罰ゲームで付き合った彼女が病んでしまって今更別れることができない
椎名喜咲
プロローグ
亮介たちの学校には男子にのみ流行っている『ゲーム』が存在する。
それが、罰ゲームである。
いわゆる、賭け事に似ている。何かしらの出来事が発生する時、亮介たちは一番の敗北者に
罰ゲーム内容は基本的に、誰かに告白する、というもの。亮介たちにとって、なかなかのハードルのあるものである。笑えないのは、この告白する相手が、いかにも
その日、亮介は罰ゲームを受けた。
罰ゲーム内容は、告白。
その相手は、クラスの――否、学校一のイモ女と呼ばれた、
*
ここで勝たねばならぬ。
亮介はそう張り切っていた。
高校二年、夏過ぎて少し。我らがA高校は毎年のように持久走大会が開かれていた。A高校の持久走大会はかなりの張り切り具合を見せる。わざわざ大きな公園を借りて、学年単位での競争にしてみせるのだ。その距離、実に五キロ。殺す気かと叫びたい。
しかし、競争原理に走らない者たちが大勢いるA高校では、実際に本気で目指しているのは一割に過ぎない。九割超に属する亮介は適当に走り、適度な結果に残すことで満足していた。
だが、今回は。
一割の人間として、走らなければならない。悔しさのような、怒りのようなものがこみ上げていた。
『――おい、亮介、わかってるよな?』
記憶の中にいる悪友、西尾が言う。
『――今回の罰ゲームは告白だぜ? お相手はなんとっ、あの草鹿だっ』
『お前らの可能性だってあるんだからな』
悪友数人がけらけらと笑っている。
そう、彼らがつけあがるのもわかるのだ。ここ最近、一ヶ月近く、亮介は罰ゲームを受け続けていた。まさに運の尽き。ツキのなさが目立っていた。あるときは定期テスト、あるときは体育祭の五十メートル走、あるときは告白予想ギャンブル――。連戦連敗。ここで巻き上げなければ。亮介は舌打ちをする。
そもそも。運命の女神とやらは自分に不公平なのではないか、と苛立つ。あの定期テストでも、何故かマークシートの順番をズラしてしまった。ポカミスだ。体育祭の五十メートル走では盛大に転ける。あの、告白予想ギャンブルなど、番狂わせもいいところである。
告白予想ギャンブルとは、ある人物が相手に対して告白するとき、玉砕されるか否かを当てるものだ。
そのとき、告白する相手は伊坂といういかにも暗い男。その相手は高嶺の花の古崎だ。玉砕決定とばかり決めた結果が、大外れ。意外にも当ててみせた悪友たちは笑いながら言う。
『古崎が伊坂のこと好きだっつう噂を聞いたことがあったんだよ』
『んな馬鹿な』
『そう、馬鹿話だ。それにお前は負けた』
このままでは敗北者だ。
だからこそ、亮介は走る。
持久走直前、隣に西尾が立つ。
「よお、告白のモチべは整ったか?」
「負けちゃいねえよ」
「勝ったも同然」
悪友たちも張り切っている。なにせ、罰ゲームはあの草鹿に告白だ。
「そんじゃあ、健闘を祈るぜ」
亮介は笑いながら離れていく。あの高笑いする顔面に一発殴りたい衝動に駆けられる。落ち着け、あれも盤外戦術の一つだ。
――勝負は、始まる前から決まってる。
『ヨォーイ――……、』
ぱんっ、と。
亮介は駆け出した。
亮介はこの数日、自身のトレーニングを怠らなかった。悪友たちには努力の欠片さえみせなかった。その間は煙草も辞めた。勝てる。そのための体力もある。
ペースを整えながら走っていく。前にも後ろにも人が見えなくなった。……なるほど、前は亮介では到底敵わない強者であり、後ろは適当にやり過ごす者だ。本来であれば、亮介は後ろの者たちに溶け込んでいた。
(くそっ……)
亮介は歯噛みしながら、速度を上げた。
ルートは紆余曲折している。曲がることも登ることもある。時折、ルートを指し示す看板があった。その一つ一つに従い、ゴールを目指す。
不意に違和感に気づいたのは、何分頃か。いつまで経ってもゴールが見えてこないのだ。
(どういうことだ……?)
訝しむ亮介はさらに走る速度を上げる。ゴールが見当たらない。どういうことなのか。焦りだす亮介の視界が、ふっと開かれた。
「……はぁ?」
そこは、スタート地点だった。
亮介は足を止めた。周囲を見渡す。人がいない。……いや、一人いた。驚いた顔を浮かべた担任の相崎がいる。相崎はなにしているんだ、と言いたげに亮介に言った。
「おい、なんで走ってない? サボったのか?」
「…………」
まさか。
「…………はぁっ!?」
それから二十分後、亮介の罰ゲームが決定した。
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