第8話(アルベルト視点)

そもそも俺がカロリーナに会いに行くことになったのは、レオンがコンステンサ帝国のムガルで魔女となったカロリーナが森に棲んでいると聞きつけたからだった。

 彼の弟のヨーゼフは皇都デルハラドに住んでいて、ランベラートとエリザベートの悪事を暴こうとやっきになっていて、レオンからその話を聞いたヨーゼフがカロリーナの力を借りることが出来ればきっと彼らの悪事を暴くことが出来ると思ったらしい。



 カロリーナがどんな魔法使いかって事はエストラード皇国のものなら誰だって知っている。

 何しろカロリーナは、この国を作ったジョセフコールの聖女として活躍した魔女だから。

 彼女は火を操り風と起こす力を持ち、治癒魔法もピカいちだったと書物に書かれている。ジョセフコールの功績は彼女なしでは無理だったかもしれない。

 もし彼女に予知能力があればどんな敵も倒せるだろうが、カロリーナには予知能力はなかった。

 ただし戦いの行方や天気を占ったり、勘が鋭く人の考えを読み解く力を持っている魔法使いもいるらしい。



 2年前、俺は20歳になるとエストラード皇国とコンステンサ帝国の国境警備に騎士隊長として派遣されることになった時、黒ユリ騎士団で騎士をしていたレオンに副隊長として一緒に来て欲しいと誘った。

 俺は皇族だからこんなに早く騎士隊長という職務についたのだろうが、俺はとにかく人と関わるのが大っ嫌いな人間だった。

 俺ひとりでは白ユリ騎士団、第一部隊を引いるには少し、嫌かなり不安があった。

 だからレオンに副隊長として来て欲しかった。彼には絶対的な信頼を寄せていたし、レオンは本当なら騎士隊長になってもいいほど優秀だったが、やはり兄のカールの事があるせいか、まだ副隊長にもしてもらえていなかったから。



 そんな事情を知っている俺は彼に声を掛けたのだ。

 レオンは喜んで行くと言ってくれて今では俺の右腕として副隊長の仕事を完璧にこなしている。

 レオンはヨーゼフと一緒にずっと叔父のランベラートとエリザベートのやる事が怪しいと思っていて色々調べているらしいがレオンはこんな辺境に来ているので、彼の幼なじみの近衛隊のリンデンにも、ふたりの動向を見張ってくれるように頼んでいるらしい。



 そんなレオンが魔女カロリーナがこの近くにいると聞きつけて執務室に駆け込んできた。

 「騎士隊長、すぐにカロリーナ様に協力を頼んでみたらどうでしょうか。いや、この際カロリーナ様にデルハラドに来ていただいて、エリザベートの力が偽物だと証明してもらってはどうでしょう?」

 「レオン、まあ落ち着け。何も証拠がないのにそんな事出来るはずがない。カロリーナ殿も、確かもうかなりのお年のはず。そんなことを頼めるかもわからないんだぞ」

 「ですが、頼んでみないと分からないじゃないですか?騎士隊長、私が森に頼みに行きます。どうか許可を下さい」

 俺は思った。レオンに行かせたら何をするかわからないぞ。それにこのまま放っておいたら何をするかわからない。ここは先に俺が様子を見に行ってどうするか決めた方がいいだろう。


 「いいかレオン。まず私が先に様子を見に行く。それからどうするか考えればいい。いいな?」

 「まあ騎士隊長が行った方がきっとカロリーナ様も頼みを聞いてくれるかもしれませんね。何しろ隊長はエストラード皇国の皇太子ですからね」

 「それは言うなと言ってるだろう?」

 「ですが…本当ならアルベルト様が皇王になるべきお方なんですよ」

 レオンは口をとがらせる。

 「でも俺には無理なんだ」

 「でも、あいつらが言ってることなんて出まかせに決まってますから、本気にしてはいけません。あなたは肉体も鍛えて立派になったじゃないですか!」

 「ああ、だから俺には騎士隊がいちばん向いているって事だ」


 俺はヘンリーから逃げるように執務室の隣にある自分の部屋に入った。

 俺をこんな辺境地に派遣したのは叔父のランベラートと聖女のエリザベートの策略とはわかっていたが、俺はとにかく父が亡くなって叔父の言いなりだった。でも叔父とあのエリザベートはどうしても家族とは思えなかったが。

 俺に向けられるのはいつも酷い中傷や、自分の非力さばかりだった。

 でもレオンのおかげで騎士隊に入ってやっと自分の居場所を見つけた気がするのも確かで、力と剣さばきはかなりの腕前になったと思うが。


 


 そもそも思い起こせば俺は小さいころから身体が弱く、おまけに父は俺が3歳の時に亡くなって,皇国の皇王であった父コステラートの弟のランベラートが新しい皇王の代行を務めることになったのが、そもそもの始まりだったのだ。

