第9話 ザマァ返しされた令嬢 ミザリー・エンドの場合その1

私はミザリー・エンド

エンド子爵家の正妻の長女として生まれ

ミシェランド公爵派閥の中から厳選され、レイナルド殿下の側近候補として学園にいる間は、お側でお遣いしておりました


派閥のトップのミシェランド公爵令嬢が学園に入学するまでは、私が殿下をお守りするのが使命でございます。

私は順調に学園へ通っていました


レイナルド殿下の婚約者候補 マリーウェザー・ハインツ

そう、殿下の周りをウロチョロする生意気なちんちくりんを少し懲らしめようとしただけなのに



あれは2年前…


一回生の乗馬の授業の時です

当時5、6歳だったマリーウェザー

そんな幼児が学園に通うこと自体異例なのです

それなのに自宅から連れてきたな巨大馬に乗ってわざわざ乗馬の授業をしていました。

幼児が学園に紛れ込んでるだけでも目立つのに、白銀の髪に青い目は羨まし……


そうです

くせ毛で赤毛の茶色い瞳の私にはない、煌めくツヤツヤの白銀の髪も宝石の様な青い目も、優秀で優しい兄も、立派な漆黒の巨大馬も…全てが羨ましかった


ほんの出来心たったのです

最初は馬を盗んでやろうと思ったのですがうまくいかず、それどころか盗もうとしたことを咎められました。

生意気な子どものくせにとパチンと叩いたら、あのおチビはあろうことか私の事を罵ったのです


あの幼い声で私を罵るのです


「下から見ると鼻の穴が膨らんでますわ、プクク。他人を罵るときのお顔がミシェランド公爵令嬢と良く似てますこと、他人ひとのモノを欲しがるのは民度なのかしら?あなたも御親戚でらしたのね」(※馬の事)


などと言うのよ!!(※殿下の事だと思ってる)

その場にいた女子生徒が笑いだして、騒ぎを聞きつけた先生や殿下までが私の鼻の穴が膨らんでると笑ったのよ!

忌々しい!今思い出しても腹が立つ!!


そう、ほんの少し懲らしめようと思ったの


マリーウェザーの乗っている漆黒の巨大馬の御尻に針を刺して、ちょっと脅かしてやろうとおもったの


まさかあんな事になるなんて……


マリーウェザーの乗っている馬に近づいたら、レイナルド殿下が庇ったのよ

勢いのまま私は殿下の乗る馬に針を刺してしまった

当然、殿下の馬は暴れて殿下はコントロールを失った。

あわや落馬寸前で先生達が馬を取り押さえて殿下を抱えておろした。

(※殿下の乗っていた牝馬が漆黒の馬にラブだった。殿下はマリーを助けようとはしていない)



私は、無傷とはいえ殿下を害してしまったから退学せざるをえなかった

いくら説明しても分かってもらえなかった


「マリーウェザーは殿下の婚約者候補だと分かってやったのか?」

「幼い令嬢相手にやることか?」

「落馬してたら死んでいたかもしれない大事故だったのだ!自分のしたことが分かってないのか!」

「殿下のお命を危険にさらすなど側近失格だ!」


わざとじゃない、あれは事故だったのよ

ほんの少し刺して驚かそうと思っただけ、落馬するほどの事故になんてするつもり無かった


何度そう言っても私の退学は覆らなかった


荷物をまとめるため学生寮に帰ると、同じ派閥の友達や先輩がまるで別人みたいに冷たい目で私を見てきた…


先輩「鬼女はやることが違うわね

あなたのお母様が本妻に上り詰めた時と同じじゃない」


「何の事よ!!」


先輩「あら、知らないの?有名な話しじゃない!

ライバル達に毒を盛った本妻がいるって。まるで鬼のような女が全て追い出してしまったのよね」


「言いがかりはやめてよ!お母様がそんな事をするはずないじゃない!」


先輩「子爵の手つきメイドが妊娠中に冬の薪割りをさせられ流産したとか

第二夫人は領地に押し込められて、最低限の生活費しか出させないようにしてるとか

あなたのお母様の妹が本当は結婚するはずだったのに、煮えた油をあびせて火傷を負わせ、子爵を奪った話しは有名じゃなくて?怖いわぁ」


「嘘よ!いい加減な事を言わないでよ!!!」


先輩「都合の悪いことは言わないで上澄みしか知らないのね?

