盾職人は異世界のゲームチェンジャーとなる
テツみン
第一章 盾職人は異世界のゲームチェンジャーとなる
第1話 召喚人(しょうかんびと)となる
「じゃじゃーん! おめでとうございま~す! あなたはちょうどいちまん人目となる、アスタリア大陸への
ボクの目の前には、金髪で色素がまったくない肌の女性がいる。真っ白な布をまとったその姿はどこかで見たことがあった。
「まあ、いちまん人目だからといっても、なにか特典があるわけじゃないけどね。ざんね~ん」と、わけのわからないことを口にしている。
「えーと、あなたは?」と、一応たずねてみた。
「ワタシは、あなたたちの言う女神さまで~す。あ、アスタリアっていう名前があるから、アスタリアちゃんって呼んでね(は~と)」
美人だけど、だらしない表情に頭の悪そうな話し方は、女神のイメージからかけ離れている。まあいいけど……
それよりも――
「今、しょうかんって言いました?」
念のため、確認してみる。
「はい、あなたはこのワタシ――アスタリアが管理する世界に召喚された、いちまん人目の――」
「よっしゃあ!」
自称、女神様が話し終わる前に、ボクはガッツポーズを作って叫んだ。
「あの書き込みは本当だったんだぁ!」
これで仕事漬けの日々から抜け出せると思ったら、急に元気が湧いてきた。
この半年、世界各国で若者が突然行方不明になる事件が相次いだ。
それは社会問題となっていたのだけど、ネット上では『全員、異世界に召喚された』と、まことしやかにささやかれていた。
もちろん、それが真実なのかはわからない。なにせ、行方不明になった若者と連絡を取り合うことなんてできないのだから――
なのに、なぜか『召喚の条件はこれだ!』という書き込みが、毎日のようにアップされる。
それでも、そんないかがわしい情報を
ボク、虹川ヒロトもその一人――
SNSに『日付の変わる午前十二時、アスタリア様へ願いなさい』という書き込みがあったのを偶然見かけた。
もちろん、本気で信じたわけじゃない。しかし、毎日ヘトヘトになるまで仕事を続けて、自分の部屋にたどり着いたら、食べて寝るだけ。なにかをする気力もなく、休日もただボーっとしているウチに終わってしまう。そんな典型的社畜だったボクは、それをなんとなくやってみた。
突然、気を失い、次に目を覚ましたらここにいる……
「もしも~し! ワタシの話を聞いてます?」
アスタリアがボクの顔をのぞき込むので我に返った。
「あ、はい」
「それじゃ、説明しますねぇ。あなたにはこれから、アスタリア大陸――あなたたちの言う、異世界へ行ってもらいま~す。そこは魔族や魔物が、人間の生活を
ボクはひとつうなずく。
「はい、よろしい! 召喚人にはワタシから一つ、ジョブに合わせたスキルを授与しま~す」
ジョブ――つまり、職業ということだな。うんうん、ゲームみたいでワクワクしてきたぞ。
「ジョブは大きく分けて戦闘職と生産職に分かれていま~す。戦闘職は勇者や剣士、魔導士なんかねぇ。治癒士も戦闘職に分類されていま~す」
治癒士、つまりヒーラーも戦場へ赴くため、区分け上は戦闘職になるらしい。それはともかく――
「あのう、勇者ってジョブなの?」
「はい、この世界ではそうですよ。勇者は魔族と対抗できる唯一のジョブになりま~す!」
なんでも、魔族が使う闇魔法は勇者でないと防げないそうだ。
「だけど、勇者って何人もいないんじゃ……」
「いえいえ、勇者職は召喚人で一番人気のジョブで~す。すでに千人近くの勇者職がいますよ」
「えっ? そんなに⁉」
最終的には、一人の勇者が魔王を討伐することになるのだが、それは魔王と同じレベルまで到達した勇者が任されるらしい。
「ちなみに、魔王のレベルは九百九十九ね」
「……今、勇者のレベルは?」
「そうねぇ。いちばんレベルが上がっている人で、七十くらいかしら?」
魔王討伐はまだまだ先のようだ。
「それで、あなたはどのジョブにする?」
ジョブか……できれば危険な戦闘職は避けたいんだよなぁ。生産系で安定した生活が理想なのだけど……もともと理系志望だったし――
「あのう、生産系の職はどんなのがあります?」
「そうですね~」
女神はあごに人差し指を当てて、ちょっとカワイさをアピールしながら考えるフリをした。
「人気なのは武器職人や錬金術士、あと防具職人かなぁ?」
武器職人に錬金術かぁ。どちらも面白そうだ。
「でもね、今から生産職を始めるのはタイヘンよ」
タイヘン? 大変?
「どういうこと?」
「すでに武器職人も防具職人も百人以上の召喚人が従事しているの。レベルもそれなりに上がっていて、お得意様も固定されちゃっているし、今から参入しても苦労するだけかも」
なんとなくわかった。各国で若者の行方不明事件が騒がれ始めて半年。つまり、自分は他の召喚人に比べ半年遅れたことになる。オンラインゲームでも半年遅れての開始だと、生産職でやっていくのはとてもきびしい。それと同じことなのだろう。
「錬金術士はポーションなど消耗品を作っているからそれなりに需要はあるのだけど、今はもう
うーん、確かに……ゲームでもポーションはすぐに値崩れしていたなぁ……
「ほかにはないですか?」
一応、訊いてみる。
「そうねえ……盾職人なんてどうかしら?」
盾職人?
「盾職人を選んだ召喚人はまだ数人だし、いまから参入してもイケるんじゃないかなぁ?」
盾かぁ……ちょっと地味だけど、盾は比較的消耗品だし、それなりに需要があるかも……競合相手が少ないのも魅力的だ。
「うん、それじゃ、盾職人にしようかな?」
「おっけ~い! それじゃ、盾職人としてのスキルを授けま~す」
えっ? もう?
「いや、もうちょっと考えさせて……」
「他の人たちから半年遅れの召喚になるから、ハンデを補う救済処置として、レベル五十までは獲得経験値十倍特典もプレゼントするね。それじゃ、がんばって~」
獲得経験値十倍特典?
「あの、だからもう少し――」
ボクの声はどうやら届かなかったようだ。
突然、視界がホワイトアウトして――
次に目を覚ました時、ボクは教会の中にいた――
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