第49話 シュウジ 2

「よくぞ参られた、異世界の勇者たちよ。」


目の前の玉座?に座っている男が大仰な様子でそう声を掛けてくる。


「参られたって言われてもなぁ、拉致されてきたんだぜ?」


マイケルが吐き捨てるようにそう言う。


それを見て側の兵士たちが剣の柄に手をかけるが、そばにいた近衛隊長らしき人物がそれを制し、俺達に声を掛ける。


「思う所もあるだろうが、お互いの為にも言葉使いは気を付けて欲しい。」


「そうは言われても、こんな扱い受けているんだぜ?言葉にとげが出ても仕方がないだろ?」


ザコビッチが、マイケルに同調するように、手枷を見せながら、そう言い捨てる。


「ウム……それは悪かった。何せ、異世界の勇者はとてつもない力を秘めていると言われておるのでな。」


玉座に座った男が、近衛隊長に目配せをする。


「とりあえず、暴れたり逃げ出そうとしたりせず、大人しく話を聞いてくれるのであれば、枷をはずそう。」


どうする?と聞いてくるので、俺達は揃って頷く。


手足が自由になるのであれば、話しぐらい聞いてやるよ。


俺達の枷が外されると、マイケルとザコビッチは、んーっと大きく伸びをする。


俺も同じように体を伸ばして、凝り固まっていた筋肉をほぐす。


「そろそろいいか?」


近衛隊長が感情を押し殺した声で聞いてくる。


しかし、そのこめかみがわずかに引き攣っている所を見ると、かなり感情を逆なでしているらしい。


「あぁ、こっちとしても詳しい説明が欲しかったところだからな。……ところで、椅子はないのか?」


あえてそう言ってみると、思ったとおり、近衛隊長は無言で、剣の柄に手をかける。


「べラム、よい。。」


玉座から声がかかる。


「お館さまっ!これでは、示しがっ……。」


「よいと言っておる。彼らは異国から来た客人だ。話は晩餐の席でよいか?」


玉座の男の言葉に、俺達は頷く。


少しでも早く情報が欲しいところだが、ここで立ったまま長話をされるより遥かにマシだと思ったからだ。


その後俺達はメイドさんに案内されて客間へと通される。


個室の様で、マイケルやザコビッチとは離れ離れとなった。


「お客様……えぇと……。」


案内してくれたメイドが、何か言いかける。


「あ、俺の事はシュウジと呼んでくれて構わない。」


「はい、シュウジ様。ここが当面の間シュウジ様の御部屋となります。私はシュウジ様にお仕えすることになるカティナと申します。」


そう言ってカティナは見事なカーテシーでお辞儀をする。


「あ、あぁ、よろしく。」


俺達はそのまましばらく無言で見つめ合う。


……えぇと……なんだ?


カティナは、何やら俺の言葉を待っているような感じだ。


よく見ると、緊張しているのか、身体が強張り、脚が小刻みに震えているようだ。


「えっと、あの、カティナ?」


「は、はっ、はいっ!」


「あー、良かったらでいいんだが、少し話をしたいんだが?」


「あ、ハイ……大丈夫です。」


カティナは緊張した面持ちで、ベッドに腰掛け、俺の言葉を待っている。


「先の「お館様」やこの国の事について教えて欲しいんだけど?」


「ハイ?」


「いや、、だからな、俺この国の事何も知らないだろ?だからな……。」


「あ、はい、そうですね……。」


カティナは少しホッとした表情を浮かべ、俺の質問に対して丁寧に教えてくれる。


そこで得た情報から、この国はグール王国、先程の「お館様」はドラン・ザン・グールという名で、グール王国の国王の実弟であり、グール王国の西方一帯を治める領主なのだそうだ。


因みに領地に名はなく、北方、南方、西方、東方、そしてそれらの外側をそれぞれの辺境と呼び表されている。


勿論、そんな広大な土地を一人の領主が統治できるはずもなく、それぞれの領主の下に「小領主」と呼ばれる存在が複数いて、分割して統治している。


日本で言えば、国が日本で、各方面の領地は、関東や東北、東海といった区分、小領主が統治するのは県といったところだろうか?


