てるちゃんのマラソン大会

ポンちん

第1話 マラソン大会の朝

 数日前からの雨予報に反して今日は快晴。

去年のように前日に雨が降って校庭がぬかるんでいるということもない。

マラソン大会にうってつけの日だ。


 薪ストーブの脇にある東に切った大きな窓の磨りガラスを通して、淡い黄色の朝日が差し込むリビングでパパとてるちゃんは朝食の真っ最中。

ストーブからは焚き付けの廃材がパチパチと音を立てている。


 末息子のみかさは、最近我が家に仲間入りしたニンテンドーSwitchに夢中で、この時も早々に朝食を切り上げ、和室のテレビの前で独り言を言いながらコントローラーの操作に余念がない。

 そんなわけで今食卓を囲むのは、パパとてるちゃんと、台所仕事を終えて席に着いたところのママの3人だ。


 「今日のマラソン大会はどれくらい頑張りますか!?」

朝ごはんのシャケおにぎりを頬張りながらパパが聞いた。

これまた口いっぱいにシャケおにぎりを詰め込んだてるちゃんが宙に視線を泳がせながらしばらく考え、ゴクンとおにぎりを飲み込んで少し恥ずかしそうにしながら小さな声でこう言った。

「11番以内に入れたらいいかな。」


 これにはパパもママもずっこけた。

というのも、昨日まで何度かしてきた体育でのマラソン練習で、てるちゃんはいつも7番だったという話を聞いていたからだ。


 今日は本番だぜ?

 

 パパとママが応援しに来るんだぜ?


 いつもより張り切って臨むであろう本番で、いつもより遅い順位目標にしてどうする。


「おま、お前……それはないわ……。」

心底びっくりしていたのだろう。しばらく動きを止めていたパパが再び咀嚼し出してそう言った。

「いっつも7番やったんやろ? それやったら目標は7番より前にせんと!

 今日本番やで? わかってる?」

普段からぼーっとしているところのあるてるちゃんに、今日がどういう日かわかってもらいたいママは言いたいことを全部言う。

 そんな二人の言葉を受けてもまだ

「でも……。」

と煮え切らないてるちゃんに、パパはこう宣言した。


「ほんなら5番以内に入ったらなんでも好きなもん買うたる!!」


 昭和のお父さんか!!


 てるちゃんはというと俯いていた顔を上げ目を輝かせている。

「ほんまに?! ゲームのソフトでもいいの?」

「おう! なんでも好きなソフト買うたるぞ!」


 お菓子の袋を開ける音とゲームとYouTubeという言葉に目がないみかさが案の定和室から慌てて出てきて(ゲームのコントローラーは握ったまま)

「何なになに? ゲームのソフトって聞こえたけど?」

 本当にこの4歳児は予想を裏切らない。

「ほんまに耳ざといなみかさは。」

 そう言いながらママがパパとてるちゃんのやりとりを説明すると、

「やったあ! てるちゃんがんばれ!」

 そう言い残していそいそとまた和室に戻って行った。


「ようし! 頑張るぞ〜!!」

両の拳を握りしめてピンクに上気したほっぺたを膨らませている。

やっとてるちゃんに気合いが入ったようだ。




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