―13― ユメカ、〈ビッグ・トレント〉を調合する!

「やっと目的地についたー!」


 無事、10層についたわたしは手を広げて喜ぶ。


【なにを狩るの?】


「んー、特に決めてないけど、ひとまず見つけたモンスターから狩ろうと思います!」


 コメントに答えてると、早速モンスターが現れる。

 前方で狼のようなモンスターがうなり声を上げていた。


▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


コボルト

 レベル:10


△△△△△△△△△△△△△△△


 んー、コボルトかー。

 コボルトってポーションの素材にならないんだよねー。テンションあがらないなー。

 はっ、いけないいけない。

 わたしは今後一切ポーションを飲まないんだった。

 ポーションの素材になるとかもうどうでもいい!


「これからコボルトを倒そうと思います!」


 それから短剣を手に突っ込む。


「ガウッ!」


 と、コボルトが口を開けて突っ込んできた。


「うわっ」


 驚いたわたしは短剣でどうにか攻撃を防ぐもそのまま尻餅をついてしまう。


「いったーい!」


 お尻を床にぶつけてけっこう痛い。うぅ……もしかして10層にくるのは無謀だったのかも。


【ポーションは?】

【ポーション飲め】

【ポーション飲めばこんなモンスター一瞬で倒せるだろ】


 コメントがポーション飲めの大合唱だ。どんだけわたしにポーション飲ませたいのよ。


「もう、ユメカはポーション断ちするって言ったじゃないですか」


 こうなったら、コボルトを倒してポーション飲まなくてもユメカは戦えるんだってことを証明しよう。


 と、気合いをいれていた最中、スタスタ、と床をこすれる音がした。

 見ると、そこには一体のモンスターが通り過ぎるところだった。

 あのモンスターは――


「トレントだぁ!!」


【笑顔で草】

【めっちゃガン見してるwwwwww】

【脳みそをポーションに支配された女】


 はっ、いけない。つい、喜んじゃった。


「ち、違うんですよ! その、トレントから採れる薬草で作ったポーションって大変便利な効果があるから喜んじゃっただけで、け、決してポーションが好きだから喜んだわけじゃないんだからね!」


【言い訳になってないぞwwww】

【言ってることめちゃくちゃで草】

【ツンデレかなwwwww】


 でも、このままトレントを逃すのはもったいないなー。


「よし、今からトレントを狩りまーす!」


【ん? トレントを狩るだと?】

【え? ポーション飲むの禁止してなかった?】


「トレント狩るだけで、ポーションを飲むとはユメカは一言も言っていませーん。はい、ざんねんでしたー!」


【は?】

【うーん、このクソガキ】

【なに言ってんだ、こいつ】

【くそっ、殴りてぇ】


 うるさいうるさいうるさいっ! だって、目の前にトレントがいたら狩りたくなるじゃん! そういうさがなんだから、仕方がないでしょ!


「おらぁあああああっっ! トレント待てやごらぁああああああ!!」


 逃げようとするトレントを叫びながら追いかける。もう、コボルトとか視界にすら入ってなかった。


「捕まえた! うひょひょひょーっ、トレントの香りサイコー! おらぁ、お前はもうユメカのもんじゃーい! 抵抗するなー、諦めろーっ!」


 トレントから生えてる草を捕まえながら、短剣でザクザク突き刺していく。


【コボルトのときとテンション違くて草】

【すでにラリってるだろこいつ】

【ユメタンウッキウッキでワイもうれしい】

【笑い方がキモいwwww】


 それから格闘するも数分後、ついにわたしはやったのだ。


「トレント討ち取ったりー!!」


【おめでとう】

【おめでとう】

【おめでとう】

【おめでとう】


「みんなありがとーう!!」


 おめでとうというコメントと共に投げ銭もたくさん入っている! 


「では、このトレントの素材でポーションを調合する配信を始めます!」


【ん?】

【あっ……】

【ポー禁するんじゃなかった?】


「はっ、そうだった。ユメカポー禁中だった!? ポー禁中にポーション調合しちゃダメだよね!」


【もう、ポー禁のこと忘れてるwwww】

【仕方がない。彼女の血はポーションでできているから】


 ヤバい……っ、このままだとわたしバカみたいじゃん! どうにか、ここから逆転する方法はないかな!?


