イギリスから転校してきた美少女は、どうやらクラスカーストの底辺である俺に一目惚れしたそうです

神楽坂リン

プロローグ

 公園のベンチに座っている少年は、土砂降りの雨に打たれながらボソッと呟いた。


「青春ってなんだよ……」


 彼の名前は一条悠人いちじょうゆうと──高校2年生である。彼は現在、恋愛に対して多大なるトラウマを抱えていた。

 高校に入学してから2年間、彼が付き合った異性の数は0人。

 クラスカーストの底辺である彼は、青春なんて夢のまた夢であった。


「なんで……どうして俺はこんな目に……」


 一条は泥だらけの制服を着ながら涙を流した。勉強もスポーツもできない彼の唯一の武器は、並外れた容姿ルックスだけだった──しかし、彼はその武器を使いこなせずにいた。


 一条のルックスは、平凡な彼の平凡さを一層際立たせていた。


「クソッ! あのイケメンどもめ……! さぞかし楽しい高校生活を送っているんだろうなぁ!」


 一条は同じクラスの男子たちを憎みながら呟く。彼はクラスでカースト上位の生徒たちが、一条をバカにしているところを偶然目撃してしまったのだ。


 その日から一条は、彼らに復讐することを誓った──はずだったが……。


「もういっそ死んだ方が……」


 一条は自殺すらも考えているほどだった。

 しかし、彼にはそんな勇気すら持ち合わせていなかった。


「クソッ! 俺の人生は一体何なんだよ!?」


 一条は頭を抱えて叫んだ。


「はぁ……」


 一条は大きなため息をつくと、空を見上げて呟いた。


「神様……もし本当にいるなら、俺の願いを聞いてください──」


 その願いは誰の耳にも届くことなく、ただ雨音に掻き消されていった。


◇◆◇◆


 翌日──一条は昨日とは打って変わって、晴れ渡った空を眺めながら学校へ向かっていた。


「ふわぁ……」


 大きなあくびをする一条。

 昨日、あんなことがあったからだろうか、一条は一睡もできなかった。


(昨日は最悪の1日だったな……)


 そんなことを考えながら歩いていると、あっという間に学校に着いてしまった。


 教室に入ると、クラスメイトたちが何やら騒いでいた。


「おい、聞いたか? 転校生が来るらしいぞ!」

「マジかよ! 女の子かな?」

「可愛い子だといいな!」


(転校生……?)


 一条は思わず首を傾げる。


(この時期に転校なんて珍しいな……)


 そう思っていると、チャイムが鳴って担任の桜坂先生が入ってきた。


「みなさん、おはようございます! 今日はみなさんに嬉しいお知らせがあります!」


 桜坂先生が笑顔でそう言うと、教室中がざわつき始めた。


「先生! 転校生ですか?」


 クラスメイトの一人が尋ねると、桜坂先生は嬉しそうに頷いた。


「はい! その通りです!」 


 クラスメイトたちは歓声を上げる。


 一条は窓の外を見ながら思った。


(転校生か……一体どんな奴なんだ?)


 すると、桜坂先生が教室の入り口に向かって声をかけた。


「じゃあ、入ってきてください!」


 その言葉と同時にドアが開き、一人の少女が入ってきた──その姿を見た途端、生徒たちは静まり返った。

 長い銀髪に透き通るような碧眼──そして、人形のように整った顔立ちの少女だった。


「皆様、初めまして。私はイギリスから引っ越してきました。セリナ・アルヴァレスと申します。どうぞよろしくお願いいたします」


 セリナと名乗った少女は、優雅にお辞儀をして微笑む。


(すげぇ……)


 一条は素直にそう思った。

 今まで生きてきた中で、こんなにも美しい少女を見たことがなかったからだ。


「じゃあセリナさんは、一番後ろの空いている席に座りましょうか」


 桜坂先生がそう言うと、セリナは「はい」と言って微笑んだ後、長い銀髪をなびかせながらゆっくりと歩き始めた。


 そして、一条の隣の席に座った。


(お、俺の隣かよ……!?)


 一条がそう思っていると、セリナはチラッとこちらを見て微笑んだ。


「よろしくお願いします」

「お、おう……」


 一条は頰を赤らめて返事をする。


 すると、教室中が再びざわつき始めた。


(一体どうしたんだ?)


 不思議に思った一条は辺りを見渡すと、クラス中の視線が彼に集まっていた。


「どうしてあいつの隣なんだよ……」

「一番ありえねぇ……」

「人生終わってる奴の席が隣で、かわいそすぎんだろ……セリナちゃん」


 クラスメイトたちは口々にそう呟いていた。


 すると、桜坂先生がパンッと手を叩いた。


「は~い! みなさん静かにしてください! 朝のホームルームを始めますよ!」


 その言葉で教室は再び静かになった。


「では、朝のホームルームを始めます──」


 桜坂先生は笑顔でそう言うと、出席簿を開いて話を始めた。


◇◆◇◆


「終わったぁ……」


 放課後──一条は机に突っ伏して呟いた。


(今日も最悪の1日だったな……)


 そう思いつつも、どこかホッとしている自分がいることに気がつく。


(まさか、あんな美人な転校生がよりにもよって俺の隣の席なんてな……)


 そう思いながら一条は顔を上げると、目の前にセリナが立っていた。


「うわあっ!?」


 一条は驚いて椅子から転げ落ちた。


「だ、大丈夫ですか!?」


 セリナは心配そうな顔をして、一条に手を差し伸べた。

 一条は差し出された手を掴むと、ゆっくりと立ち上がった。


「あ、ありがとう……」

「いえ、お気になさらず!」


 セリナはにっこりと微笑む──一条はその笑顔に思わず見惚れてしまった。


(可愛い……)


 そう思いながらも、一条は慌てて目を逸らす。


 そして、話題を変えるためにセリナに話しかけた。


「えっと……セリナさんだよね?」

「はい」

「どうして俺のところに来たの?」


 一条の質問に、セリナはキョトンとした表情を浮かべた。


 そして、頰を赤らめて答えた。


「えっと……それは……」


 言い淀むセリナを見て、一条は首を傾げた。


(ん?)


 すると、セリナは恥ずかしそうに口を開いた。


「あなたと……お友達になりたくて……」

「え……?」


 予想外の答えに、一条は困惑する。


「ダメ……ですか……?」


 不安そうな表情で見つめてくるセリナ。

 そんな表情を見て、一条は慌ててこう言った。


「いや! そんなことないよ!」

「本当ですか!?」


 セリナは嬉しそうに微笑むと、一条に右手を差し出してきた。


「これからよろしくお願いしますね! えっと……」

「一条悠人……」

「一条くんですね! よろしくお願いします!」

「あ、ああ……よろしく……」


 一条は戸惑いながらも、セリナの手を握り返したのだった。

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