第44話
私は無事にラッセル・ジェルディオンの屋敷にかくまわれる事になる。
トルーズ様はシャルロットを頼むと引き返されてルミドブールのお屋敷に取って返された。
だがトルーズ様が屋敷に戻った時には近衛兵たちにアルベルトは捕まって、ちょうど近衛兵たちは引き揚げて行くところだったらしい。
アビーやマリーたちは隠れていたため無事だった。
それからすぐにトルーズ様はアルベルト様が書斎に保管されていた御父上の日記やアドリエーヌ様の櫛などをラッセル様のところに持ってこられた。
私は休むことなどできずにラッセル様と一緒にリビングルームにいた。
「ラッセル様夜分遅くにすみません。旦那様が捕まりました。これは証拠の品物でして」がっくり肩を落とされたトルーズ様はラッセル様に話をされた。
「案ずるなトルーズ。今からヨーゼフの仲間に連絡しよう。そしてブランカスター公爵にも知らせねばならん。いいか、証拠は揃っている貴族議会ではっきりした証拠を上げればランベラート皇王を退陣させることは出来るはず。この国にはまだ腐っていない貴族もいるはずだ。私も行く」
ラッセル様はヨーゼフ先生の事でかなり怒っていて、まるでドン・キホーテのような勢いを感じる。
「いえラッセル様。あなたにそのようなご無理はさせられません。ヨーゼフ様の仲間への連絡も、ブランカスター公爵へ知らせるのもお任せください。そして何より旦那様の救出は私たちに任せて下さい。それよりシャルロット様の事を頼みます。彼女は力のある魔女ですからエリザベートが彼女を狙っているんです。だからこの屋敷で彼女を守っていただきたいんです」
トルーズ様は幼い子供に言い聞かせるようにあなたが頼りですとラッセル様を説き伏せる。
「ああ、こんな老いぼれが出て行っても…わかった。シャルロットは責任持って私が守ろう。ではトルーズ色々すまんがよろしく頼む」
「はい、もちろんです。では私はすぐに知らせに行ってきますので」
トルーズ様はそう言うと屋敷を出ていかれた。
「シャルロットそう言うことだ。ここにいれば何も心配はない。安心して休んでくれ」
「はい、ありがとうございます」
そうは言ったものの。
ああ、どうしたらいいの。アルベルト様が捕まってしまっては…
「なぁに、心配ない。ブランカスター公爵もいるしヨーゼフの仲間もいる。証拠は揃ってるんだ。後は議会でランベラートを追い落とすまでだ!」
ラッセル様は意気揚々と笑った。
そんなにうまく行くかしら?
貴族はほとんどがランベラート寄りでブランカスター公爵だけではきっと無理よ。
アルベルト様がいれば議会でそれも出来たかもしれないけど…議員たちはランベラート皇王やエリザベートの言うままだろう。
それにアルベルト様が殺されたらどうするつもり?早く彼を助け出さないと…
ベッドに横になってもそんな心配ばかりで眠ることなどできなかった。
ううん、いちばん心配なのはアルベルト様の事、彼の命が危ないんだから。
その夜遅くにマリーがこっそりやって来た。
「シャルロットさん?」
「マリー?みんな大丈夫だった?」
「はい、おかげさまでアビーやベルやルナも無事です」
「そう、良かったわ」
「ですがアルベルト様は連れて行かれてしまって」
「ええ、そう聞いたわ。どうすればいいのかしら?彼がいなかったら…」
「大丈夫です。明日の議会でエリザベートの悪事を暴露します。私も証人として行くことになっています。だからシャルロットさんは安心して待っていてください。必ずアルベルト様を助け出しますから、今夜はそれを伝えようと思って来たんです」
「そんな、あなたにばかり…お願い私も一緒に連れて行って、私だってここでじっとしていられないわ」
「だから無理です」
「…では出発の時間は陰ながら無事を祈って見送りたいの…お願い、それならいいでしょう?」
「仕方ありません。11時に迎えが来ると聞いています。約束してくださいよ。ここで大人しくしていると」
「ええ、約束するわマリー」
夜が明けて私は早くに起きた。
というより居ても立っても居られなかった。
キッチンでそわそわお茶を入れているとトルーズ様が帰ってこられた。
「トルーズ様?大丈夫ですか?まさか一睡もせずに?」
「ああ、そんな事は心配ない。だがお茶を一杯頂けると…」
「ええ、もちろんですわ」
私は煎れたてのカモミールティーとふるまう。
トルーズ様はお茶を飲むと話を始めた。
トルーズ様の話によると、ブランカスター公爵はマール様やバーリントン様そしてマリーを連れて議会に行く。そこでアルベルトが連れ去られた事を公表してランベラート皇王とエリザベートに責任を問うつもりらしい。
もちろんアルベルト様はすぐに開放するように言うのだが…
そんなにうまく行くの?本当に?
