世界的なクレーマー、学校に乗り込む!

18世紀の弟子

第1話 メール受信


 世界有数のクレーマーである私の元には良くメッセージが届く。その大半が誹謗中傷だ。ただでさえ昨今の風潮でクレーマーは肩身が狭いのに、私はよりにもよって世界的にも有名なクレーマーだ。これは仕方がないことだと受け入れるしかない。そして迷惑メールボックスに分類できてなければ、メールソフトサービスにクレーム処理をすることも忘れない。

 いつもの通り、リビングのソファーに座り、さりげなくタブレットを立ち上げ、コーヒーを飲みながらメールに目を通していた。どうでも良いメールはまとめて削除するためチェックを入れていく。すると、一つだけ気になるタイトルが目に飛び込んできた。

「助けてください」

 このタイトルは珍しいが、おそらく迷惑メールだろう。それもチェックを入れてゴミ箱に入れようとした。

 指をくるくる回してコーヒーを口にして顎ひげを触る。

(念の為に内容を確認してみるか)


「泣く子もだまるクレーマー、タイマネさん。

突然のメールごめんなさい。

私は小学生の時村かなです。

助けてください。

学校で酷いイジメにあっています。

ノートやランドセルの嫌がらせは毎日です。

クレームを入れてください」


 最初はイタズラだと思った。というのも、この手の迷惑なメールは何度も受け取ったことがある。ただこのメールにはイジメの証拠とされる画像も添付されていた。

「本物かもしれない」

 ただ慈善事業やをする気はない。私は大企業などにクレームを入れて、この地位を築き上げた。今更、教育委員会、学校、加害児の保護者にクレームする気はない。

「PTAじゃないんだよ、おれは」

 人助けやヒーローはゴメンだ。絶対的なヒールになることが心地いい。今取り掛かっている案件も大きい。二週間前にネットで購入したハンドクリームで肌荒れした。肌荒れ防止のはずが肌荒れ、大クレームに等しい。

「クリームでクレームか」

 と笑っていたら、チャイムが鳴った。玄関のカメラを見ると、門を開けて侵入している人の姿が。

「誰だ! 勝手に人の家に」

 瞬間に、リビングのドアが開いた。おいおい、展開早すぎるだろ。目の前には30代のスーツの美女がいる。

「時村かなの母親です」

 さっきの相談メールの小学生の保護者か。イジメられたという、親子で助けてくれということか。にしてもだ。

「非常識にもほどがある。直ぐに出て行きなさい」

「帰りません。ファンです。あなたの本も持ってます。ここにサインもあります」

「だからなんだ。帰りなさい。帰れ!」

 新手のストーカーか? とにかく、かつてないピンチだ。そしてこの女はじっと睨みつけている。


         *


 私は時村かなの母親、時村智子である。娘には申し訳ないが、生まれ持っての鈍感さは自他共に認めるところ。その非常識さは「天然の極み」と中学時代に言われ、25年は経っただろう。

 その私の娘が明らかにイジメられているが、学校にいざ乗り込もうと思っても、担任に足元を見られ校長や教頭にも言葉巧みに丸められるのがオチ、一歩間違えればさらに娘は窮地に追い込まれるやも知れぬ。

 そこで言葉が上手い人間は誰だと考えた。クレーマー。もし、世界一のクレーマーならばどんな言葉巧みに丸め込む学校の連中にも勝てるのではないか。と、ここまで足を運んだわけだ。世界有数のクレーマーと言われるタイマネ。この人ならきっと娘を救ってくれる。帰れと言われてもそうは問屋が許さない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る