第30話 ダンジョン内に街を作ろう その1

「さぁ、キリキリと働いてらっしゃいっ!」


稼働を始めたギルドに顔を出した俺達を出迎えたのは、レミリアのそんな言葉だった。


冒険者ギルド、ツヴァイの村支部。


職員は、ギルドマスターであるレミリア一人。登録冒険者は俺達だけ……。


そんな状況では、自棄になっても仕方がないと思うのだが……。


「ハイハイ、言われなくても働きますよっと。ところで依頼はどんなのがあるんだい?」


俺は、わざとそう言ってみる。


「グっ……。」


レミリアは押し黙ってしまう。


「カズトさん、そんな意地悪したら、メッですよ。」


横からミィナが声を掛けてくる。


小さいとはいえ、この規模のギルドを、レミリア一人で回すのはさすがに無理があるという事で、ミィナを始め、数人の村人が、ギルドの手伝いをしている。


だから、それなりに成果をあげないと、ここのギルドの経営は赤字となり、それがそのままレミリアの評価へとつながるので、彼女も必死なのだろう。


「……依頼は、コレよ。」


レミリアが渋々と差し出す依頼書。


そこには『ダンジョン攻略情報』と書かれていた。


依頼主は冒険者ギルド。


簡単に言えば、新しくできたこのダンジョンの情報を何でもいいからよこせ、という訳だ。


報酬は、その情報の内容に応じて。


現状分かっている情報を流すだけでも、それなりの金額になると思うが、一応確認しておく。



「内容に応じてって、なにか基準はあるのか?」


「……。」


「大丈夫ですよ、カズトさん。ちゃんと冒険者ギルド本部からの通達がありますので、定められた基準に沿って査定いたしますから。」


ミィナがそう教えてくれると、レミリアが、余計な事をっ!という視線でキッと睨む。


「レミリアさん、不正はいけませんよ?それに相手はこの村の村長ですからね?」


ミィナがにっこりと微笑みながら、レミリアに釘をさす。


……ウン、ミィナをギルドにやってよかった。ミィナがいる限り、安心してこのギルドを使用できそうだ。


「まぁ、そう言う事なら、これから潜ってくるので、その情報を合わせて報告するよ。」


「ハイ、気を付けていってらっしゃいませ。」


俺達は、ミィナに見送られながら、ダンジョンを目指して村を出るのだった。



「さて、俺達は5階層から探索することも出来るがどうする?」


俺は扉をくぐってすぐに現れた小部屋の前で、皆に確認してみる。


5階層のボスを倒したことによって現れるようになった転移ポータル。


これがみんなが使えるのか、ボスを倒した者だけが使えるのかは、分からない。……まだ、俺たち以外の冒険者が、このダンジョンに入った事が無いからな。


まぁ、この事は、別の冒険者が来れば直ぐに検証できることだから、今は特に考えなくてもいいだろう。



「先に進むにゃ!」


真っ先に答えたのはマーニャ。


この娘は意外と戦闘狂かもしれない。


「ん~、でも、今回はダンジョン攻略情報の依頼も受けてるんだよね?ボスを倒した後の階層の様子とか、一度倒したボスがどうなっているかとか確認したほうがいいんじゃない?」


とにかく先へ、というマーニャに待ったをかけるアスカ。


「うーんと、今回、1週間は潜る予定で、来たんですよね?」


レイナが俺に確認をしてくる。


「あぁ、新しい階層がどのような状況か分からないからな。一応、三日で潜れるところまで行って、それから折り返すつもりだ。もちろん、イレギュラーな事があれば、その時点で引き返す。」


「1階層から5階層まで、新規で1週間かかった。今はどれくらいで行けるか興味ある。」


アイナがぼそりという。


アイナの言う通り、まったく情報がなかった時で1週間かかった低階層が、5階のボスを倒したことで、どうなるのかは気にはなる情報だ。


「うぅ~、そんなゆうちょーなこと言ってたら、他の冒険者に先を越されるにゃ。」


マーニャはあくまでも先に進みたいようだ。


「大丈夫だ、マーニャ。他の冒険者が来るまでには時間がかかる。それに俺達はすでにボスを倒しているんだから、行こうと思えばいつでも6階層から始めることが出来るんだ。このアドバンテージは大きい……はず。」


「でもぉ……。」


「他の冒険者がサクサク行けるかどうかを知っておくのも、この先の事を考えれば重要だよ。俺達が5階層に行くまでに時間がかかるようなら、 他の冒険者たちも時間がかかるという事だし、あっさりと5階層に辿り着ければ、そのまま先に進めばいい。だから1階層から行きたいと思うが、どうだ?」


「うぅ……、だんにゃ様の指示に従うにゃ。」


「よしよし、いい娘だ。」


俺は項垂れるマーニャの頭を撫でる。


ダンジョン探索でいつも一緒に居る所為か、レイナ達三人の態度は、最近では急速に柔らかくなっている。お風呂だって一緒に入ってくれるんだぞ?