その手つきメイドも第二夫人も同じミシェランド派の貴族なのにね?

そういう話は伝わるものよ?ミシェランド派の貴族はみんな誰かの親戚だったりするのだから

まぁ、なんて怖い顔をしてるのよ?私まで刺殺されてしまうわ

まだ幼いハインツ公爵令嬢に向かってを刺そうとしたのですって?恐ろしいわぁ」


「違うわよ!針よ!!!」


先輩「あら、本当に刺そうとしたのね………いくら何でも幼児に針なんて刺したら可哀想よ」

※本当に引いてる


「ハッ…ち、違うわよ!」


それから私は幼い子どもまで手に掛けようとした女として噂が広まった…


寮の食堂で食べる気にならなくて、侍女に部屋まで持ってこさせようと待ってたのに、中々帰って来ない!

どこで遊んでるのよ!使えないわね!


夜遅くになって侍女がボロボロになって帰って来てきた


侍女「うぅ~グズッ…お嬢様、申し訳ございません……学園のロッカーの荷物を整理してたのですが…」


侍女の手にはボロボロになった私の教科書や着替えの服が!?


「これはどういう事よ!?」


侍女「同じミシェランド派の子息達が…

お嬢様のせいでミシェランドの品位が下がったと言って荷物をズタズタにして…殴る蹴るをされて…グズッ、イタタ…」


「泣きたいのはこっちよ!早く食事の用意をしてちょうだい!お前が遅いせいでこんな時間まで何も食べられなかったじゃない!!」


その時は侍女が吐くほど蹴られたなんて知らなかったし、気にしてられなかったのです

今思えば悪いことをしたと思ってるわ、退学するんだから教科書がどうなっても関係なかったのに。


数日後に実家から馬車が来て、寮のスタッフと侍女と馬丁が荷物を馬車に積んで帰った。

私が寮を出るのは授業をしてるときだから、誰も見送りに来なかった…。

殿下の側近に選ばれた時は、あんなにすり寄って来たのに

仲が良かったクラスメイトも年上の従姉妹もみんないなくなった。


学園都市ミネルヴァを馬車に揺られて眺めてると、父方の遠い従兄弟(同い年)のジェイコブが見えた。

いつの間にか、お昼休みの時間になっていたみたい、学食はいつも混んでいて、山の上の学園から降りてきて街でお昼を食べたりする生徒もいた。


「馬車を止めなさい!!早く!止めなさい命令よ!止めてよ!」


侍女「お嬢様!?忘れ物ですか?」

馬丁「え!ちょっと待って下さい迂回します」


「止めなさい!早く!」


オロオロする侍女と怒鳴られて面倒そうな顔をする馬丁



…――ジェイコブ・サザーランド子爵子息

ジェイコブは父方の遠縁の親戚で婿に丁度良く、エンド家としては婿候補の1人であった

幼少期は親戚付き合いがあり、公爵領の領都にあるエンド家の館では顔合わせをよくしていた。

今でこそ細マッチョだが、幼少のジェイコブはヒョロヒョロで頼りなかった


―回想―

幼児ジェイコブ「エンド嬢、ごきげんよう」


「あら、ジェイコブじゃない

またサザーランドの田舎から出てきたのね、あなたの家は田舎すぎて王都にもここにも遠いから、来るのが大変なのですって?

無理して出てこなくて良いのよ、貧乏貴族だもの田舎に籠もってなさいよアハハ」


ジェイコブの実家はミシェランドの中でも北寄りで、冬は雪が積り度々農作被害に見舞われていた。

エンド家は遠縁ではあるが、サザーランド家を下に見ていた。

サザーランド領が不作で援助を求めると、無下に断り、財政難と知ると早々に婿候補から外し無視した。


細々と暮らしていたサザーランド家に転機が訪れたのは最近のこと


(※マリーウェザー発案の)

