第12話 嫁?ハーレム?どこの世界線の話しですか?
「えっと、つまり、女神様が現れて、この村が襲われるって御神託を受けたってこと?」
「……簡単に言えばそうなる。」
ミィナは俺をまじまじと見つめ、額に手を当てる。
「熱はないみたいだし、昨日食べた毒キノコは、幻覚作用は無かったはずだし……。」
……イヤ、至って正気だし。ってか毒キノコって、何食わせてんのっ!
「信じろとは言わないけど、今はどうするかが問題だ。」
おれは地図を取り出し、村周辺3-4日で移動できる辺りの中で、潜むのに適した場所を探す。
「ここと、ここ……後この辺りか……。ミィナ…。」
俺は、ミィナに地図の印をつけた辺りを調べるように伝える。
「………本当にいたわ。」
しばらくして、遠隔視を使っていたミィナが、驚きの声を上げる。
「……20人ってところか。」
視覚拡張で、ミィナが視覚同調しているネズミを起点に、その周りを見てみる。
なにか話しているようだけど、生憎と声までは聞こえない。
「……カズトさん、あの人達、この村を襲う計画をしていますよ。」
「だからそう言って……って、わかるのか?」
「えぇ、唇の動きを読みました。」
「すげぇ、ミィナそんなことまで出来るのか?」
「えぇ、以前私以外の女の子にデザートをご馳走するどうしようもない御主人様が居られたせいで自然と……。」
……マズい、ミィナの瞳からハイライトが消えている。
「そ、そうだ、盗賊だよ。村長のところに行って相談しないと。」
俺は、誤魔化すようにそう言って、村長宅へと向かうのだった。
俺とミイナが村長宅の前までつくと、家の前に一人の少女が佇んでいた。
「あら、レイナちゃん、どうしたのこんなところで。」
「あ、おねぇちゃん!………と甲斐性なし。」
………どこで覚えた、そんな言葉。
「えっとね、今パパとママが仲良し中だから、お家に入れないの。」
レイナの言葉に、ミィナの顔がひきつる。
「まさかと思うけど、今までも?」
「………うん、仲良し中は表に出ていないといけないって。」
……サイテーだ、あの村長。
「レイナちゃん、今度から、そういうときはウチにおいで。」
ミィナがレイナに微笑みかけながらいう。
「いいの?」
レイナが、ちらっと俺をみて言う。
「おねぇちゃんも、あの甲斐性なしと仲良し中だったりしない?」
「そんな事、絶対ありえないから、心配しないで。」
……ちょっと、ミィナさんや。絶対って酷くないっすか。
「……そか、甲斐性ナシだもんね。」
レオナの俺を見る目が、哀れみに満ちていた。
……泣いていいかな?
取り敢えず俺達は「至急!」と書いた書置きを残して、一旦家に戻るのだった。
◇
「はぁぁっ?」
「おや、聞こえなかったかのぅ?今日からお主が村長じゃ。」
……脳みそ湧いてんのか、このオッサン。
そう言えばさっきまで、仲良し中だったよな。色ボケの方か?
「何考えてるんだよっ!大体いきなり、俺が村長って言ったって、村の人が納得するわけ無いだろ。」
「問題ないとは思うがのぅ……。そうじゃ、だったらこうしよう。」
村長はポンッと手を打つと、レイナを呼ぶ。
「なんでしょう、お父様。」
レイナの所作が、普段俺達に見せるものとは違う。
こうしてみると、お嬢様に見えるから不思議だ。
「ウム、レイナよ。今日から、こちらのカズト殿のもとに嫁ぐのだ。」
レイナがちらっと俺を見る。
その瞳は、父親に何を吹き込んだ、この甲斐性なし!と訴えている。
「ちょ、まっ、なに言ってんだよオッサン!」
思わず言葉遣いが崩れる。
しかし、村長は、俺の言葉に耳を貸さず、レイナに問いかける。
「不服かのぅ?」
「……いえ、お父様に決めていただいた過分なる縁に不服などありませんわ。」
レイナはそう言うと俺の前で三つ指を突いて頭を下げる。
「カズト様、不束者ではございますが、末永く可愛がって下さいませ。」
……えっと、レイナちゃんが嫁?可愛がっていいの?
「おっと、カズト殿。わかっておられると思うが、レイナはまだ成人前故に、夫婦の営みは、レイナが成人後祝言をあげてからですぞ。」
……ってことはなに?手が出せない女の子が増えただけ?
「ちょっと待てって。大体なんで俺が村長って話になるんだよっ!盗賊の襲撃があるって言っただろうがっ!」
「だから、じゃよ。」
村長が鋭い眼光を向ける。
「多分、盗賊の襲撃に対しては、カズト殿に一任するのが一番良いじゃろう。しかし、他所者に一任では納得しないのも出てくるじゃろうて。それを説得している暇など無い。だったらカズト殿が村長になれば村長命令で言うことを聞かせられるじゃろ?」
「だったら、俺の言う事を村長さんが伝えてくれればいいじゃないか。」
俺がそう答えると、村長はそっぽを向く。
「面倒だからヤダ。それに万が一のことがあれば村長が責任を取らなきゃならんじゃろうが。」
………それが本音かよ。
「ということで、今日は遅いから、明日の朝、広場に村人を集めて説明するからのう。盗賊の件についても、その時に説明するが良い。」
その言葉を最後に、俺達は村長宅を追い出される……レイナも一緒に。
訳が分からないまま家に帰ると、玄関でアイナとマーニャが三指を突いて出迎えてくれた。
「えーと、これは?」
……それよりどうやって入ったんだよ。
「カズト様のもとに嫁入り。」
「不束者ですがよろしくにゃ。」
アイナとマーニャが深々と頭を下げる。
「どゆこと?」
俺は困ってレイナを見ると、レイナも困った表情で答えてくれる。
「実は、私達、苺園の誓いをしてまして……。」
「苺園の誓い?」
俺が怪訝な顔をすると、アイナとマーニャがすくっと立ち上がって、小刀を天に掲げる。
すると、レイナも同じ様に小刀を掲げ、3人で唱和を始める。
「「「我ら天に姉妹の契りを誓う。生まれた日は違えど、結婚する時は同じ日・同じ伴侶を願わん。病める時も貧しき時も、常に共にあり、苦楽を同じに、共に歩むことをここに誓う!」」」
………えっと、つまり、その誓いをしたから、残りの二人も俺の嫁になる?
「頭が痛くなってきた。」
「大変。今日は休まれたら如何ですか?」
ミィナが、苦笑しながらそう勧めてくる。
……そうだな。今日は何もかも忘れて、ミィナにギュってしてもらって癒やされよう。
俺がそう考えている間に、ミィナは三人娘に拉致られていった。
何でも、これからのことを話し合うための女子会をするのだとか………。
結婚って、夫って、旦那さまって………。
俺は世の中の不条理さを、その身で受け止めながら、一人寂しくベッドに潜り込むのだった。
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