……もっとも、その時の俺は目隠しして縛られた状態でだけどな。


その状況に甘んじているわけではなく、思う所万歳ではあるのだが、マイサンを人質に取られたら、俺に抗う術はなく、大人しくされるがままになるしかないのだ。


……っと、話が逸れた。


その件は今夜のお風呂の時に考えるとして、今は1階層から順番に攻略していくことを考えよう。




ザシュッ!


俺のシックルが、ゴブリンの延髄を切裂く。


倒れ込んでくるゴブリンを蹴り飛ばしながら、左手に持った銃を構える。


狙いは前方にいるトロール。マーニャの背後から狙おうとしているようだが、させないよっ!


銃から放たれた魔力がトロールの頭を吹き飛ばす。


再生能力が高いトロールと言えども、頭を失えば再生は出来ない。


俺は銃を降ろし、近くまで寄ってきたゴブリンに向けてシックルを振るう。


俺の現在の戦闘方法は、遠距離からの狙撃と、気配を消して背後からの奇襲攻撃だ。


ゴブリン程度であれば、正面からやりあっても何とか倒せる程度にまでは成長したと思うが、それでも、気を抜けばゴブリンに負けるという事実は覆しようがなく、レイナと共に、後方からの援護がメインとなっている。


因みに銃は以前創ったモデルガンを元に、女神ちゃんのクリエイト魔法と付与術を使って、魔法が打ち出せるようにしたものである。


ぶっちゃけ、「魔力を撃ち出す」という効果を付与しているだけなので、媒体が獣である必要は全くなく、なんなら普通の杖でも同じことが出来るのだが、そこはまぁ、男のロマンというものだ。


……ウチの女の子達には誰も理解してもらえなかったけど。



暫くすると、立っている魔物の姿は消え去り、気配感知にも引っかからなくなる。



「お疲れ~。少し多かったよね?やっぱりスタンピードの関係?」


アスカがそう言いながらベースに戻ってくる。


「分からんが、その可能性はあるだろうな。」


「そうすると、後日、また調べたほうがいいのかな?」


レイナがアスカの言葉に応える様につぶやく。


「いや、それは新しく来る冒険者に任せたほうがいいだろう。」


何でもかんでも俺達がやる必要はない。そんな暇があるなら、奥を目指して最新情報を得るほうがいい。


「うにゃぁ……不覚だにゃぁ。」


アイナに抱えられながらマーニャが戻ってくる。


その肩が血で真っ赤に染まっていた。


「どうしたんだっ!大丈夫なのか?」


見た目よりは元気そうなマーニャを見て、やや安心しながらも、何が起きたのか訊ねてみる。


「宝箱がドロップした。」


「開けたらトラップがあったにゃ。」


アイナとマーニャの話によれば、最後に倒したトロールが宝箱を落とした?という。


正確に言えば、トロールが倒れたところに、突然宝箱が現れたらしい。


それを見たマーニャが、アイナが止めるのも聞かずに蓋を開けると、宝箱が弾け、その際に方々に放たれた矢の一部がマーニャの肩を撃ち抜いたという事だった。


「そうか、……一応飲んどけ。」


俺はその話を聞きながら、毒消しのポーションをマーニャに渡す。


毒の効果は、マーニャの装備で防がれているはずだが、念のため、という奴だ。


「それで、宝箱の中は何だったの?」


マーニャの傷が大した事が無いと分かると、レイナの興味は宝箱の中身へと移る。


「にゃぁぁぁぁ……。」


しょぼんとした感じでマーニャが、一握りの塵を見せる。


「爆散したにゃぁ……。」


宝箱を開けた際の爆発は、中身ごと吹き飛ばしたらしい。


塵の中に瓶の欠片っぽいものが紛れ込んでいる所を見ると、おそらくポーションの類だったのだろう。


「つまり、宝箱を見つけても不用意に開けるなって事だな。」


「うぅ、どうすればいいにゃ?」


「パーティメンバーにトラップ解除できるものを入れるか……出来るなら宝箱ごと、上に持ち帰って、ミィナに見てもらうか、だな。」


宝箱が、収納に入るなら、まとめて夜にでも、女神ちゃんのギフトで、罠解除を降ろして処理してもいい。


「とりあえず、ここで少し休憩してから、先へ進むからな。」


俺はそう言いながら、食事の支度を始めるのだった。


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