第17話 魔力測定
綺麗な笑みをたたえ優雅な様子で、セオドアがこちらに近づいてくる。
後ろにラジュールも控えていた。
「いえ、わざわざ来て頂きありがとうございます。まずは座って話をしましょう」
父がにこやかにセオドアに挨拶をする。
先程までの不快な空気はどこにもなく、本当に歓迎しているような笑顔は流石貴族だ。
父の様子から見ると、どうやら今日ここに呼ばれていたのはセオドアだったようだ。
まさかセオドアが、ガラント公爵だったなんて……。
私は知らず、彼の姿に安心感を覚えていた。
彼は、ちゃんと来たんだ。
貴族の令息だとは思っていたが、口調が乱れていたのでどのぐらいの階級なのか全くわからなかったけれど、今日の振る舞いは完璧だ。
口調も所作も、優雅で気品を感じるし、堂々とした振る舞いは公爵然としている。
彼の肉体は鍛え抜かれていることが服を着ていてもわかる。胸板は厚く、腹部は引き締まっていて、正装がとてもよく似合う。
それにこの間は具合が悪そうだったのでそちらばかりに目が行っていたが、セオドアはとても格好良かった。
元気そう。
鑑定ではやっぱりまだ呪われてるけど。
このレベルの呪いが解ける人は、なかなかいないよね、呪術者は亡くなっているようだし……。
良くない事だけれど、呪いが解けていない事に少し、ほっとする。
「……お母様、あれがガランド公爵様ですって……? とても格好いいわ」
「本当ね……全く容姿にも隙がないわ。これでガランドを賜った公爵だなんて……好条件としか言いようがないわ」
「噂と全然違うじゃない! こんなの全然野蛮じゃないわ」
「でもきっと中身は最低よ。マリーシャをご所望なのだから」
「それもそうね。これならきっと遊んでいるという噂も本当だわ」
こそこそと二人が話しているのが聞こえてくる。
そういえば、さっき聞いたのは婚約ではなく雇うという話だった。
直接来るのもおかしい。
解呪の算段がついて、私の事をただ便利な道具として迎え入れようとしてるなんてことは……ないわよね?
私が疑わしい気持ちでセオドアを見ていると、彼は通りざまにこっそりといたずらっぽく微笑みかけてきた。約束は忘れていないという顔だ。
婚約は立場上良くないから私を雇うことにしたのだろうか?
思った以上に高位だった為、その可能性は高そうだった。それに、彼なら酷い条件ではなさそうなので、雇ってもらえるならその方がいいかも。
最悪逃げればいい。
生活力がないだけで逃げる事は簡単だ。
そう考えて、まずは様子を見るために成り行きに任せることにした。
私にもちゃんとお茶もお菓子も出てきた。美味しい。セオドアを見たら、味がちゃんとするようになった。
彼を見て安心したと思うと、ちょっと悔しい。
しばらく形式的な談笑をした後、セオドアはラジュールに合図を送る。
「そろそろ、お嬢様の魔力の測定をしても?」
「もちろんです」
「それでは、こちらを」
コトリと私の目の前に置かれたものは、魔力量をはかる魔導具だ。
形は決まっておらず色々あるが、今日彼が持ってきたのは小さいうさぎのような形だった。
かわいい。
昨日も魔導具に魔力を入れたけれど、今日はまだ作業をしていないので魔力は十分にある。
「手を置いて、魔力を入れてください。全て入れる必要はありません。マリーシャ様」
ラジュールが事務的な口調で説明してくれる。
あの日は少し打ち解けられた気がしていたけれど、今日の彼は他人のようで寂しい。
「わかりました」
うさぎの背中の部分にそっと触れる。魔力を少しだけ流すと、うさぎが金色に光った。
ラジュールはそれを確認し、にっこりと笑った。
「素晴らしいです。お嬢様の魔力量は十段階中十です。これなら問題ないでしょう」
何故か彼の言葉が白々しく響き、どう反応していいかわからない。
「じゃあ、マリーシャを雇うという事に、なるのでしょうか。娘はこれから結婚が控えておりますので、期間は短くしていただけると有り難いです」
父が唸るようにそういうと、セオドアがすっと立ち上がった。
「これだけの魔力量があるのは素晴らしいです! そうそう、マリーシャ様は結婚相手を探しているとか。でも、お相手はまだ見つかっていないのですよね」
「いえ、もう候補があがっておりまして、話は進んでおります。なので……」
恐ろしい事に、父はもう買い手を探し出してきたようだ。
父の言葉に、セオドアは邪気がなさそうな顔で笑った。
「友人のファラー伯爵にマリーシャ様との婚約打診の申し入れがあったと先日聞きました。しかし残念ながらファラー伯爵は現在お相手を探していないとの事だったので、お断りするそうです。ということは、現在お相手は居らっしゃらないですよね? 幸運でした」
「そ……それはいったいどういう……」
「私がマリーシャ様に結婚を申し込みたいという事です」
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