第22話(アルベルト視点)
俺は二日掛けてデルハラドに帰って来た。
体力が弱っているせいか馬車に揺られているだけでも辛かった。
いや、辛いのは身体もだが、心はもっと辛かった。
カロリーナの事で頭は狂いそうなほど痛くて苦しくて‥‥苦悩にさいなまれていたというのに…
この身を引きちぎられてしまいそうなほどの苦痛にあえぎ、喉元は辛酸をなめるほど苦しみを味わいながらカロリーナの事を思って来たと言うのに…
すべて嘘だったと…
カロリーナ…いや、シャルロットとか言う女はさらりと言ってのけた。
俺が嘘がどんなに嫌いかも知らずに…平気で嘘だったと…
痛恨の思いではらわたが煮えくり返る。
おまけにあの出来事さえも、媚薬のせいだったと…
俺が…俺が…初めてこんな気持ちになった女性だったのに。
クッソッ!
俺は呪われているから、だから何もかもうまく行かないのか?
俺はこれからも何かを望むたびにこんな仕打ちを受けるのか?
こんな人生。いっそ早く終わったらいいんだ。
誰も俺が死んだからと言って気にする者はいない。
騎士隊での苦しかった訓練やレオンと一緒に体を鍛えた頃の事が頭に浮かぶ。
俺は騎士隊が好きだ。
だがその中でも俺の事を疎む奴らもいる。妬む奴も陰で悪口を言うやつも…
でもレオンだけはいつも俺を対等に、いやむしろ敬意を払ってくれる。
こんな俺に王族としての誇りや振る舞いを思い出させてくれる。
のぼせた頭がすっかり冷え切って来た。
いくらなんでも言い過ぎたか…
相手は女性なんだ。それもシャルロットはカロリーナが殺されて動揺して恐怖の中俺を迎え入れたと言ったじゃないか。
俺もまだまだだな。こんな事くらいで頭に血が上るなんて…いや、彼女だからこそそう思った。
他の人間にそんな感情を揺さぶられることなどあるはずもないんだ。
俺は散々人から嫌われてきた。そして人には何の感情も抱かなくなっていたから…
なのに彼女に会った瞬間から、俺の中で何かが変わったんだ。
あの薄桃色の髪が揺れて、燃え上がるような緋色の瞳が俺を見上げた時、俺は魂が引き込まれて一瞬身動きすら出来なくなっていた。
あの時の俺は息をするのさえやっとだった。
彼女の華奢な背中にそっと手をが触れて…俺は…
ああ、思い出すだけでも心がき乱される。
今だって怒っていたが、本当は彼女の無事な姿を見れてどれほどうれしかったか。
生きていてくれたと…抱きしめて俺のものにして…
違う!俺だけのものにしたいんだ。
本当は今すぐにでもこの腕に抱き留めて誰にも触れさせたくないのに。
何をやってんだろう俺は…
彼女が無事でそれだけで良かったのに…
あんなうそどうでも良かったのに…
俺はそのまま寝室のベッドに疲弊しきった身体を横たえた。
この先どうやってシャルロットと仲直りすればいいんだ?
そう言えば彼女の櫛を黙って持ってきてしまった。あれも返した方がいいのだろうか?
どうすればいいか、何の考えも浮かばない。
その夜、俺は悶絶した。
翌日朝早くに目が覚めた。
俺は窓から外を眺めているとシャルロットが出掛けて行くところが見えた。ヨーゼフのところに手伝いに行ったのだろう。古びたドレスにエプロンを付けていた。
その姿が何とも可愛いと思ってしまった。
昼前にトルーズが俺が寝ている寝室にずかずか入って来た。
「旦那様。シャルロット様はジェルディオン家に行かれるそうです。今日中に荷物を運びますからとさっき帰られて言われましたけど」
トルーズの言い方にはすごく棘があった。
それは俺の胸にチクチク刺さる。
「いいさ、行けば。どうせ俺は呪われた男で彼女も俺の事なんか嫌いになっただろう。ちょうど良かったじゃないか。彼女を不幸にしなくていい」
「旦那様。子供じゃないんです。いい加減そんな事を言うのはやめてください。それにそんな事思ってもないくせに…いいんですか。シャルロット様をお引止めしなくて…私は知りませんよ!」
「引き留めなくていい。俺には関係ない」
俺はそれから数日部屋にこもりっきりになった。
トルーズの言う通りまるで子供みたいだ。
3日目とんでもないことが起きた。
「旦那様。大変です。すぐにヨーゼフ先生のところに」
「何だトルーズ?そんなに慌てて。何があった?」
「さっき、マール様が…マール・ブランカスター様が運び込まれたそうです。心臓が止まっているみたいだと…」
「何だってマールが?大変だ。すぐに行く」
マール・ブランカスターはブランカスター公爵の次男で確か騎士隊に入っていた。ブランカスター公爵の領地には炭鉱があって石炭をたくさん掘り出していて、マールはそれをコンステンサ帝国に搬送する警備に当たっていると聞いていた。
一体何があったんだ?
搬送中に襲われたのか?いや、搬送にはデルハラドは通らないと聞いた。
ならば、暴漢に襲われたのか?
とにかく早く様子を見に行かなければ…
「トルーズ!すぐにブランカスター公爵に知らせを出してくれ!」
「はい、ただいますぐに」
ブランカスター公爵の屋敷はこの近くだった。
デルハラドは王宮の近くに国の公爵や伯爵の屋敷が立ち並んでいるのだ。
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