第24話 新ヒロイン登場?……いいえ、タダのモブです、放っておいてください

「早速敵だよ。」


ダンジョンの扉を開けると、目前にコボルトが飛びこんでくる。


「任せるにゃ!」


コボルトの群れに飛び込んで行くマーニャ。


「一人じゃ危ない。」


マーニャの後を追いかけるように、アイナが飛び込んで行く。


「もぅっ!二人共勝手に行かないでよっ!」


レイナが怒りながらも、二人を囲もうとしているコボルトたちに向けて風の魔法を放つ。


……出遅れた。


三人娘のあまりにも素早く連携の取れた動きに、一瞬対応が遅れる俺。


「レイナ、退路を確保しつつ、中央に向けて掃討。」


「了解よ。」


俺の指示に頷いたのを確認すると、そのまま気配遮断を使って中央へと進む。


周りのコボルトたちはレイナたちに任せておけばいい。


俺は中央に集まっている集団が気になってそちらへと進路を向ける。



ダンジョンコアを操作している時にサキュバスの名前を見つけた。


俺はサキュバスという言葉に惹かれて、第一階層へ配置するようにササっと操作をしたのだが、思い返せば不思議な点がいくつかあった。


まず、あの時点では、出現モンスターのレベルは調整できるものの、個別に配置することなどできなかったはずだ。


……だけど、何故か配置できた。後、操作の時の表示が、モンスターを配置するのとは違っていたような気がした。


初めて触る装置なので、そう言うものだろうと、あまり気に留めていなかったが。


それから、サキュバスの名前の後に?がついていたような気もする。


些細な事なので、やはり気にしていなかったけどな。


重要なのは、サキュバスがダンジョンに居たという事で在り、ダンジョンの奥底ではなく、入ってすぐの第一階層に配置することが出来たって事だけだ。


そして、中央のモンスターの集まっている所では、サキュバスの饗宴が行われているかもしれない。


つまり、コボルト相手に、あんなことやこんなことをしているサキュバスが見られるのかもしれないのだ。


だったら行くしかないだろう!


俺は群がるコボルトを切り捨てながら、中央へと向かうのだった。



……なんなのよっ。何でこんなことになってるわけっ!


私は群がるコボルトを切り伏せる。


襲い掛かってくるコボルトたちを切り伏せているうちに、相手の攻撃頻度が緩やかになってきた。


と言っても数が減ったわけではない。


ただ、私がそう簡単に組み伏せられる相手じゃないと知って、慎重になっているだけだろう。


その証拠に、私を包囲する輪が、僅かづつではあるが狭まってきている。


……今の内に何とかしないと。


細い通路とは言わないまでも、せめて壁を背にしたい。


完全に包囲されたままでは分が悪すぎる。


そんな私の願いが通じたのか、私の背後で、ごごごぉぉぉぉッという地鳴りが鳴り響き、巨大な土壁がせり上がってくる。


……チャンスだっ!


