君を思う気持ち消しゴム
唯野 志雄
君を「 」な僕の話
僕、篠宮ハルはクラスメイトの内村さんに恋をしている。
いつもクラスの中心にいて誰にでも分け隔てなく接してくれる、そんな彼女が「好き」になった。
でも、それはきっと僕だけじゃない。たぶん、クラスの男子のほとんどが内村さんのことを好きだと思う。
まだ、誰かと付き合ってるという話は聞いたこと無いけれど、内村さんは僕のことを好きにはなってくれないだろうな。
そんな「好き」を諦める理由も浮かんでいたある日、僕は見つけてしまった。
ただ、何となく鬱陶しい内村さんに近づく男子に消しゴムを重ねていたら、彼の心を覗けてしまったのだ。
彼、西山くんの心は「下心」と「不安」でいっぱいだった。少し、可哀想と思った僕は彼の「不安」に消しゴムを重ね、擦ってあげた。すると、彼の心からは不安が消え、彼は大人しくなった。
この件で僕は確信した。
僕の消しゴムは気持ちを消せるってことを。心が覗けたのが何よりの証拠だろう。
確かに、以前から不思議な雰囲気ではあったけれど、まさかそんな力があったなんて!
これがあれば彼女、内村さんに近づけるかもしれない。
早速、僕は彼女にも消しゴムを重ねてみた。
彼女の心には「好奇心」や「友情」など彼女らしいキラキラしたものが入ってた。でも、2つだけ余計なものが入ってた。彼女の汚点である、「飽き性」と「自己中」。
他が綺麗だからこそ際立つそれを僕は消してあげなきゃ、可哀想と思った。そうして僕は彼女の「飽き性」を消した。
次は「自己中」を、そう思ったその時、僕の視界に入ってきたのは会話のリズムを崩し、友達に詰められている西山くんだった。
「さっきから、何なんだよ!」
「下ネタばっか言いやがってキッショ」
そんなことを言われても、彼は面倒くさそうにしているだけだった。
明らかにいつもと様子が違う西山くんから逃げるようにみんなは離れていき、彼は孤立している。その時僕は自分のしたことの重さにやっと気付いた。
この消しゴムは人の気持ちを戻す事はできない。もう取り返しがつかないのだ。内村さんの方を見た。いつもと変わらない笑顔には見えない。やらかした。
思えば、僕は内村さんを「好き」なのを言い訳にして彼女の為にならないことばかりしている。僕が内村さんに選ばれるはずもない、当然だ。彼女に僕は似合わない。
僕が彼女の汚点なんだ。僕は君のために消しゴムを手に取った。汚い僕の心が現れる。擦った。
僕は内村さんが「 」だ。
「消しちゃだめだよ、篠宮くん」
「ずっと私を好きでいて」
「自己中」な私は彼の気持ちに書き足した。
僕は内村さんが「大好き」だ。
これでよし。
君を思う気持ち消しゴム 唯野 志雄 @tadano_shio
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