第8話次の料理へ

 イールの美味しい食べ方と僕が出したお酒、そして傷が治癒して強靭な肉体になる事は恐ろしい速さで街の人々に伝播していった。 

 

 病気やダンジョンで出来た傷、欠損などを治したくて現れるお客さんは多く、治った事の喜びと今までの食事との違いに大いに驚き、お酒が飲める人は酒の美味さでも驚愕した。 

 

 治癒以外にも味が忘れられないとくる客も多く、完全にウナギ専門店の様な状態で働いていたが、お客さんの量が量なので三人ではとても厳しく。 

 

 孤児院の子達を採用する事に、料理に興味のある子は調理補助にきてもらい、いずれはウナギのお店をまかせようと考えていた。 

 

 治癒で治った人たちは元の仕事に戻る人も多く、特にダンジョン探索に戻る人がおおかったのだが、今のダンジョンは50階層までの素材がとり放題である。 

 

 僕がダンジョンコアの設定を弄ったので、50階層までセーフティがかかっている事と今の状態で最下層を攻略してもコアを破壊、持ち運びできない設定である。 

 

 その変わり50階層まではどんな傷を負っても、最悪死んでも、持ち物と一定の魔力だけ奪われ地上に戻ってくることが出来る。 

 

 50階層から下の階層は10階層ごとに地上への帰還転移陣が存在する。 

 

 50階層までに手に入る素材だけでも相当な高価なものが多い、更にその下の階層にも安全にアタック出来るメリットは多く、訓練にも使用出来る上に個人の力量や技量をあげる事にもしようされ、戦闘力的に今グランディルの冒険者達は黄金時代に突入しようとしていた。 

 

 低級、中級の冒険者が自分の事を知り、成熟する前に怪我や恐怖で引退する事も多い、そんな彼らも50階層まで安全に狩り進める事が出来るという破格の待遇。 

 

 国内だけの需要なら50階層までの素材は値下がりしそうなものだが、国外での需要もあるので極端に長さがる事もなく商人たちの手腕で市場は安定、冒険者も商人も裕福になりその波は一般市民へ、通常の職業の人達へと津波の様に押し寄せ、ゲランディル国家に納められる税収も増えた。 

 

 今はウナギを焼いている毎日だが、流石にウナギだけ焼き続ける専門店ってのもいけないと思うのだが、次に何を作るべきか?それがあまり思いつかない。 

 

 なんでももう一人の日本人は、毎日メニューが違うというがよく思いつくものだなと感心していた。 

 

 かといって普通の飲食店の様に、メニューをあれもこれも入れて注文事に作り分けるなんて芸当僕に出来るだろうか?ウナギの店を今やっていて、同じものをただただ焼いていくだけでも大変なのに、ハンバーグだ、ウナギだ、からあげだ、てんぷらだ、そばだ、なんて毎回飛び込んでくる料理を捌けるか?今いるお客さんのペースを考えると、無理だと思った。 

 

 ここは先輩を真似て毎日一つのメニューを作る事で勝負にでた方がいい、ただでさえ治癒や能力向上の効果を求めてお客さんは来るんだし。 

 

 方針も大体きまったかな?なんて考えてセバスさんに説明すると、一般のお客さんとは別に貴族向けのコース料理も考えてほしいと言われた。 

 

 コース料理・・・・・名前くらいは聞いたことがあるが、自分ですら食べた事がないコースで料理がでてくるという物。 

 

 それを?僕が?考える?体験した事もないのに?頭を抱えた。

 

 前菜だのなんだの、何が前菜に向くかとか、メインは何がいいとかそんな事考えてご飯食べた事ない・・・・・。 

 

 全部自分流でいい?素人の考えるコースでもいい?専門家や詳しい人からはおいっ!って突っ込まれるかもしれないようなコース設定でもいいなら、なんとか?なんとかなるか?なるもんなのか? 

 

 でもセバスさんが言うには、病気や怪我を他人に見せたくない貴族の人は多いらしい、とても人前に出る事が出来ない人もいるとか。 

 

 そんな中これる人には店まで足を運んでもらうのだから、精一杯のおもてなしをしようと、そうだよなぁ、怪我や病気で動けない人もいるはずだ。 

 

 むしろ僕がその貴族の屋敷まで出向いて料理をした方が?いいのでは?と言うと、どうもそう簡単でもないらしく難しいなぁと考えていた。 

 

 今回お客様で来る人達は、魔族の王族で王女様らしい、なんでも酷い呪病らしく骨や筋肉が脆く、普通にたって歩く事も困難なのだという。 

 

 それこそ、こっちから向かうべきなのでは?と思ったが、王女様の希望でグランディルまで旅行がしたいと言われたらしく、本来だったら通達した僕の降誕にあわせてグランディルにすでに滞在している予定だったのだが、体調の具合によってうまく旅程が合わず今になったと言われている。 

 

 使徒様が降誕されると聞き、これは娘が治るチャンスなのではと考えていた魔王は降誕するのが食の使徒と聞き酷く落胆した様子だった。 

 

 それでも娘がいつか本当にベットの上から動けなくなる前に、ダンジョン国家であり観光産業も盛んなリゾート国のグランディルにいってみたいと初めて我がままをいった。 

 

 消化する事も大変な事からあまり食事が食べられない王女様、それでも食の使徒様の作る食事ならきっとおいしく食べる事が出来る。 

 

 それはきっとこれから動けなくなる自分を慰めてくれるはずだと考えたと思われる。 

 

 「この国に限らず、この世界の者は魔物との闘争で生存権を守る為命懸けです。四肢や指など欠損する事も日常の一つ、疫病、呪病、先祖返りや魔力の暴走による肉体の変形などもちろん治癒魔術やポーションなどで治る事もありますが、全てがそうとは限りません。神々が作ったエリクサーやソーマなどでも治らない病や呪いで死んでしまうというおとぎ話もあるくらいに」 

 

 地球だって現代医学では治せない病気も多い、手術しても完治は難しい事も少なくはない。 

 

 そう考えるとどこまで僕の能力が通用するか分からないけど、欠損まで治せる僕の料理は破格の能力だと思う。 

 

 藁にも縋ると言う言葉がある通りに、僕の様な素人使徒に助けを求める程奇跡を求めている。 

 

 そう考えると、楽しみにしてくれているなら出来る限り最善を尽くしてコース料理を考えたいと自然と真剣な顔になる。 

 

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