そして、べラムと呼ばれたのは、西方領主軍を束ねる騎士隊長であり、ドランの側近の一人だそうだ。


グール王国は、周りをガイル王国、ギラン王国、ゲーラ王国、ゴール王国といった国々に囲まれていて、大国ゴールの東側にそびえる山脈の向こう側にも様々な国があるらしいが、詳しいことはカティナにも分からないとのことだった。


そんな大国に囲まれているうえ、グール王国は山岳地帯が多く、食糧の自給率は低めで、他国からの輸入に頼らなければならないという。


「……成る程な。」


俺はカティナからひとしきり話を聞いた後、彼女に下がっていいよと告げる。


カティナは「本当によろしいのですか?」と問うてくるが、彼女が何を気にしているのかが分からなかったので、「用があれば呼ぶから」と言って彼女を下がらせた。


去り際、ほっとした表情を見せていた所から、きっと、異世界人相手に緊張していたのだろう、もう少し早めに解放してあげればよかったかな?などと思う。


カティナが去り、一人になったところで、俺は、今聞いた情報をもとに、幾つかの推測をたててみる。


まず、この国が置かれた状況。


周りを同規模の国に囲まれているため、常に侵攻に備えていなければならない。……まぁ、当然同盟とか結んでいるのだろうけど、それも、国のトップの性格次第だよなぁ。


そして、国の2/3が山岳地帯であることから、鉱物資源が国の産業の中心だというのが分かる。


もし、鉱山が全く無かったら、この国を支えていけるだけの財源は確保できないだろうから。


そして内部に目を向けると、国王直轄地の中央地帯を中心に、北方、南方、東方、西方に領地が4分割されている。


北方領はそれなりの広さの土地があるものの、そのほとんどは険しい山脈であり、僅かな鉱山と山や森にすむ魔物から得られる素材、などが主な特産品だ。


特に、魔物はこの北部にしか見られないため、魔石を始めとした魔物由来の素材は希少素材として、北方領の重大な財源を担っている。


南方領は、西方の次に土地が広く、そのほとんどが穀倉地帯であり、さらには海に面しているため、海産物なども採れる、まさにグール国の食糧庫だ。


南方領だけで見れば食料自給率は150%を超えるのだが、いかんせん、他領での食料自給率が思わしくないため、グール国全体としてみれば食料自給率が30%を切るという状況に陥っている。


東方領は商業の街。


国境はゴール王国と接していて、ゴール王国のさらに東の見知らぬ国からの品々が、割と手に入りやすい。


また、北方で採れる魔石などの取引も、この東部領で行われる。


そして、グール国一番広い領地を持つのが、ここ、西方領だ。


西側には険しい山脈が、隣のガイル王国からの侵攻を防いでおり、ある意味、外部を気にしなくてもいい環境にあった。


そして、領地の北部は山岳地帯で、良質の金属を多く内包している鉱山が多数あり、南部では、それなりに肥沃な穀倉地帯が広がっている、一番バランスが取れた領地であり、外部との流通を言う面を除けば一番発展している領地であることが分かる。


それ故に、国王の実弟が領主を務めているというのは頷ける。


それぞれ特徴があり、それぞれに重要な役割を担っている4つの領地。


これらを統べる国王には、かなりの有能さが求められることだろう。


そう考えると、グール国王というのは、他国に引けを取らない凄い国王なのだろうか?


カティナにそう聞いたら、彼女は苦笑するだけで何も答えてくれなかったが……。



……様。……ジ様っ!


……ん?


「シュンジ様……あぁ、お目覚めですね。」


目の前にカティナの顔のアップがあった。


少し大きめのヘーゼルの瞳、頬にかかる銀色の髪。少し高揚して、赤く染まった頬に桜色の唇……。


「可愛い。」


思わず本音がボソッと漏れる。


「な、何言ってるんですかっ!寝ぼけてないで、早くこちらに着替えてくださいっ!もうすぐ晩餐の時間になりますっ!」


少し慌てたように言うカティナ。


どうやら俺は考え事をしている間に眠ってしまったらしい。


俺は、まだぼーっとしたまま、カティナの言われるがままに着替えをするのだった。



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