第7話 追憶の温泉街 ヴラド編
ヴラドが過去の話をしてくれたから夢を見た。
――ここは領地の温泉街だ。
俺は誰かと歩いてるのか?
あっ、手を恋人繋ぎしてる…大きくて暖かい男の手だ。
年頃の女が浴衣姿で男の人と手を繋いで温泉街を歩いてる。それはまさにデートだな!夜の温泉街を歩くなんてなかなか風情があって趣きがいいね。
こんなロマンチストは誰だろう?
手を繋いだ相手を見上げるとヴラドと目が合った
お前かよ!
ヴラド「どうしました?」
「いや、何でもないの気にしないで」
ヴラドは目が合った時に照れたように顔を赤くして笑っていた。
何でもないと言ったのが気になるのかチラチラみてくる。
あのヴラドが青春?誰と?まさか俺と?変な夢だな……
「温泉街はすっかり秋の寒空ですね…寒くありませんか?」
「うん」
夢だし寒くないんだけどね。
手をギュッと握って笑って誤魔化した
ヴラドは照れてるようだ、視線が合うと赤くしてフィっとそらされた
宿屋の明かりが夜の温泉街を照らす、ゆっくり歩いていく
「あら、知らない間に露天商が増えてるわ」
見たけど、お土産に何か買おうか迷ったけど欲しいものが無かった。
誕生日にヴラドがくれたブレスレットをつけていた…
あれ?プレゼントなんて貰ってた?…思い出せない
繋いだ手のブレスレットに気づくと、ヴラドが指で撫でていた。
目が合った時に「付けててくれた」と照れて嬉しそうに笑った。
静かに手を繋いで歩く、照れてるのかヴラドは喋らなかった
ふぅーっとヴラドの吐く息が白かった。
俺が感じてるよりも現実は寒いらしい、ヴラドと繋いだ手は熱かった
「足湯が空いてますね、お嬢様行ってみますか?」
「うん、酒飲んで串焼き食べたい」
「酒飲んで串焼き食べる令嬢プククッ 買ってきます、座ってて下さい」
足湯に座ってヴラドを待つ
夢なのに足湯がちゃんと温かい…体が冷えてる感覚はないのに気持ち良すぎる
少しして、ヴラドがホットワインと串焼きと炙りチーズに燻製肉の挟まったパンを買ってきた。夢だし飲んでいいよね?
夜も更けてきて足湯にいた人が帰って誰もいなくなった。
「もう閉店だと言っておまけしてもらえました」
「炙りチーズにスパイスかかってるね…ハフッ美味し〜!ホットワインによく合うウマッ」
「貴族令嬢が普通に串焼き食べてる……足湯が心地よいです。……チーズうまい」
「ホットワインも美味しいよヴラドもどう?」
「オレも飲んでいいんですか?」
ホットワインのカップは1つしかなかった
間接キッスとか気にしてるのかな?
ヴラドは照れながらワインをとった
「ヴラドもさ、温泉街でデートしてみたかったんだろ?」
「ええ、まぁ…(照)」
「私はヴラドと来れて嬉しいよ?また来年も来ようねー」
青春小僧のヴラドの反応が面白くて、からかって遊んでた
お互い顔が近づいた時に、ほんの軽い気持ちでチュッとした
ヴラドは驚いた顔をする
「なんでキスしたんですか?」
「え?これくらいのなんていつもしてるよね??」
「貴女は…簡単にキスするんですね」
ヴラドのトゲのある言い方に驚いた
「すみません…オレは手を繋ぐのもやっとだったのに。貴女は簡単にキス出来るからズルいです
オレばっかり好きすぎて辛い」
アチャー青春を拗らせすぎ!なかなか面倒くさい性格だな
「私だって緊張したるんだよ?ホラ」
ヴラドの手を取って胸にあてる
ヴラドは驚いた顔をして赤くなり、大きな胸に押しやられた手を握ろうか離そうかモゾモゾしてる。
そしてゆっくり胸に這わすように手で乳を包むと
「全然ドキドキしてませんね?」
当たり前だ、これは女になって知ったことだけどな?胸って脂肪の塊ってよく言うじゃん?
それ本当でさ、大きな血管が通ってるわけでもないし、巨乳ほど脂肪が厚くて邪魔でドキドキ確認できないんだよ。
何となく落ち込んでそうなヴラドを元気にしてあげたかっただけ。オッパイ揉んで元気になったでしょ?
ヴラドの手を俺の首に持って来て触らせる
「ドキドキしてるのわかった?」脈計るならここ
ヴラドが照れてフィッと顔をそらした。それからなかなか視線を合わせてくれなくなったけど、赤くしてチラッチラッとたまに見てくる
俺の顔色を伺ってるらしい、ニコニコしててやるよ!
