晴れのち雨
おけけ
第1話
「やっと辞められたわ…マジでここのコンビニブラック過ぎる、」
男は疲れ切った顔でそう呟いた。
彼の名前は後藤。ここのアルバイトで10年勤務していたベテランのアルバイトだ。
リーダーをオーナーの息子店長から無理矢理任命されて、こき使われてきたアルバイトながらも社畜顔負けの近年稀にみる逸材だ。
(そういっても、次の就職先もコンビニなんだけどな!)
そう思いながらも、やっとこの地獄の様な日々から解放された今日一日をゆっくりと過ごそうと決めていた。
コンビニ業界というのも様々あり、本部直営店とフランチャイズ店の2種が存在する。フランチャイズ店というのは本部に一定額のロイヤリティを支払うことで、個人商店でもそこの商品の納品及び販売とネームブランドと提供するサービスの使用許可を得られるというものだ。
そして、そのフランチャイズ店の中でも個人経営店と法人経営店があり、その中でも大体地獄の様な日々を送るのは個人経営店の方が多かったりする。
コンビニオーナーといえど所詮は個人商店の店主に過ぎない。光熱費は勿論、人件費を使い過ぎたり廃棄が沢山出たりすると全額個人店舗の経費になる。
なにより、店舗開業時に用意される商品や設備が全額自腹で用意された物であれば問題ないが、本部の方が用意した場合には毎月の支払が発生したりする場会もあり、近年の本部のドミナント戦略による顧客と収益と労働力の奪い合いによって毎月の収入が0になって貯金を切り崩す個人店経営のオーナーも普通に沢山居るのだ。
(オーナーには悪いコトしたなぁ…でも、息子店長最悪だったしいっか!)
(普通に従業員の人妻と不倫してバレたら一か月無断欠勤とかアリエネーし!そのシフトの穴埋めてたの俺だし!ワンオペだし!)
(よくやった!俺!まさに社畜の鏡!)
「でもなぁ。次のコンビニ親父の知り合いやってる会社なのが嫌なんだよなぁ…。」
そんな独り言を呟いていると自宅の前に着いていた。
アルバイト先から家迄の距離は徒歩5分程度しかなかった。なので、ちょっとした考え事をしている間に直ぐ家に着く。
そして、家の中に入り玄関からすぐの自室に入ると母親が声をかけてきた。
「帰ったの?だったらアンタが働くことになった店舗見に行くわよ!」
何を言っているんだこの人は。帰宅早々だと?やめてくれ。せめてゆっくりと今日一日を布団の中でダラダラと満喫させてくれ…。
そう思う俺だったが、30前半の子供部屋おじさんにそんな決定権などない。親に意見しようものなら返ってくる答えなど「なら家出てけ」しか無い。
紹介してなかったが、俺は30前半の
まぁ、なぜこの歳までコンビニのアルバイトなんてやってたんだ?しかも、結婚してたのに。と聞かれればちゃんとした理由はあるんだが…。今はその話はおいておこう。
「はーい、わかりましたよ…行けば良いんでしょ行けば。」
親父が車を用意し、母親が助手席に乗り込む。俺は後部座席でスマホのゲームを起動してポチポチとやっていると、
「今度、アナタ働く場所交通の便良い所だって!よかったじゃない。」
「へぇー何処?」
「なんか、地下鉄の駅近いって」
「ふーん…」
「着いたぞ。アイツから聞いてるのはここって話だ。」
親父が口を開いた。どうも、親父の事は好きになれないし尊敬出来ない、
今回の一件もこの親父が違う就職先に面接するって日に勝手に知り合いの所に話をしてきたりしたからだ。
いつも、結果ありきで話をしてくるのもそうだ。話し合いだ。と言ってくる時も話し合いでは無く、俺を諭す時間という方が正しい。自分を根本的に否定から入る形が何よりも嫌であった。
「あっそ。了解。」
(思ったより都会ってか、街の中心部じゃねぇか。客入り多いだろうし面倒臭ぇ…)
「さ。見たし家帰ろ。家。」
「来週からだそうだ。」
「なにが?」
「出勤よ出勤!」
母親が直ぐにフォローする形で割って入ってくる。
(あー。俺のパラダイスとバケーション計画が早くも終焉を迎えた。)
10年も地獄を味わったのだから一か月は|ニート生活をエンジョイする予定だったみたいだが、現実というものはそんなに甘くない。
「わかったよ。疲れたから早く帰りたい。」
そう言って帰宅し自室のオアシスである布団で死んだように眠りこけた。
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