第17話

 私は食事を済ませると早速宿の人に治癒師に紹介されることになった。

 というのもその治癒師がけがをした女性の手当てに来たからだ。

 「ヨーゼフ先生この女性が手当てをしてくれて助かったんです。何でも仕事を探しているとかでどうです?先生の所で使ってあげては?」

 私は宿に人にデルハラドには仕事を探しに行くと嘘を言った。

 こんな時にそれを言うとは思ってもいなかった。


 「そうですね。確かに人手不足でね。何しろ魔女という魔女は王宮に召し抱えられて、薬草の知識や治癒魔法が使える人がほとんどいないからね。君名前は?」

 「あっ…はい。シャルロットと言います。魔術の方はまだまだですが薬草の知識はありますが」

 「薬草の知識があるだけでも貴重だよ。じゃあ、この後私の治療院までの地図を書こう。仕事は…こっちは明日からでもいいけど?」

 「はい、ヨーゼフ先生…あのヨーゼフ先生はもしかしてヨーゼフ・ジェルディオンと言われるのではありませんか?」

 「ああ、そうだが、僕を知ってるの?」

 「いえ…実は私カロリーナ様の所で見習いをしていたんです。彼女は亡くなって私一人であそこをやって行くのは無理で、それで街に出て仕事をしようと思ってたんです」

 うまく信じてくれるだろうか?

 それにしてもこの人が私の叔父さんになるの?ずいぶん若く感じた。


 「カロリーナが亡くなった?」

 「はい…」殺されたなんて言うのはとても言えなくて言葉に詰まった。


 ヨーゼフ先生の顔が一瞬強張った。すごく残念な顔をして俯いていたがしばらくしてやっと私の方を向いた。

 「そうだったのか。だったらシャルロットなおの事うちで働けばいい。そうだ。もしよかったら今晩この女性に付き添ってくれないか?途中で痛がるようなら、これを水で溶いて飲ませてくれないか?」

 「はい、あの先生、私、勝手にベラドンナの粉末を少し飲ませたんですけど、良かったでしょうか?」

 「ああ、それでかなり楽そうにしてたんだね。私の渡した薬もベラドンナだよ。君は本当に知識があるようだ。明日からが楽しみだ。それから、外に出るときは顔を隠した方がいい。赤い瞳は魔女ですって言ってるようなもんだから。話したように魔女とわかったら王宮にすぐに連れていかれるかもしれないからね。シャルロットは瞳を変える薬草を持ってるかい?」


 「わかりました。気を付けます。ちょうど瞳の色を変える薬草を持っていますから」

 「良かった。私は今夜中にデルハラドに帰らなくてはならないんだ。一緒に連れていけたらいいんだが…」

 「いえ、大丈夫です。それにこの方の具合も心配ですし」

 「そうだね。助かるよ。じゃあ明日待ってるから、気を付けてくるんだよ」

 「はい、ヨーゼフ先生ありがとうございます」

 ヨーゼフ先生はまだ近くの家に往診があるとかで帰って行った。

 良かったわ。彼はカロリーナの弟子だったという話を信じてくれたみたい。

 これで難関を一つ突破かしら…

 でも、問題は魔力がうまく使えるかだけど…



 ヨーゼフ先生は早くから薬草に興味を持たれて色々な知識を学ばれたらしい。魔術が使えるわけではないが、薬草の知識とこれまでの経験でみんなに頼りにされている治癒師だったと宿の人が話してくれた。


 私は言われた通り怪我をした女性のそばで看病することになった。

 数時間がすぎその女性が目を覚ました。

 「あの…ここは?」


 私はうとうとしかけていて声を掛けられてはっと目を覚ました。

 「大丈夫ですか?痛みはありませんか?」

 「はい、あの…私は」

 「ここはザシールの宿場にある宿です。あなたはひどいけがをしてここに運び込まれて、でも安心して下さい。怪我は大したことはありません。打ち身と切り傷だけですからね。しばらくすればすぐに良くなりますよ」

 「ありがとうございます。どなたかわかりませんが親切にして頂いて…」

 「いえ、私は…お礼はここの宿の方に、それとヨーゼフ先生におしゃって下さい。それはそうとあなたのあ名前は?ご心配されている方がいらっしゃるのではないんですか?」

 「はい、家族はいませんが、お世話になっているお屋敷に知らせていただけると、用に出たきりできっと心配していると思いますので…私の名前はアビーと言います。お屋敷はデルハラドにあるルミドブール公爵様のお屋敷で働かせていただいております」