余裕なさすぎない?こそばゆい青春してるんだなぁ…
足湯から出る時も、ヴラドは何も言わずに跪いて俺の足を拭く
時おりチラッと見上げてきては視線をそらす
そして、顔をそらしたまま手を差し伸べてくる
「こっち見てくれないと手を繋いであげないよー?」
とか言いつつ手を繋いだ。もちろん恋人繋ぎで
ヴラドは手で顔を隠しながらチラリと振り向く
「意地悪しないで下さい…胸が苦しい。今この瞬間が永遠に続けばいいのに。
幸せ過ぎて、失ったらと思うと怖くなります」
学生の頃の付き合いたての時ってこんな感じだったなぁ
「今よりももっとお前の事が好きになるよ」とか言ってキスしたりしてたわ
してあげようじゃあないか!
背伸びして背の高いヴラドの肩に手を回して抱き寄せると唇を軽くチュッとくっつけてすぐに離した
「好きですマリーウェザー」
今度はヴラドが少しかがむようにして赤くなった顔を寄せてきた
腰と頭を押えられて、既にのぼせたような、物足りないって顔しながら唇に噛みついてきた。
なんて荒っぽいの、余裕なさすぎ!
舌を絡めて大人の深いキスに持ち込む
唇が切れたのか、ほんのり甘く血の味がする。これが夢なのを忘れそうだ
何度も角度を変えてチュッチュして、チュヴァッと糸引く腰が抜けそうなキスをした。
唇を長い舌でペロンと舐められた
「ハァ…なんて顔してるんですか!襲って欲しいって顔してますよ、往来でさらすなんて馬鹿なんですか!」
「散々やっといて?」
「オレがさせた?!エロくて可愛い顔です自覚ありますか?」
周りに見せないようにぎゅーっと抱きしめてきたから、こっちもぎゅーとやり返すが男の胸って何でこんな硬いんだ!腕が疲れるわ
「オレ、マリーウェザーがいないと死んでしまいます」
抱きしめ合ったまま、ポツリとつぶやいた声は小さいのに力強くて少し震えていた
ヴラドのドキドキが胸から伝わってくる、気の済むまで抱きしめ合っていた
「今日のことずっと忘れない、好きだよヴラド」
「今、貴女を連れ去ってオレだけのモノにしてもいいですか?他に心を奪われないで、オレだけじゃ駄目ですか?」
断りづらい事この上ない、執事と令嬢の秘密の恋って解ってるのに言うんだから…
仕方ないから俺が悪者になってやるよ!
執事に我がまま言う貴族のお嬢様を演ってやるよ
「いいよヴラド。
抱えて飛んでよ、夜空が続く限り連れてってよ
よそ見なんてさせないから、しっかり捕まえてないとスルリと逃げちゃうよ?」
人通りの少ない路地に入り、ヴラドが吸血鬼の翼を広げて2人で空に舞い上がった。
「この先現れるライバルたちに勝ち続けるのが大変そうです……よそ見なんてしないでオレだけを見て下さい、他の男を好きになったら殺してやります」
「その言葉そっくりそのまま返してやるよ、イケメンが!」
「貴女に殺されるのも悪くないです…オレより長生きして下さい」
「それは浮気宣言ですか?この野郎」
「どの口が言う!屋敷の人達にバレないように気をつけて下さいね?
貴女って意外と顔に出ますから…オレの事こんなに好きになって大丈夫ですかクククッアハハッなんて可愛い顔で睨むんですか」
「むう!完璧に演技して素っ気ない態度だと不安がるくせに!
誰も見てない所で手を繋いで来たり、髪に口付け落としたり、俺に近づく野郎を問答無用で牽制するのはお前だろ?」
「それは…そうですが、貴女はやり過ぎなんですよ!この大根演技!」
「あっそ!全部忘れて無かった事にしてやるよ、どうせ夢だしな?」
「貴女は今日のことずっと忘れないって言ったくせに!!なら、何度でも困らせて、告白して、オレのこと好きになってもらいますよ!
だから何度でもまたオレのこと好きになって下さい…他の男に心奪われたら殺してやる」
「ふふふっ大好きよダーリン。何度でも好きになるわ」
そしてヴラドは夜明け前まで飛び続けた
名残惜しいと言わんばかりの切ない顔で、帰りましょうと自ら言っておでこにチュッとして抱きしめた。
そんな夢を見た……夢だよな?
