第25話
ヨーゼフ先生がこんなにせっかちな人だとは思わなかった。
嫌がる私の腕を無理やり取るとルミドブール家鄭に入って行った。
チャイムを鳴らしてトルーズ様にアルベルト様に面会を申し込む。
「すぐに旦那様をお呼びしますので、どうぞおはいり下さい」
トルーズ様に言われるまま玄関ホールを入りリビングルームに向かう。
その時もヨーゼフ先生は、逃げ腰の私を逃がすものかと腕をしっかりとつかんだままで歩いた。
「一体何事ですか?」
アルベルト様が書斎から急いで出て来た。
彼の顔が一瞬強張った。
「お、お二人で何を?」
次には眉を寄せて顔をしかめた。
「お話があるんです」
「まあ、どうぞ…」
そこは公爵たるもの礼儀としてリビングルームにと手招きした。
私はヨーゼフ先生に確保されていた腕をやっとほどかれてふたり並んでソファーに座った。
「実は今度の建国記念の夜会にシャルロットを一緒に連れて行ってもらえませんか?」
「はっ?どうしてです」
「シャルロットはカロリーナがあんな目に遭って僕たちに協力したいと言ってくれてるんです。それで、どうでしょう?ロベルトを誘ってふたりきりになってもらって部屋に連れ込んでもらって、そこへ我々が彼の真意を問いただしてみようかと思いまして…」
ヨーゼフ先生は自信満々いそう言った。
「ロベルトを誘って?シャルロットがそんな事をする必要が?それにロベルトの真意だなんて…今さら、彼は父親の言いなりに決まってる」
「でも、聞いてみなければわからないじゃありませんか。もし、ロベルトが父親の行いを愚行と思っているなら…彼は時期皇太子に決まってるんですし…ランベラート皇王とエリザベートを失脚させるチャンスかもしれません」
「まさか本気でそんなことを思ってるわけじゃ?」
アルベルト様はヨーゼフと私を交互に見る。
「シャルロットどうだい?これは君のやる気にかかっている。僕だってこんな事させたいわけじゃない。でも、いつまでもランベラートに好き勝手をさせているわけにはいかないだろう?」
ヨーゼフ先生の期待の眼差しは熱い。
でも、どうしてもアルベルト様の気持ちが知りたい。さっきはあんな風に言ったけどもしかしたらと私は期待してしまう。
「ええ、わかってます。だけど…アルベルト様はどうなんです?あなたは次の皇王になるつもりはではいらっしゃらないんですか?あなたは国を引き継いでこの国を正しい方向に導く事だって出来るのに…」
つい、アルベルト様をあの輝く黒曜石のような瞳を見つめてしまう。
あなたにそうであって欲しいと願っている。
「どうして?いきなり俺に聞くんだ。俺はそんな気はないってはっきり言っている。散々…貴族に笑いものにされてあんな奴らの為に俺がどうして国を背負って行かなきゃならんのだ?」
「やっぱりそうですよね。でしたらあなたが私たちのやることに口を出す必要はないんじゃありませんの?アルベルト様はさっさと私をその夜会に案内して下さればいいんですの。それ以上は何もしなくて結構ですわ!」
まったく!
私は彼のやる気のなさにとうとう頭に来た。
私は声を荒げて言い放った。
その時ぎゅっと拳に力を入れてしまうと、リビングルームにあった絵画の額や暖炉の上に飾られていた置物がガタガタ揺れた。
アルベルト様もヨーゼフ先生も驚いた様子でわたしを見た。
はっとする。私のせい?
いけない。子供の時怒りが爆発して周りの人にけがをさせたことを思い出すと握りしめていた拳から力が抜けた。
すると揺れていた置物も静かになった。
「い、今のは?シャルロットなのか?」
「あら、怒りで我を忘れてしまいましたわ」
素直になんかなれなかった。
「何だ、その言い方失礼だぞ!こう見えても俺は公爵なんだぞ。それにシャルロットにそんな危険な事させられるわけがない。この話は断る。私はシャルロットを連れて夜会になんか行かないからな!話はそれだけか?」
「やっぱりだめですか…仕方ありませんシャルロット。それにこれはとても危険なことですし…やはりアルベルト様がおっしゃる通りです。また別の方法を考えよう」
「で、でも…」
ヨーゼフ先生は励ますように私の手をしっかりと握った。
いえ、私そこまで気落ちしてないんですけど…
「コホン!おふたりはとても仲がよろしいんですね。もう帰って頂けませんか」
アルベルト様の視線がチクチク痛い。
「そう言えばアルベルト様。シャルロットはこちらでお世話になっていたのですから、こちらに帰って頂いてはどうでしょうか?」
ヨーゼフはいきなり思い出したように言い出した。
「何を?シャルロットが貴方のところがいいと言ったんです。シャルロットの事はどうかそちらで面倒を見てください。こちらはそれで構いませんので、では失礼する」
「いや、でも…」
「いいんです。ヨーゼフ先生。さあ、帰りましょう。アルベルト様は私がいてはご迷惑みたいですから…先生、今日は先生の好きなものを作りますからね」
私はわざとらしくヨーゼフ先生に甘えるように言う。
「いつも悪いね。シャルロットが作るものは何でもおいしいからな」
「いいんです。大好きなヨーゼフ先生のためなら…」
私はアルベルト様と目が合う。
ふんっ!と顔を背ける。
「シ、シャルロットやっぱり君は…もういい。さっさと帰ってくれ!」
アルベルト様は相当怒った様子で振り返りもせずに踵を返してリビングルームを出て行った。
私たちはそそくさとルミドブール邸を後にすることに。
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