私は背後にいるコボルトを切り伏せ、壁に向かって走る。


壁を背にした私は、ある意味追い詰められたと言ってもいいが、少なくとも背後を気にしなくていい分、気持ちは楽になった。


『フレイムウォール!』


私は自分の前と左右に炎の壁を生成する。


コボルトたちは火を恐れ、包囲を拡げる。


……ふぅ、これで火が消えるまでは、一息つけるわね。


私はポーチからポーションを取り出して飲み干す。


……後は、持久戦ね。


ポーションが尽きる前にコボルトたちを一掃できれば私の勝ち、そうじゃなかったら私の負け。

負けたら、コボルトたちの慰み物となり凌辱の限りを尽くされるだろう。

そうなる前に……。


私はポーチの中の小瓶を握りしめる。


その小瓶の中身は毒薬。いざという時の自決用だ。


年上の女性冒険者に教えられたこと。


魔物たちは、人間の女性をすぐは殺さない。

捕らえて巣に連れて行き、気が狂うまで犯され、仔を孕ます苗床とされる。

その様な時の為に、自決手段は備えておく事だ、と。


その女性冒険者は、毒を塗った自決用の小刀と、奥歯に毒薬を仕込んだカプセルを埋めているという。


私は、その話を聞いた時、いくらなんでも……と話半分に聞いていたが、ここはそう言う世界なんだと、今初めて実感していた。


「ハヤト……助けてよ。」


思わず涙と弱音がこぼれる。


千条勇人せんじょうはやと……私の幼馴染。


ラノベとゲームが好きなただのオタク。唯一の取り柄は親譲りのイケメンであること。


イケメンじゃなければ、きっとイジメられて引き籠っていたに違いない。


イケメンゆえの宿命か、初対面の女性にはそれなりにモテ、男性には嫌われる。


だけど、その残念な性格のせいで、付き合いが長くなるほど、男性には何となく受け入れられ、女性の足が遠のくという現象が起きている。


そんな彼と私が巻き込まれた異世界への召喚という、馬鹿げた出来事。


隼人は、念願の夢がかなった!と大喜びだったけど、私はそれどころじゃなく、異世界ボケしている隼人を支えながら今日まで生きてきたのだ。


と言っても、隼人は勇者として召喚されたという事で、かなり優遇されていて、お陰で私も辛い目にあわずに済んでいた。


ただ懸念があるとすれば、私達を召喚したというロリッ娘女神。


何かと現れては隼人に、色々としていく。ある日は金貨が詰まった袋を、またある日は伝説の聖剣を、何事もないかの様にポンと渡していく。


そのロリ女神が隼人を見る目は、親戚のお姉ちゃんが、新宿のホストに入れ込んでいた時と同じ目だった。


けど、まぁ、残念ながら、隼人はロリコンじゃないので、相手にもされていなかったけどね。


隼人の好みは、ボンキュボンの魅惑的なお姉さん。特に胸はDカップ以上ないと女じゃないと言い切るぐらいのおっぱい星人だ。


どちらかと言えば幼い顔立ちの私が、隼人の傍にいて邪険されていないのも、88のDカップという胸を持っているからだと思う。


だから私は、ロリ女神のためにも、隼人の為にも……そして自分の為にも、色々と忠告してあげたのに。



……っと、そろそろ火の壁が消えるわね。


短い時間だったけど、一息入れたことで、精神的に少し回復できた。


……ウン、まだ戦えるっ!


私はまだくすぶっている炎を飛び越えて迫ってくるコボルトを、剣の一振りで切り伏せる。


それが第二ラウンド開始の合図だった。





……どれくらい、経ったのだろう?


切り伏せたコボルトの数は数えきれない。


心なしか攻めてくる勢いが弱まっているように感じるのは、コボルトの数が減ってきているからなのだろうか?


冷静になって辺りを見回すと、私を取り囲むコボルトの数が減っているのが分かる。


せめて、もう一本ポーションが残っていれば、何とかなったかもしれない。


……それでも、もう時間の問題よね。


ポーチに残っているのは最後の小瓶……自決用の毒薬が入った小瓶だけ。


……一応ギリギリまではあがくけど、毒を煽るぐらいの体力は残しておかないとね。


私は自嘲気味に笑う。


コボルトがナイフを振り回して飛び掛かってくる。


私はそのナイフを剣で受け止める……。受け止めるのがやっとだ。


体力が残っていれば、弾き返せたはずの攻撃。


だけど、今は受け止めるだけで精いっぱい。


更に後ろからコボルトが迫ってくるのが見える。


……ここまでかな。


今のコボルトを何とか弾いて、小瓶を取り出して煽る……たぶん余力はそれだけしか残されていないと覚悟を決める。


……隼人のバカぁ。


最後に思うのは、幼い頃からずっと好きだった男の子の事。


相手にそんな気がない事は分かっているだけに辛かったけど……それももう……。



使役契約テイミング



どこからか声が聞こえた気がした……でも、もう関係ない。私は、最後の力を振り絞ってコボルトを弾き飛ばす。


……えっ?


思っていた以上にコボルトが弾け飛んでいく。


気づくと、身体の中から体力が溢れかえってきて、先程まで感じていた倦怠感がない。


これならっ!


私は襲い掛かってくるコボルトを一閃のもとに切り伏せると、その向こうでコボルトを切り伏せている人影が見える。


……助かったの?



……私が、状況を知るのは、もう少し先の事になる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る