トマス・プランテーション——主人公が変わると物語の結末は変わるのか?
名無之権兵衛
資料1「軍人」
資料1ー第1話
俺は軍人だ。
これまでたくさんの死体を見てきた。
けど、ここまで【凄惨】な死体は見たことがない。
***
削り取られていた。
体の表面を臓腑が見えるまで削り取られていた。〝かつて人だったモノ〟。
「うっ……」
手で口元を覆う。俺は軍人だ。これまでたくさんの死体を見てきた。それでも、目の前の光景には耐えきれない。きっと、死体の持ち主と先ほどまで談笑していたからだろう。
「えっ……」
背後で声がした。振り返ると、青いドレスを着た女性が立っていた。
「ちょっと! なにやってるの!」
彼女は真っ青な顔で大声を出した。複数人が階段を駆け上がる音がする。
「どうかしましたか? ……! こ、これは……」
タキシード姿の男性が顔を覗かせ、表情を歪める。彼の視線が死体から俺へ移る。
「ち、ちがう! 俺じゃない!」
次々と現れる人影。弁明したいのに頭が回らない。人々は死体を見て一歩後退し、俺の顔を見た。
「ちがうんだ……」
「ちがうちがうって、あなた以外に誰がいるっていうの!」
ドレスを着た女性が鋭い口調で指摘する。彼女の指摘はもっともだ。
なぜなら、このトマス・プランテーションには俺たち以外、誰もいないのだから。
ピコン
ポロン
ヴーヴー
複数の通知音が同時に鳴った。皆、一斉に各々の端末を開く。タキシードの男性も、ドレスを着た女性も、そして俺も。
端末には一通のメッセージが届いていた。
だが、宛名を見て全員が眉をひそめる。
「どういうことですかな、これは?」老夫がつぶやく。
タキシードの男性が、「ウエサワ様からメッセージ?」
ブロンドヘアーの女性が、「えっ、うそ! あたしも、あたしも!」
オッドアイの少年が、「オ、オレもです」
中年の女性が、「ほう……。これはおもしろい」
痩せ型の男性が、「死んだはずの人間からメッセージ……」
人々は互いに顔を見合わせた。
「あなたもウエサワ様から?」
タキシードの男性の問いかけにドレスを着た女性は「えぇ」と呟いた。
続いて俺のことを見た。
「あなたもですか? えっと、お名前は……」
「レスター。レスター・ジョーンズ。俺もウエサワからメッセージが届いている。ここで死んでいるはずの彼から……」
床に転がる真っ赤な〝かつて人だったモノ〟。首にはちぎれかけのネームタグがあり、真っ赤に染まった名札には「アキヒロ・ウエサワ」と書かれていた。
***
「アクロ・バンチョ・ティ!
……あー、なんか斬新な挨拶はないかなと、はるか彼方の意識から生み出してみたのですが、失敗に終わったようです。
改めまして。私の名前はアキヒロ・ウエサワ。量子物理学者です。あれ、名刺は……。うわ〜最悪。名刺入れね〜。
いや〜、実を申しますと、私は量子物理学者であると同時に
私が予知能力者である証拠はこの音声メールです。私が死亡する午後一時五分に皆さんへ届くよう設定しました。もしこの時点で私が生きていたなら、私は世紀の大恥者です!慰安旅行にでも誘ってください。
さ、やかんのお湯も沸騰してきたでしょうか。これより先をお聞きになるということは、私は本当に死んでしまったのでしょう。
半年前、私はある未来を予知しました。それは〝自分の死〟と〝世界の滅亡〟です。私がこの世から消えるのは些末なこと。問題は後者です。
私は滅亡の原因を特定しようとしました。すると、世界が滅亡する原因と私が死亡する原因が同じだというのです。私は獰猛な化物によって殺されます。化物の持つ牙や爪によって体をズタズタに引き裂かれ、不様な最期を迎えるのです。
そう、まさに、今日、この日に!
……ハァ、……ハァ、
アレ? 薬はどこに——薬入れ、スターマークの薬入れは……あった、これだ。
……。
先ほど自分の死が些末だと申し上げましたが、本当は恐ろしいのですよ。死というものが、途方もなく怖いのです。
ですが、それ以上に人類が滅んでしまう方が怖い。
私は急ひで世界の危機に対処できる十名のスペシャリストを呼びました。しかし『世界の危機だから来てくれ』という誘い文句では来てくれません。そのため、皆様の中には嘘の文句で招待した方もいらっしゃいます。そのことについては誠に申し訳ございません。
あぁ、しかし。私はここで自分が重大なミスを犯していることに気づきました。トマス・プランテーションに一人で暮らしている私が殺される? そんなバカな!
つまり、私は自らの手で〝化物〟を招いてしまったのです。
ハハハ、これは傑作だ。私は自分で自分の首を絞めていたのです。いまさら招待を取り消すことはできません。私にできることは襟ッ首を切られないよう気を付けるだけ。事実上の死亡宣告だ。
このメッセージを聴いている皆様。この度は大変な迷惑をおかけいたします。
どうか皆様の健闘を心よりお祈り申し上げます」
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