温泉街の始まり――
雪国の領地、硫黄臭い谷間には近づく者はいなかった。
ここより更に北の大地の領地から逃げてくる貧民・難民達の為に小屋をたてて一日一度の炊き出しをしていた。
そんな難民キャンプ地の近くで温泉が湧いたと知って、前領主の
たくさんいる難民をこき使って…じゃなくて
働きたい難民がたくさんいたから、商人達は安価で雇用してもりもり温泉宿を建てだした。
難民達の多くが自領の民じゃないから、薄給で商人に雇われて働かされてもそこまで心が傷まないよな。
領地の財政を地味に圧迫していた冬の難民キャンプの炊き出しや諸々が無くなり、商人達には温泉組合に入るだけで好きに宿を建てさせた。
もちろん区画整理はしてある。立地の良い場所は競売にかけられ平民でも富豪層の豪商が軒を連ねた。
同じ派閥の貴族のお抱え商人達がこぞって参加を希望して宿や食事処を建設した。
足湯は俺が言い出しっぺだ。日本の観光地にもよくあるけど、屋根とテーブルをつけて温泉街で無料開放した。
難民、貧民、平民、仕事帰りの商人やアルバイトの使用人等がみんな足湯を利用した。
足湯の周りに屋台が並びだして、屋台も温泉組合に入れて、掃除当番や見回りや有料で足拭きタオルの設置なども俺が言い出したらしい
なんか発想がさ、温泉好きで綺麗好きな日本人だよな。
そこへ王都から視察に来た司祭が
難民に仕事を与えて、更に無料開放された足湯にいたく感動して神に感謝と祈りを捧げた。
その司祭は、本物の中の本物だった!
神に愛されし彼は祈るだけで無自覚に足湯に癒しの奇跡と祝福を施した。
司祭は王都に帰ってから教会で信者達に自慢ぶっこいたらしく
"あそこの領地は景気が良いみたいだ、建設ラッシュで元難民だった人達をたくさん雇用していた。平民のために足湯が無料だった。
領地は無料に出来るほど金に余裕があるし、領主は良くできた人だ。足湯は気持ちよかった上に水虫が治ったし足の豆も治った。湯に入ると肩こり腰痛や痔も治りそうだな"と説いた。
真に受けた信者達が噂して【奇跡と癒しの足湯】の出来上がり
以後、王都の貧民も足湯を目当てに温泉街を目指して移動を開始する。
領地の過疎ってた後継者不足の農村や近くの村や町に小銭を稼いだ元難民が定住を初めた。
結婚したりして領民が増えて領地の税収も上がってきた。
噂を聞いて近くの領地や王都からどんどん貧民が来るから安価な労働力は尽きない。
そのうち、温泉街でも正規雇用されたりして領地に税金が落ちてくる。
王都から温泉街までの領地は街道や宿屋に金が落ちる。商人や貴族の行き来が増えて道も奇麗になった。
「ところでさ、ダンジョンの話はどうなったの?領地の温泉街の話も面白かったけどさ」
「え?あぁ、これダンジョンの話ですよ?
領地の温泉街はお嬢様が作った街ダンジョンです」
「街ダンジョンかよ!」マジかよ?!
いや嫌いじゃないよ?街づくりシュミレーション系のゲームもよくやったけどね…ダンジョンってそっちかよ!
ヴラドが街ダンジョンの説明をする
「貧民・難民の陰気に紛れて"人ではないもの"がダンジョンに入って来ました。お嬢様が調伏して守り妖精にしたそうです。
私の来る前の話なので詳しくは…お嬢様がお得意の絵を描いて、そこに封じたそうです。
その絵が素晴らしい聖画のようだったので、人々(貧民・難民)の強い念が集まり、絵に描かれた少女が顕現しました。
今も人々に奇跡を授ける守り神のような存在ですよ」
「絵に描かれた少女が出て来て人々の願いを叶えてるの?俺が描いた絵の少女??」
「温泉に来る客は、貴族か富豪層の人間です。
女の人の柔らかい贅肉を揉みたい"人ではないもの"の願望と贅肉を落としたい人々の願いが一致した奇跡ですね。
そこが街ダンジョンだったのも一因ですが、温泉に入ってマッサージを受けると必ず痩せるんです」
貴族や富豪層のマダムほど贅沢な肉がつくもんな…いや、恐らくほとんどの女の人がこぞって温泉街へ行きたがるだろうな。なるほどカラクリが読めた!
もう勝手にすぐに噂になっただろう
温泉入って痩せた人が自慢しまくって宣伝費いらないね。
毎年痩せに行きたいだろうな、楽して痩せられるなんてまさに奇跡だ!
「お婆ちゃまが高級エステに力を入れるわけだ」
「その発案もお嬢様ですよ?
高級宿の目玉として高級エステコースの提案をコンスタンツェ様(※祖母のこと)にしました。
ヘアサロンとネイルサロンもです。
お嬢様はシミシワの消えるマッサージクリームや艶々シャンプーの開発をロバートさんと競ってました。年々エグい稼ぎ方してますよ」
「うっ…他人事に思えない。お金儲けの嫌いな人間はいないよね」
俺がやってそうだよ…俺の話なんだな
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