Chojugiga
ベニテングダケ
第1話 妖怪殺し
むかぁしむかし、いや本当はもっと最近かも。
ある江戸の街を、唐黍裡在門という名の侍が歩いていた。
するとどこからともなく大きな声が。
「てぇへんだ!てぇへんだ!極姫が出たぞぉ!!」
「あいつは、銭形の野郎じゃねぇか。なんだ?また事件か?」
唐黍裡在門とあいつ、江戸の警察、銭形平三は、裡在門の旧友だった。
「おい銭形。どうしたってんだそんな大声で」
「おぉ裡在門!どうしたもこうしたもねぇ!最近江戸中で悪さをしてるあの極姫が現れたんだよ!!」
「極姫…?すまねぇ極姫ってのを俺は知らねぇ」
「はぁ⁉︎相変わらず世間知らずな野郎だぜ、極姫ってのは江戸中で、たぴおか屋のたぴおかを全部ぜぇんぶ奪っていくおかしな女盗賊さ!」
「はっはっは!たぴおかだけを?そいつは面白ぇ。見つけたらお前の所に持ってってやるよ」
「おぉ!そいつはありがてぇ。じゃあ俺はもう行くわ!じゃあなっ!!」
そう言うと銭形は、ものすごい速さで裡在門を後にした。
「さて、まずは昼飯だ。体力付けねぇとな」
「なぁあんちゃん。タダにするから食ってけよ」
「あ?」
そう言われ、言われた方向に顔を向けると。
そこには、裡在門と歳は、変わらないくらいの強そうな男が、蕎麦を茹でていた。
唯一、普通じゃないのは、店じゃあない、その男だけが、服装でもない、その男だけが、その男の笑顔だけが不気味だった。
「あんた何者だ?」
「ははっ…しがねぇ蕎麦屋さ。詐欺じゃあねぇぜ?タダにするから食ってけよ」
「…まぁタダってなら食ってくか。きつねを一杯」
「あいよ」
そう言うと蕎麦屋は、蕎麦を茹で始めた。
「それよりさっき、あの銭形平三と話してたろ?あの英雄銭形平三と、まぁ詳しい関係は聞かねぇが。極姫の話をしてたろう」
「聞いてたのか。あぁ話してたぜ」
「そうかいそうかい。ほらきつね蕎麦だ」
蕎麦屋は、熱々の蕎麦を、裡在門に差し出した。裡在門はその蕎麦を食べ始める。
「まぁ一つ言いたいのはよ。極姫ってのは、人間じゃあねぇ」
「人間じゃねぇなら、なんだってんだ」
「人間じゃあねぇ。ありゃ妖怪だよ」
「妖怪?根拠は?」
裡在門が聞くと、蕎麦屋は、ある手配書を見せた。
「こいつは、まだ警察にも届いてねぇ、ある人間が描いた手配書だ」
「こいつは…」
手配書には、美人が一人。可憐な笑顔を見せていた。ただ、ただ唯一、可笑しな所が見えた。
美人の顔には、目が3つあった。
「こいつは…」
「因みに、こいつは今日近くのたぴおか屋を襲うらしいぜ。捕まえんなら今日が良いだろう。因みに極姫の襲うたぴおか屋は、どれもこれも、悪技屋っつー店らしい」
「…そんな事なんでてめぇが知って!」
裡在門が聞く前に、蕎麦屋は、消えていた。裡在門の手には、極姫の手配書と、まだ半分以上残ってるきつね蕎麦だった。
時刻は午後8時。銭形の声が、江戸に響く。
「てぇへんだ!てぇへんだぁ!」
裏通りで妖怪が走る。
「ははっ!滑稽だねぇ。この後は休憩でもしようか!ふぁみれすでも行こうか…何だいあんたは」
笑う極姫の前に男が一人、男は笑う。
「妖怪殺し唐黍裡在門。極姫、てめぇを退治する」
「妖怪殺し…聞いたことがあるよ。先月、鴉天狗の日照を倒したのもあんただってね。そんなお強い妖怪殺し様があたしを?」
「あぁ。少々友人が迷惑しててね。首斬らせてもらう」
「…くふふ。あたしを甘く見ていたね。私の本当の姿見せてやるわぁぁぁ!!」
そう言うと極姫の身体から8本の足が、そして極姫の目は3つから8つになった。
「あたしは、女郎蜘蛛。まぁいわゆる上級妖怪って所だよ」
「ふぅん…なら俺も少し本気を出そう」
裡在門は、元々向けていた刀をしまい。
背中から、刀を出した。
「あんた…その刀…今身体から出さなかったかい⁉︎」
「あぁ…こいつは肉斬。俺の身体を贄に出す妖刀だ」
裡在門は、鞘を抜く。肉斬の刀身は、黒く染まっている。
「くくっ。だが、そんな妖刀なんか何百本も見てきてる。切れるもんなら…」
瞬間。女郎蜘蛛の後ろに裡在門がいた。
「切っちまったぜ」
女郎蜘蛛が倒れ、身体から血が流れる。
「一瞬で……何故首を斬らないんだい?」
「聞きたいことがある。何故悪技屋ばかり襲う」
「…ふん。どうせあたしは死ぬ。お前だけには話してやろうかね」
そう言うと女郎蜘蛛は一つ目から涙を流し、話し始める。
「昔私の妹が、悪技屋のたぴおかを食べて死んだんだ。たぴおかを食べて死ぬなんて馬鹿げた話だと思うだろ?ただ違う。あのたぴおかは、たぴおかじゃあない。蛙の卵だったんだ」
