第13話 いきなりな告白
女性陣が仲良く動画を見ている。俺も自分のスマホを用意していたら、興味があるのか、スフィが寄ってきていた。なんだか倫子ちゃんが一瞬だけ悔しそうな表情をこっちに向けてた気がする。
『カスミ。スフィがいる』
「うん。スフィと初めて会った時のやつだよ」
スマホには、俺の中に入ったり出たりするスフィの姿が映っている。ちくしょう、面白おかしく編集しやがって。こんなの再生数爆上げするに決まってるじゃん。ツチノコ女のチャンネルじゃないみたいだけど、収益はどうなってるんだろ。ちょっと、いや、かなり羨ましいぞ。
「長めの動画も倍速で確認したけど、これなら大丈夫じゃないかなぁ。三門にゃんもちょっと混乱してるように見えるしね」
「私にも三門にゃん先輩が悪いことしてるようには見えませんでしたよ」
「そうですね。むしろ被害者っぽい感じだったし、『ぁん』は笑え、ゲフッ、すみません。なんでもないです」
こらこら。そこまで言っておきながら誤魔化すんじゃないよ、まったく。
「でも、三門にゃん先輩は不可抗力かなぁって思いましたよ。腐界管理局でしたっけ、そこに伝えてないのはマズいかもしれないですけど」
「うん。スフィが三門にゃんを気に入ったからついてきたって感じだよね」
『ん』
塔子先輩の言う通りなのだろう。スフィが深く頷いている。まあ、それは俺も聞いてるし異論はない。
「三門にゃんって子供っぽいとこあるし、そこがスフィに好かれたのかなぁ?」
「それ分かります。三門にゃん先輩って親しみやすい感じですし」
「そうかなぁ。でも、いじられやすそうな性格ではあるかな。あっ」
突然大きな声を上げた久坂に、みんなの視線が集まった。
「もうすぐスーパーの特売の時間じゃん。先に帰りますね」
「そうだね。残念だけど私も一緒に行くよ」
「私もそろそろ帰ろっかなぁ」
女性陣が席を立って、部室から出ていこうとしてる。けど、ちょっと待ってくれ。まだメインイベントが残ってるんだっ。
「倫子ちゃん! 大事な話があるんだ。もうちょっとだけいいかな?」
「えっ、あ、はい。いいですけど」
倫子ちゃんは久坂に目をやった。一緒に行くと言ったばかりだもんな。
「いいよ、いいよ。どうせすぐ終わるでしょ。バス停で待ってるから」
久坂は俺と倫子ちゃんを交互に見ると、そのまま部屋の入り口に向かっていった。俺がこれからすることを察してくれたのかもしれない。
「そういえば、先輩ってエゴサとかします?」
「するわけないじゃん」
「そうですか、それなら良かったです」
久坂はそれだけ言って出て行ってしまった。何か不穏な感じがしたけど、今はそれどころじゃない。狭い部屋に倫子ちゃんと二人きり。やばい、心臓が破裂しそうだ。
「それで三門にゃん先輩、どうしたんですか?」
「倫子ちゃんっ!」
「は、はい」
「初めて会った時から、ずっと倫子ちゃんのことで頭がいっぱいだった。大好きだ! 俺と付き合ってくれ!」
倫子ちゃんは、ぼんやり俺の方を見つめている。何か考えてるような仕草をすると、意を決したのか、艶のある唇が開き始めた。
「三門にゃん先輩の気持ち、なんとなく気づいてました。本気なんですよね?」
「うん。本気も本気。超本気だよ」
俺の想い、どうか受け取ってくれ。
「すごく嬉しいです。私、こんな風に告白されたの初めてで。でも、そんなこと言っちゃダメですよ」
これはあくまで俺たちの新たな関係のスタートだから、悲しいけど玉砕は想定内。これからもアタックを続けていくだけさ。でも、なんなのその断り方。なんで、俺は叱られてるのよ。
「ほら、後ろ見て下さいよ。スフィがすごく悲しそうじゃないですか」
振り向くと、スフィが今にも涙を流しそうな表情をしていた。幽霊には涙が出せないと思うけど、この子なら空気中の水分を強引に集めて涙を再現するかもしれない。
『カスミ。りんこ、すき?』
スフィの声がいつもより震えている。人間の再現度が半端ない。
「う、うん。好きだよ」
『スフィより、すき?』
ええぇぇ!?
なんだよ、それ。
もしかして、スフィは俺のことが好きで、倫子ちゃんに嫉妬してるのか?
俺、好かれるようなことしたっけ?
「三門にゃん先輩。スフィを悲しませちゃダメですよ」
倫子ちゃんは呆然とする俺の横を通り過ぎ、スフィに向かっていった。
「大丈夫だよ。三門にゃん先輩はスフィのこと大好きだから。ねっ?」
『ん』
落ち込むスフィを勇気づけるように優しく微笑む姿は天使のようだ。続けて俺にも笑いかけてくれたけど、「分かってますよね?」と念を押してるみたいだった。倫子ちゃんの瞳に、まるで悪魔が潜んでいるように見えた。でも、そんな倫子ちゃんも素敵だ。これがギャップ萌えってヤツか。
倫子ちゃんが俺の告白を断ったのは、本当にスフィのためなのか。あるいは、いきなりのことにびっくりして、結論を先延ばしにしようとしているのか。誰とも付き合ったことのない俺には判断できない。ただ一つ確かなのは、俺がここで倫子ちゃんの期待を裏切ってしまったら、築き上げてきた好感度が崩れてしまうってことだ。
「三門にゃん先輩?」
「う、うん。もちろん大好きだよ!」
『えへへ。いっしょだね』
「はうぁっ!」
なんて嬉しそうに笑うんだよ、スフィは。
無垢な笑顔は、今の俺には眩しすぎだ。
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