< 序章 > - 天照 -
こうして兄弟姉妹や子供たちと共に恒星を周回する日々が続いていた。
何万回、いや何億回という、途方もない回数の周回を重ねていたのだ。
兄弟姉妹の惑星たちは、お互いに大喧嘩して、勝った方が相手を喰らうと言うバトルロワイヤルをしていて、勝ち残った方は順調にドンドン成長していった。
一方、私はと言えば、そんな恐ろしい争いからは距離を置き、独りぼっちの世界で、ただただ彼らから距離をとりつつも一緒に恒星を周回していた。
そして、私の身体はブクブクと、もとい惑星として順調に成長しながらも、退屈しないと言うよりは、気が休まることのない日々を過ごしていた。
そんな私は、自分の認識能力に磨きをかけるべく、暇に飽かせて周囲の探索をしていた。
最初に探索したのは、この星系の中心に鎮座する恒星である。
名前がないのは不便なので、取り敢えず色々考えたが、太陽の神とされる「
この天照、見た目は太陽とそっくりなのだが、その大きさはおそらく倍ほどはあるようだ。
天照が大きいせいなのかは分からないが、この星系自体も自分が知っている太陽系よりもかなり大きい。
太陽系の大きさ自体を肌で感じたことは当然ないが、物の本によると、確か太陽から地球までの距離を十二万五千倍した範囲が、太陽の重力がおよぶ範囲で、これを太陽系と呼ぶと書いてあった。
それを元に考えれば、この天照系の大きさはおそらく、太陽系の二倍以上、いやもう少し大きいかも知れない。こっちは逆に私の肌感覚でしかないけど。
天照系と名付けたこの星系には現在二十数個の惑星が周回している。元々百個近くあった惑星たちは、兄弟姉妹の大喧嘩でその数を減らし、今も時折数を減らしている。
喧嘩に負けた惑星は、小惑星となって公転軌道を周回し始めたり、惑星の衛星や環の元になったりするものもあったが、そのほとんどが跡形もなく完全に崩壊してしまい、勝った惑星の糧になっていた。
こうして成長した惑星たちは、衛星や環を持つもの、岩石惑星や氷惑星、果ては超巨大なガス惑星になっていたりと、言ってみれば太陽系でも見られるような惑星がほとんどだった。ただ、中には奇抜な色をした惑星や、双子惑星、三つ子惑星などの太陽系では見られないものもあり、結構楽しく観察できた。
現在、天照を中心としたこの星系の構成は、中心部から岩石惑星が十三個、ガス惑星が四個、氷惑星が六個の計二十三個存在している。つい先ほど岩石惑星同士が衝突して、この数になった。おそらくまだ減りそうな感じではある。もうこっちには来ないで欲しいけど。
天照系の構成は、太陽系と同じような構成になっているが、特に珍しいのは、岩石惑星群に双子惑星が一組、氷惑星群には双子惑星と三つ子惑星がそれぞれ一組ずつ存在することだ。
そして、ひときわ目立つ存在として、ガス惑星群に巨大なガス惑星が君臨していることである。
木星なんか比較にならないほど巨大で、おおよそ木星の二倍半から三倍弱ほどはあり、その深紅の色は神秘的で高貴な印象を受ける。
この巨大なガス惑星を「
そして私はと言うと、岩石惑星群に存在している。
今のところ天照から数えて十番目に位置しているけど、まぁ明日にはどうなるか分からない。しょっちゅう兄弟姉妹が大喧嘩してるからね。
そんな私は、岩石惑星群に存在する他の惑星たち同様、今は溶岩惑星となっている。ドロドロの溶岩が表面を覆い尽くし、まるで灼熱地獄のような様相なのだ。
そう言えば私の惑星名も決めていなかった。
私の生前の名前を元にしても良いんだけど、星の名前には合わないし、折角転星したのだから、新しい名前をつけたい。
簡単に考えて、私の星と言うことで「私星」とか言うのを思いついたが、さすがにこれはダサいし、「死星」を想起させて縁起が悪い。
ということで、他にも色々考えた。
星という字を使った言葉として、「
他にも「
こうして色々考えた結果、最終的に「桜雲星」と決めた。
読み方は「おううんせい」、英語の「own」に発音が似ているから、「私の星」という意味にも通じるし、日本人の私にとっては好きな言葉だから。
私が日本人だったこと、桜という美しい花を愛して止まなかった心を忘れないためにも、この名前を私の惑星名とした。と言っても誰に教えるわけでもないから、これも完全に自己満足でしかないけど。
現在、桜雲星こと私の大きさは地球の二倍ほどになり、結構大きく育ってしまった。デブではないわよ、デブでは!
また桜雲星には衛星が二つあり、大きい方が月の一倍半ぐらいで、衛星軌道の一番外側を周回し、その内側を周回する小さい方は、その半分ぐらいの大きさで、更にその内側の軌道には環ができている。土星の環ほど立派なものではないが、それでも無数の岩石が円盤状に周回していて、四本の環を形成している。
衛星たちにも名前を付けた。大きい方を「
那岐は鈍い銀灰色した衛星で、表面にはゴツゴツした岩石が多く存在し、クレーターも数多く存在するが、なかにはガラス質の岩石も多数存在するので、天照の光を反射したガラス質の岩石が、宝石のような輝きを放っている。
那美は那岐と違って比較的滑らかな表面をしていて、銀白色に淡い青色が所々混じったような美しい衛星である。那美の表面にもガラス質の岩石が多数存在し、これがやはり宝石のような輝きを放っている。
そして四本の環は、内側から外側にかけてグラデーションで彩られている。
四本の環にもそれぞれ名前を付けた。内側から「
「玄環」は、一番内側の環で、深く濃い青色をした、サファイアブルーとも言える色をしている。一番密度が高く、高比重の岩石が集まっていて、非常に硬い高密度なガラス質の岩石が周回している。
「翠環」は、濃い緑色で、翡翠色とも言える色をしている。玄環よりやや比重が低く、密度もやや低いガラス質の岩石が周回している。
「碧環」は、淡い青色で、澄んだ青空のような色をしている。昼間桜雲星の地上から見上げると透明感が増し、その美しさは群を抜いている。
「晶環」は一番外側の環で、色も淡い青や銀青色、オパールのような色をしている。最も比重が低く、ガラス質の岩石には空洞や気泡が多く交じり、これが天照光を乱反射し、夜間桜雲星の地上から見上げると、一筋の美しい光のラインを見ることができる。
私と那岐、那美、そして玄環、翠環、碧環、晶環の四本の環、これが桜雲家の家族構成と言うことになる。
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