第7話 秀才ポンコツお姉さん、実は有名配信者でした。「へえ。有栖川さん、配信やってるんですか?」

「優斗くんはこの部屋を使ってね」

「すげえ……」


 きれいで広い部屋。


 実家のリビングよりデカい。


「南向きの一番いい部屋だよ。勉強するにはとってもいいから」

「ありがとうございます」

「あとでいろいろ必要な物、買いに行こっか」


 このマンションは30階建てだ。


 この部屋はその最上階。


 部屋の間取りは、3LDKある。


「こっちはあたしの部屋で、あとこっちは——」


 一番北にある部屋を指差して、


 有栖川さんは一瞬、ためらいを見せて、


「……配信用の部屋なの」

「へえ。有栖川さん、配信やってるんですか?」

「うん。実はね……」

「チャンネル、教えてくださいよ。すげえ見たいです」

「ええ?! うーんと……ちょっと恥ずかしいな」


 顔を赤くして、はわわっと慌てる。


「……そんなに恥ずかしいチャンネル、何ですか?」

「えーと、えーと……そういうわけじゃなくて」

「なら教えてくださいよ。笑ったりしないですから」

「うーっ! 仕方ないなっ!」


 ガチャ!


 有栖川さんは、ドアを開けた。


 中には、配信機材がたくさんあって。


「すごい。本格的ですね」

「もお、優斗くん、そんなに見ないでよーっ!」


 カメラもマイクもパソコンも、

 

 高スペックなものを使っている。


「で、そろそろチャンネル、教えてくださいよ」

「むう……これだよ」


 だいぶ不満そうな顔で、スマホを俺に見せてくる。


「【クイックアリスの神講義】って……えええええええっ!?」


 クイックアリスの神講義——


 チャンネル登録者数100万人を誇る。


 教育系Ztuberの中で、ダントツトップのチャンネルだ。


 TVのクイズ番組にも、美少女東大生としてたまに出ている。


「すみません。全然気づいてなかったです……」


 昨日は東大に落ちて、亜美に振られて、実家から追放されて——いろいろありすぎた。 


 だから気づけなかった。


 どこかで見たことあるかな、ぐらいは思っていたけど……


「優斗くんには秘密にしておきたかったけど、一緒に住むなら無理よね……」

「別に隠さなくてもいいじゃないですか?」

「優斗くんのあたしを見る目が、変わってしまう気がして。あたしが【クイックアリス】だと知ったら、態度が変わっちゃう人多いから……」


 クイックアリスは教育系Ztuberだけど、ネットでアイドル的な人気がある。


 非公式だけどファンクラブもあるくらいだ。


「俺にとって、有栖川さんは有栖川さんですよ。クイックアリスだとしても、見方は変わりません」

「本当に?」

「酔っ払った姿も見てますし」

「もおー! 優斗くんのイジワルーっ!」


 俺の肩をポカポカ叩く有栖川さん。


「あと、『有栖川さん』はよそよそしいよっ! 『愛理』って呼んでね」

「それもそうですね……じゃあ、愛理さん」

「お姉さん、もつけていいんだぞー?」

「遠慮しておきますね」

「可愛くないなーっ! このこのっ!」

「いたっ!」


 ベッドロックをかけられる俺。


 ふにょん、ふにょんっ!


 胸が、頭に当たるって……っ!




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