無題の。

ch1003

第1話

ッ、ハッハッはぁッ、はぁッ、

男は走っていた。

熱を吐き出す肺は、寒さで今にも切れそうだ。それでも、白い煙をあげる。

痛いくらいの静寂を纏う廃墟の中で“それ”は異端だった。



「          」

声が吹いた。

「          」

「        」

そうだな。ここがいい。


男は止まった。煙も止まる。

内装が削れ、あたり灰色。大小異なる瓦礫の山。足は床を鳴らす。

不安定で大きい瓦礫へ足音が向かう。

天井すらない。


ザリザリと硬い粒が靴底と擦れ、

男は灰色のてっぺんに腰を下ろした。


月が綺麗だ。憎いくらいに。


ーー今なら届くかもしれないよ?


月に手を伸ばしてみる が届くはずもない。

「虚しいな」

乾いた笑いが響く。

徐に懐から小さなガラス瓶を取り出す。

紅に染まる液体を喉に流し込むと、月に向かってもう一度手を伸ばす。



刹那。 男の視界は暗転した。


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