温泉街で高級宿に使うと、商人の間でサザーランドの木材に人気が出た。

商人達は派閥より利益優先な所があるから、派閥など関係ないと、どんどん注文が入った。

温泉街に隣接していて近かったのも幸いした、冬に入って雪がチラついても注文が止まらなかった。

木材の値段を釣り上げてもどんどん注文が入った

賢い商人の入れ知恵でサザーランドの木材はブランド化されて評価されることになった


そして、雪が積もる頃に領主夫人から(※コンスタンツェのこと)大量の木材注文が入った。


木材の価格高騰に乗じて、冬の道の往復代金もふっかけて時価の倍の値段で取り引きできた。

商人の往来も増えてサザーランドは潤った

春の宴でサザーランドが評価されるとミザリーはジェイコブが欲しくなった。


幼い頃とは違い14、5歳のジェイコブは体躯が良く背も伸びて立派な好青年になっていた。



…――馬車を降りて走る

「ジェイコブ、待って!私よミザリーよ!待ってぇ!」


ジェイコブはマリーウェザーの兄、その派閥と親しくしてる貴族と一緒に歩いていた。


ミシェランド派の貴族なのに、親が他の派閥と取引してるからって、ジェイコブも苦労してるわね。

田舎風のそばかす顔は気になるけど、まぁいいでしょう。私は心が広いからそれくらいは許しましょう、ふふん


ジェイコブ「エンド子爵令嬢…何か御用かな?」


「そんな、貴方まで私に冷たくするの?

どうしてよ!昔は婚約者だったのに!領地が潤ったからって手の平を返して!」


ジェイコブ「手の平を返して来たのは君のとこの親だろ?

財政難で困ってる時に何もしてくれなかったじゃないか。それどころか、田舎の貧乏貴族とみんなの前で笑ってただろ?覚えてないのか?

ふぅ、エンド子爵はうちが儲かってると分かったら金をせびりに来たんだぞ」


「なんですって!適当な事を言わないでよ!!」


フレッド「ジェイコブ、僕らは先に戻るよ。

あのさ、表通りで目立つからどこか店にでも入って話せよ?じゃあまた明日」


ジェイコブ「すまない、また明日……ハァ

悪いが君と店に入るつもりはない、往来で大きな声をあげないでくれ

君とは、遠縁で幼少期に候補に上がっただけ。婚約者でも何でもない!

私たちの間には親戚付き合いですら最近まで無かっただろ?いい加減な噂を流すのはやめてくれないか?迷惑だ!」


「何よ!昔はわたしのこと好きだったくせに!」


ジェイコブ「何を言ってる?君を好きだった事は1度もない。昔から傲慢で人を見下す所は君の父親そっくりで嫌いだった」


「なんですって!いつ私が人を見下したのよ!お父様だってそんな事はしてないわ!

それにこの前まであなただって温泉街を馬鹿にして笑ってたじゃない!

自分だけいい子ぶらないでよ!」


ジェイコブ「君は幼い頃は、いつも従兄弟たちを侍らせて私を田舎者だと嘲笑っていただろ?忘れたとは言わさない。

それに私は君とは違う

悪いことを反省する機会が与えられた、私は彼女に救われたんだ。今後も自分の意志でマリーウェザーに着くよ

長いものには巻かれろ、波には乗れと言うらしい

遠い親戚より近くの友達マリーウェザーだ。

こんな所を誰かに見られて噂になっても困る、君は少しは自分のしたことを反省した方がいい。

遠縁のよしみて助言するが、これが最後だ。

もう行く、さようならエンド子爵令嬢ごきげんよう」


「ジェイコブ!待って、昔からあなたが好きだったの!お願いよ、私と結婚してよ!

あなたの為なら何でもするわ!好きなのよ!」


ジェイコブ「…話しを聞いていたか?

私は昔から君が嫌いだったんだ

"田舎の作物は育たないのね、小さいままじゃない"

覚えてるかい?君が私を裸にして従兄弟たちと笑った時のセリフだよ。

君は忘れてるようだけど私は君の家に行くのが苦痛で仕方なかったんだ。

家のために我慢したのに、結局援助を受けることが出来なかった…フッ。

エンド家といてもサザーランドになんの利益もない事は昔から変わらない、私はもうあの時の弱い子どもじゃないんだ。

もう君の言いなりにはならないよ、何でも思い通りに出来ると思わないことだ」


侍女「お嬢様…もう帰りましょう。

申し訳ございませんサザーランド子息

ご迷惑をおかけしました、どうかお許しください

お嬢様も今は厳しい立場なのです、どうかご容赦を」


ジェイコブ「ああ、すまないね、もう帰るよ…君も気をつけたまえ」(※侍女の青痣に同情した)


「待ちなさい!言いたいことだけ言って帰るつもり?

いいの?あなたのお気に入りのあのチビにあなたの昔の秘密をバラすわよ?

