狂人

「神崎……」


 一条は神崎を睨みつけた。

 すると、神崎はわざとらしく怯えた振りをした。


「そんな目で僕を見ないでくれよ~! 体がブルブル怯えちゃうじゃないか! てか……なんで怒ってるの?」

「俺のどこが気に入らないんだよ! 神崎!」


 すると、神崎はニヤリと笑った。


「だって……君みたいなモブキャラがセリナちゃんのような超絶美少女と付き合っているのがありえないし、許せないんだよね~。あっ、それと……単純にモブキャラの君のことが大嫌いだからだよ! だから、僕は考えたんだ……ここで君を自殺に見せかけて殺せば、復讐を果たせるし……セリナちゃんは僕のものになるってね!」


 神崎は自信満々に言った。

 その言葉を聞いた瞬間、一条の中で何かが弾けた。


「ふざけんな!!」


 一条は勢いよく走り出すと──神崎に向かって拳を振るった。だが、あっさりと躱されてしまい、逆に蹴りを食らってしまった。


「ぐふっ……!」


 一条は腹部に痛みを感じながらも、すぐに立ち上がって神崎に向かって行く。だが、その攻撃も容易く躱されてしまい──カウンターを受けて吹き飛ばされてしまう。


(くっ……なんて速さだ……!)


 一条はすぐに立ち上がって構えを取った。

 そして、再び攻撃を仕掛けるが──神崎に当たる気配が全くない。

 すると、神崎は笑みを浮かべると──一瞬で一条の間合いに入ってきた。そして、拳を突き出す──それを間一髪で一条は躱すことができたが、今度は回し蹴りを食らいそうになったので咄嗟にガードした。しかし、衝撃を抑えることができずに、一条は吹き飛ばされてしまった。


「うぐっ……!」


 一条は倒れたまま起き上がろうと試みたが──体に力が入らず、身動きが取れなかった。


「あれれ~? もう終わり?」


 神崎は笑みを浮かべながら、ゆっくりと一条に近づく。


 そして──神崎は一条の首を両手で絞めた。


「ぐっ……」


 一条が苦しそうに顔を歪めると、神崎は愉快そうに笑った。


「あ~、いいねぇ……君が苦しんでる表情を見れて、僕は最高に幸せだよ!」


 神崎はそう言いながら、さらに力を込めてくる。

 一条は必死に抵抗したが──ビクともしなかった。


(やばい……このままじゃ……!)


「あははっ、苦しそうだねぇ!」


 神崎は笑いながら力を込めてくる。


 すると──一条の意識が徐々に遠のいていった。


(くそっ……ここまで……なのか……)


「じゃあね、モブキャラくん! セリナちゃんは僕が幸せにさせるから、安心して逝っていいよ!」


 すると、一条は突然笑いだした。


 そして──不適な笑みを浮かべながら口を開いた。


「お前ごときが……セリナさんを……幸せに……できねぇよ……バーカ!」

「はぁ? 何言ってんの? 頭おかしいんじゃないの?」


 神崎は呆れ顔になったが──次の瞬間、目を見開いた。


「うっ……!?」


 一条は神崎が首を絞めている腕を摑み、強引に引き剥がしたのだ。そして、そのまま一条は回し蹴りを放った。だが、神崎は辛うじて躱すと──距離を取った。


(なんだ……今の力は……!?)


 神崎が困惑していると──一条は呼吸を整えながら口を開いた。


「お前の攻撃は軽いんだよ……」

「なっ……なんだと……!」


 神崎が動揺していると、一条は構えを取った。


「今度はこっちの番だ」

「この……調子に乗るなよ……モブキャラがぁぁぁぁぁぁぁ!!」


 神崎は怒りの表情を浮かべると、再び距離を詰めてきた。そして──素早い動きで一条に攻撃を仕掛けてきた。だが、一条はその攻撃を躱すとカウンターを決めた。


「ぐあっ!?」


(何なんだ……コイツ!?)


 神崎は信じられないといった表情を浮かべながら後退するが──すぐに体勢を立て直した。

 そして、再び一条に攻撃を仕掛けるが──全て躱されてしまった。


(くそっ! なんで……なんで当たらないんだよ!?)


 神崎が焦りの表情を浮かべていると、一条はニヤリと笑った。


「さっきまでの威勢はどうしたんだよ? 犯罪者予備軍の神崎く~ん!」

「くっ……! 黙れぇぇぇぇぇぇ!!」


 神崎は叫びながら殴りかかるが、一条はいとも簡単に受け止めた。

 

 そして──そのまま神崎を投げ飛ばした。


「ぐはっ……!」


 神崎は勢いよく地面に叩きつけられた。

 だが、すぐに起き上がると、再び一条に攻撃を仕掛けてきた。


「うおぉぉぉぉぉぉ!!」


 しかし、一条はその攻撃を躱すと──神崎の顔面に拳を叩き込んだ。


「ぐはっ……!!」


 神崎は地面に倒れると、動かなくなってしまった──どうやら気絶してしまったようだ。


 一条は大きく息を吐く──すると、神崎が目を覚ました。


「うぐっ……このっ……!」


 神崎はフラフラになりながら立ち上がろうとするが──再び倒れてしまった。

 神崎は悔しそうな表情を浮かべながら、一条を睨んだ。


「クソッ……ふざけるな! お前みたいなモブキャラに、僕が負けるはずがないんだ!」

「はっ、その台詞セリフ……何回言ったら気が済むんだよ」


 一条が鼻で笑うと、神崎はギリッと歯を鳴らした。


「くそっ……くそぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 神崎は地面を殴りつけると、ゆっくりと立ち上がり──一条に殴りかかってきた。しかし、一条はその攻撃を難なく躱すと、カウンターを決めた。


「ぐはっ……!」


 神崎は再び地面に倒れると──悔しそうに一条を見つめた。


「くそぉ……この僕が負けるなんて……ありえないだろ!!」


 すると、神崎は急に笑い始めた。


 そして──狂ったように叫んだ。


「あはははははっ!! そうだ……僕がこんなモブキャラに負けるわけがないんだ! 僕は誰よりも優れているんだ! 僕は特別なんだ! だから……僕の思い通りにならない世界なんて、壊れてしまえばいい!!」


 神崎は血走った目で叫び、ゆっくりと立ち上がると──ポケットからカッターナイフを取り出した。

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