 父が亡くなってすぐに母も流行り病で亡くなると、俺は新しい皇王の聖女となったエリザベートの占いによって先々代の呪いを受けた子であると言われた。

 まだ3歳だった俺にはその意味も分からなかったし、ただ叔父の言う通りにすればいいと言われた。


 ひどいよなぁ。幼い子供にそんな仕打ちをしなくても。

 その後立て続けに父の執事だったオズベルトが事故で亡くなり、乳母のマーベルも亡くなった。

 そんな事があって俺の周りのものは、俺をそう言う目で見るようになったんだ。

 俺は呪われた子だと…

 幼いころはわからなかったが、だんだん年を重ねて行くうちに俺はどんどん卑屈になっていった。

 俺は慕ってくれていた家臣も遠ざけるようになり、俺は子供心にも自分のせいで誰かが死んだりしたらって怖くて仕方がなかった。

 だからいつしか宮殿の離れで誰ともかかわらないように暮らしていた。


 そして俺が15歳の時にランベラート皇王は次の王として自分の息子であるロベルトを指名した。

 ロベルトは俺より三つ年上だ。

 その時もまた聖女エリザベートが俺が王になれば国に災いが起きると言って、ロベルトを皇太子にするべきだと進言した。



 全く嫌になる。

 何かって言うと、俺は呪われているとか、国に災いを及ぼすなんて、そんな言ばかり言われて俺は皇太子なんかでいたくもない。

 もちろんエストラード皇国にも議会があって貴族院の中には反対の声も上がった。

 だが、この国で皇王の聖女の言うことは絶対的な意味合いを持っていることも事実で、なかば強制的にロベルトが皇太子となる。


 思えば、俺が13歳の時にレオン・ジェルディオンという男が俺の護衛兵としてやってきたことは運が良かった。

 レオンは当時23歳、何ごとにも消極的でやる気のなく体も弱い俺を見て毎日訓練をするようになった。

 そしてレオンが騎士団に戻ることになった時、15歳になった俺も騎士団に入隊することにした。

 その頃の俺は身体の弱さを克服したいと必死に鍛錬をしていたので、騎士団への入隊はちょうど良かった。

 皇太子としての資質もないとはっきり言われていたし、皇族としてでなく普通に生きて行きたいって思うようになった。それには騎士団で強くなってひとり立ちしたすればいいと思うようになった。



 レオンは父の聖女をしていたアドリエーヌが恋に落ちた相手カールの弟だった。そして父の宰相をしていたラッセル・ジェルディオンの息子だった。

 カールはアドリエーヌの純潔を奪ったとしてすぐ捕らえられる。カールはアドリエーヌの投獄を阻止しようとして殺されたらしい。

 それにカールの父親ラッセル・ジェルディオンは、責任を取って宰相をやめさせられ伯爵家の領地も没収された。


 父はアドリエーヌがコンステンサ帝国の大切な王女と分かっていたので弟のランベラートが彼女も処刑するべきだというのを拒絶した。

 父も幽閉されてアドリエーヌも投獄される。その後はランベラートとエリザベートのやりたい放題だったらしい。

 父はそれでもアドリエーヌが妊娠していることもあり投獄されてもずっとアドリエーヌの援助をしていたとも聞いた。

 でも、父が亡くなると、ランベラートは彼女に同情などするつもりは全くなかった。

 それは新しい聖女エリザベートが自分の娘だからだ。ランベラートが若いころに魔女との間に出来た子供でいわゆる非摘出の子供だった。

 だがアドリエーヌの方が強い魔力を持っていると言われていたのでランベラートはアドリエーヌが邪魔で仕方がなかったらしい。


 アドリエーヌは自らの魔力で自分を守っていたらしく誰も手だし出来なかったが出産してすべての魔力を使い果たした彼女はとうとう息絶えて自ら火を放ったと聞いた。

 そしてその時赤ん坊も亡くなったとも。

 まあ、これらは俺の側近から聞いた話だが…


 俺だって叔父やエリザベートの事はどうでもいいと思っているが、ふたりが罪もない人を陥れたり、殺したりしているとしたら、放っては置けないとも思う。

 この国が豊かで平穏な国であって欲しいとは思っている。

 だが、基本。俺は人と関わりたくはないのが本音だ。

 俺に近づくと人が死んで行った事実が俺をそうさせているのだろうが。

 それにあいつらのせいで未だに人を信じられないのも事実だ。


 それに俺だってずっと国家秘密隊の人間に見張られているらしい。

 それにエリザベートが作ったと言われている独自の組織。<闇隊>もどんなことをしているかもわからない。

 俺が気づかないとでも思っていたのか?

 気づくに決まってる。そりゃ子供の頃はわからなかったが、俺だって騎士隊の端くれなんだ。

 まあ、あいつらに言わせれば、第二皇太子候補である俺に万が一のことがあってはいけないと警護という名目らしいが…


 そして俺は局の奴らをまいてやっと彼女を訪ねたのだった。





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