小さい頃は泳げなくて池のボートの上に放置して泣いてた事や、街に置いてきて泣いて帰って来たことや、うちの番犬に追いかけさせて木から落ちたこともバラすわよ!」


侍女「お嬢様!それだけやらかしておいて何で好かれてると思ってたんですか?めちゃめちゃ嫌われてるじゃないですか

サザーランド子息、大変申し訳ございませんでした!!

このまま帰りますから、マリーウェザー嬢にはお会いしません大丈夫です!お嬢様帰りますよ!」


「私にこんな仕打ちして!ジェイコブッ!!お茶で貴方の事をバラしてやるわ!!」


ジェイコブ「好きにするといい、今や君の話は全てが嘘だとレイナルド殿下も証言された

呼ばれるお茶会があるなら好きに喋るといい

みんな笑ってくれるさ。

君のお陰で、頑なだったスコット殿(※マリーウェザーの兄)が同情的に見てくれるようになった。

警戒が大分薄れて以前より距離が近づいたのだ、君には感謝してるくらいさ、もう二度と会いたくないがな。

クスッ…君って本当に鼻の穴が広がるんだね

笑いを耐えるのに苦労したよ、ごきげんようアハハ」


「ジェイコブ!待ちなさい!よくも私にそんな事を言ったわね!お父様に言いつけてやるわ!」


侍女「お嬢様!帰りましょう、お嬢様!

ダンさん!手伝って下さい」(※馬丁)


それから馬丁と侍女に馬車まで戻されて家まで帰って来た


いつもなら私が帰って来くる知らせを聞いたら、屋敷の人間が出迎えてくれていたのに……


執事に呼ばれ書斎に行ったら、お父様には鼻血が出るまで殴られて

お母様には泣き叫ばれて「貴女なんて生むんじゃなかった!!」と叩かれ、口の中が切れた。


叩かれるとこんなにも痛いのね…

マリーウェザーの幼児のプニっとした柔らかいほっぺたは、叩いても痛くないと思って、思いっきり叩いてしまった。

泣きもせず反論してきて生意気だと思ったけど…

私には反論出来なかった


それから正妻の長女だから家から追い出すと外聞が悪いし、でも社交界では尾ひれがついたとんでもない噂になってるからもう外には出られなくなった。


お母様がお茶から帰って来て、何を言われたのかまた叩かれて泣かれた…

侍女が間に入って代わりに打たれていた

泣きながら謝っていて、お母様の気の済むまで殴られていた


私はそれをどこか他人事のように眺めていた

こんなこと現実にあるわけがない、これは夢をみてるのよ、早くさめないかしら……


母親「ハァ、ハァ…ミザリー、私はメアリージュン(妹)を連れて実家に帰るわ

あの人が妾とその子どもを屋敷に招くと言うのよ

私たちの居場所はもうここにはないのよ」


「お母様!妾とその子どもがいてもいいではありませんか!親切にして優しくしてあげれば!

その子どもは私達の弟でもあるのでしょ?」


母親「おめでたい頭になってしまって、ミネルヴァで何を学んできたの?

意地汚い平民の血を引く子どもが弟?馬鹿を言うんじゃないの!

そんな子どもが跡取りになったら私も貴女も追い出されるのよ?

ここはもう私のたちの家ではなくなるのよ?」


「弟の補佐をしたら良いではないですか!」


母親「補佐ね、貴女に何が出来ると思ってるの?

領地には旦那様より優秀な弟(伯父さん)がいて、その家族が仕切ってるのに

長男だから跡取りになれた旦那様と違って、あちらは本当に優秀なのよ?

子供も優秀でしょうね、馬鹿をしたあなたと違って…それにとても残酷なのよ

あなたと一緒によくヒョロヒョロの子どもを虐めてたでしょ?(※幼少のジェイコブのこと)

楽しそうに、あなたに次の意地悪を提案してたじゃない。

今帰ったらあなたが同じ目にあうわよ

私は実家に帰るわ貴女はどうするの?」


「私は……」

どうしたらいいの?お母様の実家についていってもいいの?


母親「この家には残れないわ

妾が貴方を追い出すでしょうね…貴女は彼女がここにいた時にいやがらせしてたから。

せめてカレッジを卒業していてくれたらまだ嫁ぎ先もあったけど…無理ね」


「嫁ぎ先?」


お母様は憔悴しきって部屋を出ていった


「私はどうしたら良いのかしら…」


侍女はお母様に殴られ顔が腫れていて鼻血が出ていた、私を庇って…馬鹿みたい

そう言えば今更だけど気になった、このそばかすの侍女の親は貴族だったりするのだろうか?


