りゲージが三割を切った辺りでようやく最初にぶん投げた剣の回収に成功する。


 そして、黒チュンチュンの攻撃を盾で受け流してから——、


「今度はこっちの番だよ」


 攻守逆転。

 パワースラッシュによる渾身の一太刀を叩き込む。


 こういう時、MPを消費しないで発動できるスキルって便利だよね。


 初期スキルを習得していたことに感謝しつつ、僕は畳み掛けるように連続で斬撃を浴びせていく。

 ただの通常攻撃で威力は無いけど、塵も積もれば山となる……向こうにとっても手痛いものとなるはずだ。


「ついでにこれも!」


 追い討ちを掛けるように盾での殴打も織り交ぜる。

 コマンドバトルだと防御専用の盾だけど、アクション系のバトルだと盾殴りは基本攻撃の一つになってたりしている。

 その分、耐久度の損傷スピードも早くなっちゃうだけど、DPSと天秤に掛ければ十分にリターンはあった。


 剣と盾のコンボラッシュをある程度喰らわせたところで黒チュンチュンは、一度距離を取るべく再び上空に戻ろうとする。

 だけど、


「——逃がさないよ!」


 完全に上に飛ばれる前に二度目の剣の投擲。

 今度は狙い通り、黒チュンチュンの胴体を深々と貫く。


 そして、糸がぷつりと切れたように地面に落下しながらポリゴンと散っていく黒チュンチュンを見て、僕は「よし」と呟くと同時に強く拳を握り締めるのだった。




————————————

極低確率で出現モンスターと少し姿が異なるモンスターが出現することがあります。

そのモンスターはUモンスターと呼ばれ、通常モンスターよりもレベルが高く設定されているようです。

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