第45話

トルーズ様たちは王城に着くと知り合いだと思われる西口の門番と会話をしていた。

 すぐに門が開かれ彼らが入って行く。

 私は少し離れて後を追う。

 門番の目をじっと見つめると”私は彼らの仲間だ”念じる。すると難なく通り抜けることが出来た。

 自分でもこんなにうまく行くとは思わなかったわ。

 あの櫛が3つ揃ってから私の身体はあふれ出るほどの勢いで力がみなぎって行く感覚がして、きっとお母様やカロリーナがパワーを与えてくれているのだと思うわ。

 しっかりしなくては…アルベルト様を助けてあのふたりを倒すためだもの。

 それが私のやりたかった事だもの。


 ううん、今は集中しなくては…

 目を凝らすと遠くにトルーズ様たちが真っ直ぐ西側の建物に入って行くところが見えた。

 その建物はかなり古いものらしくところどころ石垣が崩れているところもあった。

 だが、造りはしっかりしているらしく石をつまれた壁は頑丈でまるで牢獄を思わせ…もしかしてここにアルベルト様が?

 そうよ、この建物は牢獄なんだわ。

 もう、私ったら緊張して脳にきちんと酸素が送れてないんじゃない!

 しっかりしなきゃ…


 トルーズ様たちの後を追って建物の中に入る。

 中は薄暗く目を凝らしてなかの様子を伺う。

 それにしても見張りはいないのかしら?

 おかしいほど静かだ。

 やっと目が慣れて来たと思ったらトルーズ様たちがアルベルト様を救い出してくるのが見えた。

 向こうからはヨーゼフ先生たちも走って来るのが見えた。

 さすがはアルベルト様ですわ。昨夜から拘束されていたとは思えない素早さに驚きながら、私は急いで姿を隠した。


 「アルベルト様はこれから議会に向かってください。ブランカスター公爵が先にランベラート皇王を糾弾しているでしょうから。さあ、私が一緒にお連れします」

 「リンデン怪我は大丈夫なのか?」

 リンデン様は昨夜の騒動で腕に怪我をしたらしい。

 「はい、これくらい平気です。議会室まで一緒に行きます。議会を招集されたのはあなたです。あなたが行かなければいくらブランカスター公爵が球団したところでまたランベラートが好き放題に言うに決まってます」

 「ああ、そうだな。ありがとうリンデン。みんなにも感謝する。気を付けて行ってくれ」

 ヨーゼフ先生たちは仲間とそのまま王城の外に向かって走り出した。残ったのはトルーズ様とリンデン様だけだった。



 私は陰に隠れて様子を伺っていた。

 私の出る幕はなかったみたい。とほっとして思わず声を漏らしてしまう。

 「アルベルト様ご無事で良かったわ…」 

 アルベルト様がいきなり振り返った。

 私は急いで木陰に身を隠す。

 アルベルト様は立ち止まり辺りを見回すとまた走り出した。

 良かったわ。このまま帰るのはどうもできなくて私は彼らの後を追った。

 建物の中央の入り口から入ると階段を上り始めた。どうやら議会の間が二階にあるらしい。

 階下にも大きな声が響いてきた。

 この声はランベラート皇王かしら?



 「…ブランカスター公爵、あなたの言ってることはすべてでっち上げだ。アルベルトは反乱分子と手を組んでや夜会の夜あのような劣悪な事をしたのだ。やはりエリザベートの占いは当たった。お揃いの議員の方々もこれでよくわかったでしょう。公爵あなたほどの人がアルベルトに騙されるとは…アルベルトはあのジョセフコールに呪われた我が皇国を亡ぼすどうしようもない人間だということがまだわからないのですか?大体これらの証拠は私を皇王の座から降ろし自分が王となるための策略。もしそうなれば我が国は恐ろしい事が起こる…」

 そんな陶酔めいた演説をランベラート皇王がしている最中だった。



 アルベルト様やトルーズ様、リンデン様は揃って議会の間に入って行ったらしい。

 「オオォォ-」議会の間にいた貴族議員たち30名ほどからどよめきが起こった。

 「皆さん静粛にお願いします。私はアルベルト・ルミドブール・エストラード。このエストラード皇国の次の皇王となるべき者。だがずっとここにいる叔父ランベラートに自分は皇王にふさわしくない人間だと騙されてきました。でも、そうではないとはっきりわかったんです。私はもちろん反乱など起こすつもりはありません」

