第56話

 その時、馬の嘶きがして大きな物音がしました。

 人が近付いてくる足音がして…

 「アルベルト、一体何事だ?煙がもうもうと上がっていて驚いて来てみたら…嘘だ…」

 誰かの足音がして私の身体はがっしり掴まれました。

 「シャルロット!シャルロット…何があったんだ?どうしてこんな事に」

 狼狽えた叫び声、震える手の感触が私の身体に伝わって来ます。

 誰でしょうか?こんなにわたしを心配して下さるのは…

 「クレティオス帝、薪ストーブです。私が着いた時にはもう薪ストーブの煙が部屋中に充満していて、シャルロットがどこにいるかもわからず、やっとソファーにいた彼女を連れ出してきたところです。でも彼女は息を…い、きを…してなくて…死なせない。絶対に死なせたり…クッソ…」

 「いいからシャルロットをそこに寝かせてくれ‥私がやってみる」

 私は地面に横たえられたらしく。

 でも、声は聞こえるのですが身体は全くいうことをききません。

 目を開けたいのに、まつ毛一本たりとも動かせなくて。

 それに今確かクレティオス帝と言ったような…


 「ハルチウム・ラウト・ゾラクス・イシュビック・マーイン…ハルチウム・ラウト・ゾラクス・イシュビック…ハルチウム・ラウト・ゾラクス・イシュビック!」

 私の身体にパワーが送り込まれて来ます。力が沸き上がり心臓が鼓動を始めようとし始めています。が…

 でも、まだ何かが足りないようです。


 「ああ…シャルロットしっかりしろ。こんなに震えて…」

 ふわりと温かい物が身体の上に掛けられました。きっとアルベルト様の上着かなにかでしょうか?

 彼の香りがしてとても夢心地の気持ちになります。


 「アルベルト、それは…アドリエーヌの守護の宝輪ではないのか?いったいどこでこれを?」

 「あっ、クレティオス帝にお返しするつもりで上着のポケットに入れたままで、エリザベートが付けていましたがこの腕輪は彼女を守るどころか傷つけたんです」

 「当たり前だ!アドリエーヌの為に作ったこの守護の宝輪は彼女自身を守るもの。他の者を守ったりするわけがない…ちょっと待て、そうだ!これをシャルロットの腕につけてみたらいいかもしれん。ほら、シャルロットこの腕輪がお前を蘇らせてくれるかも知れん」

 私の腕に守護の宝輪がはめられたらしいです。

 その瞬間私は魔力の泉ともいうべき力に包まれました。

 守護の宝輪はシャルロットのパワーを吸収しあの腕輪の中に魔力をため込んでいた。

 それは守るべき人にのみ使う力だったが…

 どこからかニオイイリスの花びらが舞いシャルロットの身体の上に舞い降りて行く。


 私の身体中の細胞が目を覚まし肉体の機能が復活し始めたらしく。

 心臓が力強く鼓動を繰り返し、脳細胞は身体中に指令を送り始めます。

 酸素を取り込み肺を酸素で満たすと呼吸が再開されました。

 心臓が動き始めると指先がピクリと動いて。

 まぶたがプルプル震えるとまつ毛も一緒にふるふる震えてます。

 真っ白になっていた肌の色がピンク色になってとうとう唇も赤く色ずき始めたらしく。

 「シャルロット!シャルロット?聞こえるか?息が…ああ…神様シャルロットが息を…息をしている。ああ…顔が…頬が…唇が色づいて…シャルロットしっかり。しっかり息をするんだ…」


 私はついにまぶたを開けることが出来ました。

 ゆっくり目を開けると、目の前には愛しいアルベルト様がくしゃくしゃになった顔で私を見つめていらして。

 ああ…愛しいあるべるとさま。胸が締め付けられそうになります。

 「ある、べる、と,さ、ま…」

 「しゃ、しゃる、ろっと…ああ、良かった。良かった。君が…生き返ってくれて、君を失ったかと…失ってしまったかと」


 アルベルト様は私の身体をがっしりと抱きかかえられて私をむぎゅうと抱きしめられて。

 「あ、ある、べると、さま…く、くるしい。です」

 「あっ!すまん。ついうれし過ぎて…」

 でも私は彼の腕の中にしっかり納まっています…

 彼が私を抱き上げると降り注いだニオイイリスの花びらがまた舞い上がった。

 かぐわしい香りを放ちながらニオイイリスの花びらは私の周りでひらひらと舞って、まるで私の無事を祝福しているかのように見えた。



 「見て、きれいです」

 私はその花びらに見とれて。

 「ああ、きれいだ…」

 アルベルト様もその花びらを見上げて。

 空は満点の星が煌めいて大きな満月さえもが顔を出していた。

 そのおかげで辺り一面がキラキラ輝いているように見えた。

 「シャルロットもう二度と離さない」

 またアルベルト様が私をぎゅっと抱きしめて下さって。



 「シャルロット良かった。やはり守護の宝輪はお前を守ってくれたな…」

 聞き覚えのある声に私はぎょっとしました。

 「ク、クレティオス帝?どうしてここに?えっ?でも、そんなことしたら私のことが…」

 私が起き上がろうとしたので、アルベルト様が私を支えて起して下さって。

 脳は混乱を極めてしまい。

 クレティオス帝がどうしてこんな所にいらっしゃるのか?それに守護の宝輪が私を守ったてどういう事でしょうか?

 あれはお母様のもので…それにそんな事言ってよかったんでしょうか?

 あの秘密が…あわゎゎ…



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