「蛙の卵?だが、悪技屋のたぴおかで人が死んだなんて聞いたことがない。何故だ?」
「それは、あたしにも分からない。ただあのたぴおかからは、妖気を感じる。おそらく妖怪だろう」
「…まぁ話は聞けた。じゃあ」
そう言うと裡在門は刀を振るう
「……死にたくない…」
最後に女郎蜘蛛は、掠れ声でそう言った。しかし裡在門には関係ない。裡在門は刀を振るい、目の前の妖怪を「治癒」した。
「…?なんで」
「この刀は、最強の斬撃を与える事ができる。だが、それだけじゃない最強の治癒能力も持ってるんだ」
「そうじゃない!何で悪さをしたあたしを助けるんだ!!」
「決まってんだろ」
「えっ…」
裡在門は笑ってそう答える。
「悪技屋を潰しに行く手伝いをしてもらう。てめぇの顔は、嘘吐きの顔じゃあねぇ」
「…」
女郎蜘蛛は、思い出す。誰にも信じてもらえなかった自分を、それでも妹を思い悪技屋のたぴおかを奪っていた自分を。
そして想う、今自分に本当に欲しかった言葉をくれたこの男を。
「さぁ行くぞ女郎蜘蛛」
「綾埜とお呼びください」
「あ?綾埜?」
「それが本当の名です」
「塩らしくなりやがって。行くぞ綾埜」
「はい」
午後9時、悪技屋で、男達が笑う。
「ははっ!嫁に種付けしてこんだけ金が貰えるんだから良い商売じゃのう」
「そうでございやすねぇ…女共もばくばくちゅーちゅー飲みますわ!!」
「ふっ…鼻楽おぬしも悪よのう」
「悪口様程では」
「「なーっはっはっは!なーっはっはっは!」」
そう言うと二人は、二人の人間から二匹の蛙と姿を変える。
「「げーこげこげこ!げーこげこげこ!!」」
すると扉がガラリと開く。
「そこまでだ悪技屋」
「いえ化蛙とお呼びすれば良かったでしょうか?」
「「何者だ貴様達!!」」
「妖怪殺し唐黍裡在門」
「女郎蜘蛛綾埜」
「ほぅ…よく見ればあの時のガキじゃあないか…今度は人間を連れてリベンジか?」
悪口がそう言うと、綾埜は、蛙には目もくれず、裡在門に言う。
「裡在門様。下っ端の蛙は私がやります。あのでかい方をお願いします」
「あぁ。そのつもりだ」
すると綾埜は鼻楽を襲う。
「てめぇが大将か。蛙の卵を使ってるってのは本当らしいな」
「バレてしまってはしょうがない。さぁ喰って」
「おせぇんだよ雑魚」
悪口が言い切る前に悪口の首が飛ぶ。
「てめぇに慈悲は与えない」
裡在門がそう言うと、鼻楽が言う。
「お前!悪口様になんて事…を」
綾埜が蜘蛛の糸で、鼻楽の首を絞める。
「裡在門様」
「あぁ。おい糞蛙」
「はひっ」
裡在門の声に、鼻楽は情けなく返事をする。
「警察にこれまでの罪を全て吐け。吐かなかったら」
裡在門は刀を向ける。
「はっ…話ましゅ話ましゅ」
「だそうだ銭形」
すると入り口扉がガラリと開き、銭形が出てくる。
「あぁ…午後9時48分!逮捕!!」
鼻楽は絶望の目を見せ、捕まった。
何分かした後パトカーが来て鼻楽は連れてかれた。
「裡在門!それに極姫!今回は、犯人の逮捕に協力感謝する!そして極姫!」
銭形が、綾埜に目を向けると、綾埜は、真剣な表情で、両手を向けた。捕まえてくださいというポーズだ。
「裏があったとはいえ貴様は何度も何度も私達警察や江戸の民を騒がせた!それについては貴様を捕まえる必要がある!」
「はい…」
「しかし!」
銭形が笑う
「今日の私は、貴様が極姫だと言う証拠を捉えていない。なので今回は、証拠不十分であるとして、捕まえない。今後この様な事が無ければ我々も他に手を回すだろう」
「えっ…」
遠回しに銭形は、綾埜の罪を無しにすると言っているのだ。
「良かったな綾埜。もうこんな事すんなよ」
「はい…はい!」
綾埜は泣きながら裡在門に言う。
そんなこんなで今回の事件は解決となった。
それから何日か経ち、裡在門の家にノックの音が走る。
「はぁいよ」
裡在門は欠伸をしながら扉を開ける。そこに立っていたのは。
「本日から銭形刑事の紹介により、貴方様と一緒に生活する事になりました」
裡在門は笑う。彼女も笑う。
「女郎蜘蛛綾埜と申します。以後宜しくお願いします」
そこに立つ妖怪は、本来なら裡在門が殺すべき「妖怪」しかし裡在門は、殺さない。裡在門は彼女を殺さない。
「こちらこそ宜しく」
裡在門はとびっきりの笑顔で、出迎えてやった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます