したへの使い
鵺ぽん
序章
序章
そのとき、俺は非常に焦っていた。
大したアテもないのに、何とかなるだろうと高を括って今年の二月末にそれまで勤めていた派遣のアルバイトを辞めたものの、結局、三月経って五月を過ぎても未だに俺は無職だった。
派遣の給与は派遣会社や派遣先ごとに振込日が違うのだが、俺が勤めていた会社は締め日の翌々月十五日だったので、四月十五日まではこれまで通り、給与を受け取れていたが、いよいよ今月からはそれもない。
さて、どうやって今後の生計を立てていくべきか。
ここのところ暇さえあれば、ネットの求人情報サイトを目を皿のようにして閲覧しまくってはいるものの、高卒の俺にはなかなか希望の条件に合致した求人は見つからない。そこまで贅沢をいうつもりはないのだが、どちらかというと物臭な俺は、"楽して金を儲けたい"という願望は人一倍強かった。
そんなときに見つけたのが、その仕事だった。
昨日まではなかったはずのその求人情報は、サイトのトップページにある新着求人のところに"案内係募集"という見出しで表示されていた。
俺は逸る気持ちを抑えつつ、その見出しをクリックをして、求人情報の詳細ページを閲覧した。
"案内係"と書いてあったので、てっきりホテルのドアマンやイベントの誘導係のような仕事を想像していたが、その仕事は少し違っていて、おおよその募集要項は次のようなものだった。
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【仕事内容】
担当していただく地域の名簿に記載されているお客様のところへお迎えにあがり、目的地までの道のりや今後のスケジュールなどを説明して地図を渡していただくだけの簡単なお仕事です。
※訪問営業ではございません。
【雇用形態】
業務委託
【勤務時間】
案件による
※一案件平均一時間程度(現地までの往復時間除く)
直行・直帰OK
【報酬】
一案件:五千円~
※交通費は別途全額支給します。
※これまでの経験やスキル、知識を踏まえて報酬額を決定します。
【その他】
履歴書不要
Wワーク可
委細面談
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雇用形態が業務委託という点に、やや引っかかったが、Wワーク可であれば、この仕事をやりながら、他も探すことが可能だし、面倒臭がりの俺にとって、履歴書がいらないのは有難い。何よりもこの仕事内容で時給換算五千円とは、かなり魅力的な報酬ではないだろうか。
あとは、定期的に仕事を任せてくれれば言うことないのだが、業務委託は得てして不定期に発生することが多く、酷いと月に一回しか仕事がないというケースもある。
あるいは、企業が人材確保のために採用者数だけはやたらと多くて競争率が激しく、なかなか仕事が回ってこないということも珍しくない。
ただ、この状況であれこれ考えていても始まらないので、多少の気懸りはあったが、俺は兎に角応募してみることにした。
応募して数分も経たないうちに、すぐさま俺のスマホが鳴った。
慌てて出ると、たった今応募した企業からの電話だった。
スマホの向こうで若い男の声が、求人応募への礼と、面接についての話を始めたので、俺は自分の希望を伝え、無事に日程が決まった。
これで何とか現状を打破できれば良いのだが。
俺は淡い期待を抱きつつ、電話を切り、面接日当日を心待ちにした。
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