 「アルベルト何を今さら、そんな言い訳は誰も信じない。皆さんこの男の言う事を信じてはいけません」

 ランベラートが急いで反論する。


 その声は階段にいた私にもはっきりと聞こえた。

 私はもっと近づこうと議会の間のある二階に上がって行った。

 そこにはドアの前に近衛兵がいた。

 アルベルト様はどうやって?いえ、彼は皇太子ですから入れて当たり前ですね。

 まず、この近衛兵を何とかしなくては…

 私はドアの前に立っている近衛兵に念じる。

 ”わたしは見張りを替わります。あなた方は3階の見張りに行って下さい。”

 近衛兵は大人しく私の言う通りに去って行った。


 私はドアの前にピタッと貼り付く。

 「いいえ、叔父とエリザベートはずっと皆さんを騙していました。エリザべーろには魔力もなく占う力などないのです。自分たちの都合がいいようにすべてを操り罪のない人たちが亡くなり投獄されてきました。それは皆さんもよくご存知のはずです。どちらが正しいか皆さんにはもうわかっているはずです。どうか私にこの皇国を正すチャンスをください。ここで皆さんの同意が得れるならランベラート皇王には退位を要求します。いかがですか皆さん?私は出来る限り事を荒げて国を乱したくはないんです」


 私はドアの外でアルベルト様の演説を聞いていた。

 さすがはアルベルト様。争うことなくきちんとした話し合いでこの場を収めようとするなんて…今までの彼らの仕打ちを考えたら殺したって気は収まらないはずなのに…

 私は彼の力強い演説に陶酔していた。

 あ、あるべるとさま。すごいですわ。


 次に声を発したのはブランカスター公爵だ。

 「聞いてください。彼はやってもいない罪で先ほどまで投獄されていたのです。私も最初から本当の事を話したかったのですが、何しろ皇太子が牢に入っていると言えば皆さんがどんな風に考えられるかと心配でしたから…」

 ブランカスター公爵がそこで皆を見渡した。

 議員たちがみんな頷き納得している様子にほっとして話を続けた。


 「皆さん。先ほどの話は全て本当の事です。夜会のカクテルに毒を仕込んだのはエリザベートの支持だったとここにいるマリーが証言してくれています。そしてマール。私の息子はエリザベートにまんまと騙されてモンテビオ国に石炭を横流ししているのを見て見ぬふりをしていました。この国のためだと言われてすっかり信じていたんです。コンステンサ帝国との取引も裏で画策してモンテビオ国と手を結んでよからぬことを企んでいるらしく、今すぐにこれを阻止しなければ大変なことになります。コンステンサ帝国もいつまでも黙ってはいないでしょう。いいですか。攻め込まれるのは我が皇国でモンテビオ国は高みの見物でもするつもりでしょう。そして我が国が弱り切ったところにでも攻め込むつもり。あの国がどれほど低俗な国か皆さんもご存じのはず。それをエリザベートは手を結ぼうなんて考えているんです。もうこのふたりに国を任せてはおけません。皆さん決断の時です」

 ブランカスター公爵が手を上げて机に拳を振り下ろした。



 大きな音が響いて、議員たちの声が上がった。

 「やっぱり」

 「ブランカスター公爵に賛成!」

 「そうだ。そうだ…」

 「いや、ですがこれはブランカスター公爵の一方的なご意見で私はランベラート皇王を信じています。この十数年この国は繁栄を極めています。それはみなこのおふたりの功績です」

 そう言ったのはリシュリート公爵らしい。 

 ああ。やっぱりです。噂ではリシュリート公爵もランベラート皇王の仲間だと言われていますから…

 私はドアの外でぼやいた。


 「ですが証拠は揃っています。リシュリート公爵側の領地の貴族は皆さんエストラード領の方々に養護されて借金をしても税金の免除を受けておられますよね?だが、一方でブランカスター領は違う。ここにバーリントン元伯爵をお連れしていますが、彼もその被害者です。彼は受けれるべき養護を受けれなかったため爵位を返すしかなかったのです。わざとわが領地側の貴族はそんな目にあわされて来たのです。ここにその証拠書類があります。どうぞ皆さんご覧になって頂きたい!そうやってリシュリート公爵もランベラート皇王も私腹を肥やして来たんです。これが許せることでしょうか?」

 ブランカスター公爵は容赦なしにふたりを糾弾する!

 議員たちからまたどよめきが起こる。

 もはや流れはアルベルト側に傾き始めていた。

 さすがですわアルベルト様。

 私は歓喜のあまりガッツポーズまでした。


 その時エリザベートが立ち上がった事に気づかなかった。




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