「トルーズ様そんな計画でうまく行くんでしょうか?」
「そんな事は言ってられない。ランベラート皇王が旦那様が反乱を企てた首謀者だなどと言いだしかねない。エリザベートが占いで何か言い始めたら…はぁ…」
きっとトルーズ様もこんな計画では心配なんだわ。
「あの私も一緒に連れて行って下さい。私がいればきっとお役に立てると思いませんか?」
きっとだめだと言われるだろうがためらっている場合ではないわ。
「いや、シャルロット様そう言うわけには…あなたという人は…そんなに旦那様が心配なのですか?そうでしょうね…」
トルーズ様の視線が痛い。
やっぱり…それに鋭い!
も、もちろんアルベルト様も心配ですが…ち、違うんです。
「いえ、そのようなことでは。相手はカロリーナの仇ですから、私も何かお役に立ちたいんです!」
といったものの私の考えはお見通しで…
でも、アルベルト様を救うためならどんな可性でも試したかった。
「もちろん、シャルロット様のお気持ちはわかります。が、きっとブランカスター公爵も反対されますよ」
トルーズ様は反対された。
えっ?そっちですか…でも王城に行く事が出来たら何とかなるかもしれない。
「もしブランカスター公爵を説き伏せる事が出来たらいいのですか?」
「まあ、無理でしょうね」
トルーズ様は絶対無理だというような顔をされた。
「シャルロット様、いいから私たちに任せて下さい!お茶をありがとう。では急ぐので…」
トルーズ様は今は構っていられないご様子で急いで部屋を出ていかれた。
その日の午前中にブランカスター公爵が見えた。
アルベルト様のお父様の日記を証拠の品として取りに来られたのだ。
私はひそかにお母様の櫛を取り出していた。
そう私には考えがあった。
そして私の櫛とカロリーナの櫛、そしてお母様の櫛の3つを持っていた。指輪ももちろん指にはめる。
都合のいい事にカロリーナの黒いマントもここにあった。
昼前にブランカスター公爵が見えた。
私は出迎えも早々に話をする。
「ブランカスター公爵、お願いがあります。私を王城に一緒に連れて行ってもらえませんか?」
「いえ、シャルロット様あなたをそんな危険な目に遭わせるわけには行きません」
ブランカスター公爵がきっぱり言う。
「シャルロット?無事でよかった。心配してたんだ。君は一緒に行けないよ。危険すぎる」
そうおっしゃったのはマール様だった。マール様は驚いてそして首と横に振られた。
マール様はお父様と一緒に王城に行かれるらしい。
「マール様もご一緒に?そうですわ。私はブランカスター家に仕える魔女という事ではいかがでしょうか?」
「いや、無理だ」
「シャルロット気持ちはわかるけど今回は諦めてくれ。君はここで待っていてくれ、必ずいい報告を持って帰る」
マール様は自信たっぷりにそう言われた。
でも、そんなにうまく行くとは思えないが私は「わかりましたわ」と返事をした。
仕方がありません。
ブランカスター公爵が帰られると私は行動を開始した。
ルミドブール家に行くとこっそり様子を伺う。
マリーはブランカスター公爵と一緒に王城に向かっているはず。
残っているのはトルーズ様たちだ。
私はトルーズ様とヨーゼフ先生の仲間と思しき方々が揃って出発する後を追った。
彼らはアルベルト様を救出するに違いない。
私はマントを深々とかぶり顔を布で覆って遅れないようについて行く。
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