第24話
私はヨーゼフ先生から呼ばれてはっとする。
「なんでしょうか?」
「シャルロット君の力を見て驚きました」
「えっ?でも、私。魔女と言ってもカロリーナからはほとんど指導を受けたこともなくて魔術はほとんど使ったことがないんです。まるっきり初心者で」
「でも、さっきマールに…」
「あ、あれは、アルベルト様が同じようになった時うまく行って、それで…」
ヨーゼフ先生に問い詰められてしどろもどろになる。
「そうか…マールを助けたことは本当に凄かった。これでブランカスター公爵が私たちについてくれるかも知れない」
「どういう事なんですか?わたし前にも言いましたよね。何かお手伝いできることがあればやりたいって」
ヨーゼフ先生はしばらく黙ていたが、やっと口を開いた。
「いや、シャルロットはマールが毒入りの薬湯を飲んでることに気づいたんだろう?悪いと思ったがさっきの話が聞こえて…」
「はい、それはアルベルト様が来られた時に、彼マール様と同じように心臓発作を起こされて」
「そうか…もう秘密にしてはいられないな…」
先生が話しにくそうにする。
「実はランベラート皇王とエリザベートが国を治めるようになってこの国の有力な貴族議員や貴族たちがカロリーナと同じような目に遭ってるんだ。殺されたり投獄されたり、彼らの敵をエリザベートが占いで反逆者にしたり、何らかの罪を犯したように見せかけたりして次々に排除していて、今では彼らに逆らうものは誰もいなくなった。あいつらはこの国を食い物にして自分たちの私腹を肥やしてばかりで国の事など何も考えてはいないんだ。働いている人たちの事も天候不良で作物が不作で喘いでいる領地の事も、街の暮らしや病気の人たちの事さえも…何も手を下そうとはしない。だから義士隊というグループであいつらを倒そうとしているんだ。彼らはカロリーナの力を借りたいと思っていた。きっとカロリーナには申し訳ないことをしたと思ってる。もっと気を付けておくべきだったのに…」
「でも、もうそれは…それは仕方がありません。カロリーナは120歳になっていました。身体もかなり弱っていたしいつかはそんな日が来るのは間違いなかったはずですから…だから…」
そうは言ったけどカロリーナの事を思い出したら私はまた泣いてしまった。
「すまんシャルロット。君に辛い思いをさせてしまった」
ヨーゼフがそっと私に付かづいて背中をさすってくれた。
先生の胸に顔を埋める。
「きっとカロリーナの仇は取るから…シャルロットもう悲しまないで…君には僕たちが付いている。これからは僕たちを家族と思ってくれないか」
私は先生から離れてうなずいた。
「ありがとうございます。あの…噂に聞いたんですが先生たちが義士隊の方なんですか?」
「そ、それをどこで?」
「それは…ト、トルーズ様に…」
まさかコンステンサ帝国のクレティオス帝から聞いたなんて言えるはずがない。
「そうか、ばれてたか…彼も仲間なんだ。僕たちは今の体制を倒すために、彼らの悪事を暴こうとしているんだ。だが、問題はアルベルト様で…彼がもっとその気になってくれるといいんだが、彼が皇王になる気になってくれないと‥」
「無理です。彼はそんなつもりはないんですから、他にいないんですか?次の皇王になれる方は」
「後はランベラート皇王の息子のロベルトしか…彼はもう皇太子ということになっているからランベラート皇王が失脚すれば次の皇王になる訳だが…」
「ロベルト様ってどんな方なんです?その方に協力していただくわけには?」
「さあ、どうかな?父親を裏切る真似はしないだろう」
「でも、好きな女性とかいれば何とかなるんじゃないんですか?」
「どうだろう?彼の女性関係は乱れていると聞いている」
「そうですか…私もお力にはなりたいですが…」
「そうだ!シャルロット。君、ロベルトを誘惑してくれないか?今度の建国記念の夜会に出席して、いや、君なら出来る。そんなに魅力的なんだから…ロベルトに今の皇王のやっていることを知らせて父親を追い落とす気にさせることが出来たら…ランベラートを王の座から追い落とすと同時にエリザベートを。君は魔女だからエリザベートの力が本物か分かるんじゃないか?彼女は聖女だが、実際にそれほど力がないんじゃないかって噂もあるんだ。もし彼女の力が偽物ならそれを暴けば聖女ではいられなくなる。それにエリザベートは多くの男とも関係があるとの噂もある。純潔でなければ聖女ではいられない。もしエリザベートの本性が暴ければ…」
ヨーゼフ先生の暴走は止まらない。
「アハハハ…そうかもしれませんが、私が誘惑なんて無理。無理ですから」
私はじりじりと先生から遠ざかる。
「いや、そうしよう。まあ、無理でもやってみる価値はある。それにエリザベートの事を知るチャンスだしね。だからアルベルトに夜会に一緒に連れて行ってもらえるように頼んでみよう」
「で、でも私は平民ですから」
何だろう。この焦る気持ちは。額から脂汗がじわりと流れた。
「それは私の遠縁とでもすれば、いやもしブランカスター公爵が付いてくれればそっちの方の親戚とでもすればうまく行くかも知れない」
「はっ?先生と私が親戚?とんでもありません。こ、公爵様の家柄を名乗るなど…」
いえ、本当はそうですけど、そこは今は言えないところですから…
「いいから、そう言えばどうしてルミドブール家から追い出されたんだ?」
「お留守の間に女が勝手に住むことになった事を許さないとおっしゃって」
「そんな事で?僕が交渉する。シャルロット君はルミドブール家に帰るんだ」
「えぇ?無理です!」
頭にアルベルト様が言った言葉が思い浮かんだ。
うれしそうな顔をして今夜は帰って来る?って聞かれた時の彼の顔が浮かぶ。本当は帰ってほしかったの?
「いいから、さあ行こう」
「先生。私まだ荷物も持ってませんけど…」
「荷物は後で届ける。いいから、さあ…」
「で、でも…」
「シャルロット。力になりたいって言ったよね?」
あっ、そこですか。
私は唇を噛んだ。どうしたら…
いえ、これはお母様とカロリーナのためなんです!
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