「ねぇ、サシャの親は何をしてる人なの?」


侍女「え?私の両親は病気で亡くなってます」


「そうだったの…ごめんなさい」


侍女「いえ、私には兄も姉もいますから。

父が商人で母が伯爵家の次女でした

母に一目惚れした商会長の父と恋愛結婚したそうです。

お嬢様、私の事はいいのです、どうかお気になさらず。

私の兄が商会の跡取りで、姉も商家に嫁いであの温泉街で宿屋を営んでます

あっ、温泉街で稼いでも、ふっかけたりとかやましいことなんてしてません!

姉が将来は温泉街の宿で雇うから貴族の侍女の経験を積んで来なさいと言って送り出してくれました。

私の身元もしっかりしてるので、奥様がお嬢様とミネルヴァに行くことを許して下さって」


まさかこのそばかす娘には伯爵家の母がいたなんて!


しかもあの温泉街に宿を出してるなんて豪商じゃないの!


「何よ!何よ!伯爵家の母を持っていてもお前は平民じゃないの!調子に乗らないでよ!

何が恋愛結婚よ!貴族に生まれたら恋愛結婚なんて出来無いのが当たり前よ!」


「申し訳ございません!失礼します!」


お母様がお父様に実家に帰る話しをした晩に、引き止められなかったわと小さく呟いていた

お父様は妾と息子を屋敷に呼び戻せると喜んでいて、7歳になる誕生日にお披露目を行うと言っていた


私はお父様から、いないような扱いを受けていた。

サシャはあれから寝込んでいて、熱が引いたらすぐに実家に帰ってしまった、馬丁が勝手に送ってしまったのですって!(※良心から逃がした)


帰る家があるって羨ましい

そこで気がついたこの家にはサシャ以外の味方なんていなかったことが

夕食に食堂へ行っても私の分は無かった

(※自分でいらないと言ったのを忘れてる)


泣いて抗議した

「お父様酷すぎます!貴方がマディリーンお嬢様の邪魔者を排除しろっておっしゃったのに!」

(※ミシェランド公爵令嬢の事)


父がギョッとして怒鳴った

「ブフッ!まさか本当にやるなどと!その話を誰かにしておらぬな!?

お前は昔から人を嘲笑っていたが…私はお前が怖い。マリアベルが来る前に母親と一緒に出て行ってくれぬか?」(※妾のこと)


なんてこと!…ここは本当に私の家ではなくなってしまったのね


母「いいえ、あなた

ミザリーは連れて行きませんわ!!」


え!?


父「何を言うのだ!お前が腹を痛めて産んだ娘だろう?そこまで非道な母だったとは!」


母「何とでも仰って下さい!貴方のために産んだ娘ですから!来年のアカデミー入学までここに置いてやって下さい!」


お母様が座って頭を下げた(※土下座した)


母「後生です、どうかこの子に最後のチャンスを与えてやって下さい!今まで育ててきて多少の情けをかけるなら、お願いですアカデミーに!

あなたの言う通りにした結果なのですから!責任をとって、来年のアカデミー入学までこの家に置いて下さい!」

(※カレッジとは別の貴族令嬢が通う学園)


「…お、母様?」

お母様が私の為に?…目頭が熱くなり涙が出てきた


母「ミザリー、よく聞きなさい!

アカデミーの3年間を問題なく無事に過ごすのよ!そして、貴女を大切にしてくれる方なら誰でもいいから婚約しなさい!

そして、卒業したらこの家には戻らずにそのまま結婚しなさい!

爵位が低くても貴女が幸せならいいのよ

私に付いてきてもこの家以上に肩身の狭い思いをすることになるわ!

貴女は自分のために幸せになりなさい!」


「お母様…はい」



それから一週間してお母様と妹が去る日が来た

見送りに数人の使用人がいて

お母様の実家から付いてきた侍女で私の乳母だったメイリーが

「お嬢様、どうしても辛ければ私宛にお手紙を下さいませ…私はお嬢様が心配でなりません

ですがここに残ることもできません、私の息子夫婦は王都にはいませんから、私は公爵領の田舎に帰ります。お嬢様お元気でお過ごし下さい」


妹「ハァ…ごきげんようお姉様。

ようやくこの家から出られるわ(ボソッ)」


母「妾風情に負けないでね、貴女の幸せを祈ってるわ」


「お母様…グズッ…オテガミを書きます」



そして図々しくも、その週末に妾が来た

25歳でまだ若い女は薄いグレーの髪に茶色の瞳をした冴えないマリアベルだ


メイドとして雇ってやったのにお父様を誑かして、まんまと男児を産んだ

髪の色と目の色がマリアベルと同じで顔立ちは父の面影があった


マリアベルは私を見て驚いた顔をしてから父にこう言った

「旦那様、ミザリーお嬢様がいらっしゃるわ?

