第24話 【SIDEセオドア】死を望まれる
ガランドの地は、しばらく開けただけで大惨事だった。
ラジュールもつれて行ってしまっていたために、仕事が溜まり放題だった。
この出来たばかりの街は、管理者が圧倒的に不足している。
ただでさえ領地として転がり込んできたこの場所は、直轄地とは名ばかりで放置されてきた。
国境の戦場としてだけではなく、きちんとした住処として立て直してきたのはセオドアだ。
気が遠くなりそうになりながら必死でラジュールと書類を仕分けし、セオドアは自室のベッドにごろりと転がった。
ため息が出る。
色々あった。
しばらく王都に居たおかげで情報は集まってきた。
しかし結局、公爵にもなってしまった。
相手は確実に自分のことを排除しようとしている。
ずっと目立たないようにしてきたのに、全く意味がなかった。
目をつむり、手で顔を覆う。
呪われたのは久しぶりだ。
セオドアが初めて呪いを受けたのは四歳の時だった。
家族で食事をとっていた時に、急にぐるぐると魔力が暴走を始めたのだ。
「え……なに、これ」
何が起こったかわからずに自分の手を見ると、魔力の渦が見えた。息も苦しい。
慌てて隣の母を見る。
「おかあさま……なんか、ぼく変だよ」
「え、セオドアどうしたの!?」
母が切羽詰まった顔をして近づいてくる。そのまま母に倒れ掛かってしまったセオドアに、母の悲鳴が上がった。
母が何かを必死で聞いてきているようだが、頭の中がぐらぐらとしていて、よく内容が入ってこない。
叫び声が遠くに聞こえ、暗くなっていく視界と意識に死を近くに感じた。
怖くなって必死に手を伸ばした先に、兄がいた。
「ハインリヒ兄さま!」
目が合った。
彼は燃えるような憎しみの瞳で死に直面している自分のことを見ていた。
その瞬間に悟った。
兄は、自分に消えてほしいのだと。
そのままセオドアは三日間眠り続けた。
「ごめんなさい、セオドア」
目が覚めて、最初に目に入ったのは母だった。
「おかあさま……?」
「お母様を許してちょうだいセオドア。でも、二人とも大事なのよ……それだけなの。ごめんなさい……」
「泣かないで、大丈夫」
憔悴した様子で謝る母に、セオドアは自分のこれからをなんとなく悟った。
母は言葉を選びながら、セオドアに説明をしてくれた。
セオドアは多量の魔力を感じ取った兄が雇った呪術師から、呪いを受けたのだ。
兄も幼く甘かったためにすぐにその所業はすぐにばれたが、秘密裏に処理された。
二人とも大事だと泣く母に、これ以上は何もする事ができないのだとわからされた。
自分が死んでも、仕方ないのだと。
この時は王家の呪術師がすぐに解呪することができたが、その後も暗殺は続いた。
皮肉にも、それはセオドアの魔力と能力を伸ばすことになった。
息子同士の暗殺を恐れた母は、セオドアを離宮に閉じ込めた。しかし、それだけでは駄目だった。
結局養子にも出され、表面上家族は他人になった。
それでも状況は変わらなかった。
セオドアは王の座など狙っていなかった。しかし、兄は信じていなかったし、周りの貴族はそんなことは関係がなかった。
あの瞬間の兄の顔。
セオドアは兄を排除しようと思う度に、その顔がよみがえってきて諦めた。
兄をああしたのは、きっと自分だ。
セオドアは自分で醜聞を流し、社交界から離れた。
セオドアを知るものも少なくなり、きっと兄の助けもあり醜聞はあっという間に広まった。
ようやく呪われることも狙われることもなくなった。
王都に居ることが馬鹿馬鹿しくなり、死地と言われるガランドへ行く事に決めた。
「ハインリヒ殿下、行ってまいります」
「頼んだ」
出発の日、ハインリヒを見たのは久しぶりだった。もう兄とは呼ばなくなって久しい。そしてもう兄の瞳は、セオドアを映していなかった。
諦めの気持ちが、セオドアを包んでいた。
セオドアはガランドに向かい、戦場ですべてを忘れるために戦った。悲惨な地だった。
わずかに残っていた国と両親への愛情で、ここで魔物を食い止める為に何でもやった。
戦力のために獣人を受け入れ、戦っているうちにやがて街となった。
結局それが功績となってしまい、地位と土地を手に入れた。
再びの兄の殺意と一緒に。
セオドアはくたくただった。
セオドアを利用しようとする貴族、家族、何もかも、もう仕方ないのかと。
呪われた瞬間、なんて虚しい人生だったのかと。
その瞬間現れたマリーシャ。
あっという間にセオドアを救った。
同じぐらい傷ついている顔をしながら、彼女は諦めていなかった。
「会いたいな」
気が付いたら呟いていて、セオドアは慌てて起き上がり周りを見た。当たり前だが誰もいない。
自分にあきれて、もう一度ベッドに倒れ込む。
こんな風に誰かと会いたいなんて、初めてだ。
一人で生きていこうとしている彼女。強大な魔力を持ちながら、魔術が使えないという彼女。
何故使えないというのかはわからないが、そんな事は関係ないと思った。
嘘が苦手なのか、魔法が使える事を全く隠せていない。
あのままでは家族やハインリヒにばれるのは時間の問題だっただろう。
そうなれば、セオドアが彼女を手に入れることは出来なくなる。
セオドアは最速でマリーシャを迎えに行った。
ハインリヒにどう思われようと関係ないと思った自分に笑ってしまった。
「……早くガランドに来てもらいたい」
どうしても手に入れたいと思った。
彼女は家を出たいという希望を持っていて、あっという間にこのガランドまで連れてくることができた。
驚いたことに彼女のメイドは獣人だ。
それだけで彼女がどんな扱いを受けていたかわかる。
二人で幸せになればいい。
魔術なんて使わなくたっていい。
獣人のメイドを気に入っている彼女なら、ガランドはきっと住みやすいだろう。
「ここにずっと住んでもらうためには……早い結婚が必要だな」
彼女はどうすれば手に入るだろうか。
……まずはこの呪い、それに問題何もかもを、解決しなくては。
危険な自分のもとに来てもらったのだ。危ない目に合わせるなんてできない。
セオドアは起き上がり、もう一度情報を整理するために執務室に向かった。
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