【SSSランクのポーション売れば、めっちゃお金になりそう】


 はっ!? これだぁ!

 コメントの一つを見てわたしはひらめいたのだ。


「そうだ! 調合したポーションは全部売ってしまおう!! お金のために調合するんであって、自分では飲まないからね! これなら、問題ないよね?」


【問題ないのかな……?】

【あっ、この流れは】

【果たして売るまで我慢できるのだろうか】

【我慢できないに1ペソ】


「みんなしてわたしのことバカにして! 例え、ポーションを作っても、ユメカはぜーったいぜったい飲まないんから!!」


 わたしが、ポーション断ちできるってことをみんな見せつけてやる!!



 それから、ダンジョン内の隠れ家と呼ばれる安全な場所へと移動した。

 鍋やスプーンなど調合に必要な道具を〈アイテムボックス〉から取り出す。


「では、お湯が沸騰しましたので、薬草を中にいれますね」


 トレントから採れた薬草は〈アイテムボックス〉に収納しておいので、そこから取り出そうとする。

 ドサドサドサ、となぜか山盛りになった大量の薬草が〈アイテムボックス〉からでてきたんだけど!


「なんで!?」


 こんなに薬草を採取した覚えがないんだけど!?


【あっ……】

【ラリっていたときに採取した分では】

【あの後、こんなにトレント狩ったんかwwwwwww】

【これだけのトレントを1人で狩るとかやっぱり化物やんけwwwww】


 あぁああああああっ、そういうことかぁああああ!?

 例の動画でゴールデンミノタウロスを倒した後、ラリった後のわたしがトレントを狩りに走っていたんだった。

 だからって、こんなに薬草を採取してるとか予想外なんだけど!


「と、とりあえず、全部ポーションに調合していこうと思います!」


 そんなわけで沸騰したお湯の中に薬草を次々と入れていく。

 それから、鍋をスプーンでかき混ぜながら、魔力を注ぐ。

 この魔力を注ぐ作業がもっとも肝心だ。一つの鍋じゃ全部の薬草は入りきらないため、効率的にやっていく必要があるかも。

 魔力を十分注いだ薬草は採りだして、管のように巻いて地面に置く。このまま数時間ほど放置して乾燥させないといけない。


「できたー!」


 数時間後、1本目のポーションが完成した!

 できあがったポーションはタバコのように細長い形状をしている。ポーションだからといって飲みものとは限らないのだ。


【乙】

【おめでとう!】

【長時間の配信お疲れ様】


「みんなありがとーう!」


 完成した途端、お祝いのコメントともに投げ銭もいっぱいもらっちゃった。


【鑑定して】


「いいですよー。さっそく鑑定してみますね!」


 コメントに答えて完成したポーションを〈鑑定〉する。


▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽▽


〈ビッグ・トレント〉

 格付け:SSS

 効果①:状態異常を治す

 効果②:不明(格付けSSSなため隠し効果を獲得しました)


△△△△△△△△△△△△△△△


【当たり前のようにSSSで草】

【ポーションを作ることに全ての才能を使ってしまった女】

【はぇ~、これは高く売れそうですね~】


 おぉ……っ、格付けSSSランクだ! ふふふっ、やっぱりわたしって天才なのかな!


「では、さっそくいただきまーす!」


【は?】

【は?】

【は?】


「……じゃなかったー! これは売れるんだったー! えへへっ、ユメカついうっかり」


 てへっ、とかわいいふりしてごまかす。

 コメントも「かわいい」って反応ばかりになった。よしっ。

 うぅ……っ、それにしてもこんな活きがいいポーションが眼の前にあるってのに、吸えないなんて……。


【一本ぐらいなら吸ってもいいのでは?】

【吸って味のレビューしてほしい】

【むしろ吸ってほしい】


「え、えー、そっかー、みんなわたしに吸ってほしいのかー。そんなに吸ってほしいなら仕方がないかー。いやー、本当は吸いたくないんだけど、みんなが求めるなら仕方がないよねー」


【うーん、この……】

【やっぱりポーション断ち一日ももたないやんけ!】

【必死に言い訳してて草】


 なんか文句言っている視聴者もいるけど、無視無視!

 そんなわけで、いっただきま~す、とわたしは〈ビッグ・トレント〉を吸うのだった。








  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る