嫌だわ、お手紙には2人とも出て行ったと書いてあったのに勘違いかしら?」


父「来年アカデミーに入れるまで置いておく事になった、その後はそのまま家を出るのだ我慢しろ」


「では、来年まで領地にいますわ

私達がいてはお嬢様も心が休まらないのではなくて?」


少年「お父様、こちらはどなたですか?」


父「おお、ミッチェル!大きくなったなぁ

また一緒に暮らせるぞ!」


少年「お父様いつもお会いするたびに同じ事を言います。王都のお屋敷にはたくさん本があると聞きました、楽しみだったのです」


父「この貴族街に図書館もあるのだ、ミッチェルは本が好きで賢いのだな」


少年「お父様がいつも本を送って下さるので、よく母上に読んで貰ってます」


父と子ミッチェルが仲良さそうに談笑していて

母マリアベルがそれを微笑ましそうにながめてる

私に気がついたマリアベルが気遣わし気な目を向けてくる

何てことなの!私がこんな目をむけられるなんて


父「ミッチェル、お前の姉のミザリーだ…仲良くしてやってくれ」


少年「お初にお目にかかります、ミッチェル・エンドと申します

僕に姉上がいると聞いてお会いしたいと思っておりました。よろしくお願いいたします」


父「立派に挨拶が出来るようになったな!凄いぞミッチェルは天才だ!」


マリアベル「ふふふっ上手に挨拶出来ましてよ」


同じ部屋にいたくなかった

挨拶もせずにその部屋から出た

これがこれからアカデミー入学まで続くの?

平民女ごときが!許せない、こんな屈辱耐えられない!


それからすれ違う度に無視を続け

食事も部屋で取り、顔を合わさないようにした。

ボロボロの教科書を開いて読むけど、ちっとも頭に入って来ない

私がどうしてこんな惨めな思いをしなきゃいけないのよ!

庭で本を読んでいる異母弟ミッチェルが見えた

お父様が新たに買い与えた本らしい



それから数日がたって明日はミッチェルの洗礼式(※貴族としてのお披露目の儀式の事)

私はお父様に呼び出された

「明日は部屋から出ずに過ごすのだ良いな?」


「まぁ何故ですの?私がお祝いしてはいけませんの?たった1人の弟ですのに」


「弟か…その弟にまだ挨拶もしていないであろう?やめておけ、ろくな結果にならぬ

頼むから明日は大人しくしておけ、そなたのためだ」


「失礼しますわ!」

部屋を出る時にお父様のため息が聞こえた


洗礼式当日、言われた通り部屋にいたら窓から楽しそうな声が聞こえてきた

天気がいいからガーデンパーティーにしたのね

窓辺に近づくとすぐ近くで喋ってるみたい


令嬢1「ねえ、ご存知?

こちらのご令嬢が殿下の婚約者の方を害して捕まったのですって」


令嬢2「んまぁ!それで、何がありましたの?」


令嬢3「カレッジの事件の事ですわね?

私のお兄様が手紙に書いていましたの

殿下の婚約者の見目美しいご令嬢に嫉妬した鬼のような女がナイフを突きつけたのですって!

普段から殴る蹴るの嫌がらせをしたり髪を切ったりしてたみたいですわ」


令嬢2「え?…さすがに嘘よね?」


令嬢1「私が聞いた話では階段から突き落としたと聞きましたわ、それから乗馬中に馬を刺したとも聞きましてよ」


令嬢2「え?乗馬中に?

嫌だわカレッジはそんな恐ろしい所なの?私は来年通いますのに」


令嬢3「大丈夫よ、悪女は捕まってもういないもの!