 「わかりました。早速宿の人に伝えてきます。ルミドブール公爵様ですね」

 「はい、ありがとうございます。あの、あなたのお名前は?」

 「私はシャルロットと申します。これからヨーゼフ先生のところで働かせていただくことになりましたからよろしくお願いしますねアビーさん」

 「はい、シャルロット様」

 「シャルロットと呼んで下さい。様はいいんですよアビーさん。もう安心して休んでくださいね。それより何か食べませんか?私ちょっと食べるものをもらってきますから」

 「そう言えば喉が渇きました。ありがとうございます」



 シャルロットは急いで宿の人に彼女の屋敷と何か食べ物をもらえないかと伝えた。

 宿の主人は夜遅いにもかかわらず愛想良く、パンとスープを用意してくれて、ルミドブール公爵様の所なら知っていると言った。でももう遅いから朝一番で使いを出すと言ってくれた。

 アビーと話すうち、シャルロットは来たばかりでデルハラドで住むところを探していることを知ったアビーが公爵様の家に住んだらどうかと言ってくれた。

 ご主人はいつも留守がちで部屋はたくさん開いているし、魔女様なら喜んで部屋を貸してくれるはずだといい張るので、もし公爵様に良い返事がもらえたらということにした。


 翌朝早く知らせをもってルミドブール公爵家に行ってもらった。


 お昼前に公爵家の人がやって来た。

 「お忙しいところ申し訳ない。こちらにルミドブール家で働いている侍女のアビーというものがお世話になっていると聞いてまいりました」

 「あなた様は?」

 「申し遅れました。私はルミドブール公爵家で執事をしておりますトルーズと申します。この度はご親切にありがとうございました。それで彼女の具合はいかがでしょうか?」

 「はい、お怪我は打撲と切り傷を伺っております。昨晩ヨーゼフ先生に来ていただいて、それにちょうど魔女様がお泊りでしてその方が夜通し看病をして下さって、もうすっかり元気を取り戻されております。しばらくは養生が必要でしょうが心配には及びません」

 「そうですか。後程ヨーゼフ先生にはこちらからご挨拶に伺いますので」

 「まあ、すみません。さあ、どうぞお上がり下さい」



 そして執事のトルーズがアビーの部屋に入って来た。

 「アビー大丈夫か?心配してたんだ。でも良かった。大したけがではないそうで」

 「まあ、これはトルーズ様、申し訳ありませんご心配おかけして、暗くなって急いでいたのがいけなかったんです。馬車が来るのに気づくのが遅れてしまって…」

 「いや、いいんだ。あなたが無事なら…こちらが魔女殿か?」

 「はい、シャルロットと申します。どうぞよろしく。でも私、魔術もろくに使えない見習い魔女ですのでどうぞ名前で呼んで下さい」

 「いや、それでも助かりました。どうもありがとうございました」

 「トルーズ様、もしよければ魔女様にしばらく部屋をお貸し願えませんか?シャルロット様はデルハラドに行かれるのですがまだ住むところが決まってないんです。お願いします。私の命の恩人なんです。どうか願いを聞いてくださいませんか?」

 「アビー?どういうことだ?」

 「トルーズ様アビーさんを叱らないで下さい。私、自分で住むところは探しますから、仕事は見つかりましたし大丈夫ですから」

 「仕事は何をされるんです?」

 「ヨーゼフ先生のところでは働けることになりました」


 トルーズはしばらく考えてから話を始めた。

 「そう言う事でしたら、お部屋を一部屋お貸ししてもいいですよ。主人には私から連絡しておきますのでご安心下さい。何しろ最近は魔女と分かっただけですぐに王宮に連れていかれるんです…とにかく危険なんです。あなたも充分気を付けてください」

 「わかりました。ではお言葉に甘えてしばらくお世話になります」


 こうして私はルミドブール公爵家でしばらくお世話になることになった。

 もちろん部屋が決まったら出て行くつもりです。

 運よくヨーゼフ様に出会えるなんて奇跡的な巡りあわせに驚くばかりです。

 でもこれからちゃんとやって行けるのか心配ですけど…

 何しろ見習い魔女ってことになったので…




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