勘当されて場末の娼婦に落ちたと聞きましてよ!毒婦にお似合いね」


令嬢2「んまぁ、それなら安心ね

私も2人と一緒にアカデミーに通いたかったわ」


令嬢1「貴女は一人娘だもの、諦めてカレッジで勉強さないな」


令嬢3「お兄様に聞きましたけど、ダンスはアカデミーの大ホールでカレッジと合同でしますのよ

来年も会えますわよ

素敵な殿方とお友達になってお茶にさそって下さる?」


令嬢1「んまぁ、友情と見せかけて男を釣るつもり?まるでカレッジの毒婦じゃないのクスッ」


令嬢2「やだぁ、もう怖い事言わないでよアハハ」


令嬢3「クスクス、そんな毒婦なろうと思ってもなれないわよ

私は繊細だもの、他人を刺そうだなんて無理よ」


令嬢1「そう言ってナイフを隠し持ってるのではなくて?」


令嬢2「キャッ怖いわね」


キャッキャウフフと好き勝手言う令嬢達の声が聞こえた!

殺してやる!ふざけた事を!

ハサミを持って再び窓に近づいたら


ミッチェル「よく招待された家で、その家の悪口がいえますね!

姉上はそんな人ではありません!

普段から慎ましく静かに過ごしてます!

貴女達のような人がいるから姉上は外に出れないのです!

無責任な噂で人を貶めるのは辞めてください!

僕は…グズッ姉上がどんな人かまだ知りません…グズッ

きっとカレッジで酷い噂に心を閉ざしてしまったのです!」


令嬢2「大変失礼致しましたミッチェル様

仰るとおりで御座います

今後気をつけますので、どうかご容赦ください

浅はかな事を致しました

私達の事でお心を煩わせてしまって申し訳ありません

本日は洗礼おめでとうございます

精霊のご加護があらんことをお祈り申し上げます。御前を失礼いたします」


1番頼りなく見えた一人娘と言われたその令嬢がしっかり挨拶して去った


私はハサミを落として震えてた

浅はかなのは私のほうよ

あそこでミッチェルが来なければハサミを持って窓から飛び出していたわ

今日はミッチェルのお披露目で人が大勢いるのに

噂の毒婦は本当だったとまた噂されてしまうわ


噂に尾ヒレ背ビレがついてとんでもない事になってるわ…私は来年からアカデミーに通えるのかしら


その日の夕食後にお父様にまた殴られて怒られた。執事が一部始終見ていたのですって


お父様の部屋を出た所でマリアベルに会った

うつむいて通り過ぎる所で声をかけられた


「よろしければお茶をしませんこと?

顔色が悪いわ…お父様に殴られて何か言われたのね?」


「嫌よ!これ以上文句を聞きたくないわ!」


「文句を言われると思ってるの?

今日は疲れたからもう文句も出ないわよ。少しお話しましょう」


通りがかったメイドにお茶の準備をさせてとっとと部屋に行ってしまった

平民女の気遣わしげな視線に腹が立って文句を言ってやろうとお茶に乗った


そして知ってしまった

私のお母様こそが平民を母に持つ男爵家三女だったことが…その後、子爵家の養子になりここに嫁いで来た事を。


お母様は養子先の子爵家で自分がされてきたことをそのままマリアベルにしてきたのだと言う


マリアベル「私は伯爵家の4女ですけど、婚約者もいましたしカレッジを出ていましたわ」


信じられない、伯爵家の4女がカレッジだなんて…

(※跡取り娘や賢い子でなければ、通常は女の子はアカデミーに通う)


マリアベル「けれど婚約者が結婚前に病気で亡くなってしまって、彼の妹が婿を取る事になりましたの。私はお払い箱に…

途方に暮れたときに旦那様が拾って下さったのです

エンド家には男の子がいないから産んでくれまいかと

あの時は婚約者の死に、私も何も考えられなくて、目の前の旦那様の甘い言葉に乗ってしまったの…」


そんな、お母様はメイドがお父様を誑かしたと…


「奥様はそれはそれは反対してお怒りになってね。私を最後まで第二夫人と認めて下さらなかったわ…

私は旦那様の寵愛を得ようとは微塵も思っていないのに、だって旦那様って私のタイプの男性じゃないもの全然!

それに王都で暮らしたいとも思って無かったのよ?

公爵領の田舎の別荘はとても居心地がよかったもの、あそこで生涯を過ごしても良かったのに

貴女の従兄弟のダガート様はご存知でしょ?

とても優しくて親切だったわ

よく家に来てミッチェルに文字や勉強を教えてくれて……まるで兄のように慕っていたのよ?」


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