11 嫌がらせを倍返しする悪役令嬢
「……セイヤ、ワタクシの机の上に汚物が散乱しているのはなぜですの?」
「嫌がらせだな」
「ひっどい。ちょっと露骨過ぎじゃない?」
「嫌がらせならもう少し工夫すればよろしいですのに。愚かですわね」
翌朝、俺と明希、ダニエラの三人で朝一番に教室に行くとダニエラの席いっぱいに虫の亡骸やら何やら汚らしいものがたくさんあった。
小学生かとツッコミたくなるような低俗ないじめ。どうせ飯島か、その取り巻き的な誰かがしたのだろう。俺は鼻をつまみながらダニエラに代わって机の掃除をした。
昨日の放課後に誰かがやったのだろう。くだらない。ダニエラの凍えるような恐ろしい目つきを飯島は直に目にしたろうに。
「……あのまま引き下がるなら許して差し上げましたけれど、ワタクシの身を汚そうというつもりなら仕方がありませんわ」
「ダニエラさん、報復するつもり?」
「もちろん。ワタクシ、過去に一度、くだらない自称いじめられ女を放っておいて追放刑を食らっておりますのよ?」
「それもそうか。私もできることなら手伝った方がいい?」
「お心遣いありがとう存じます。ですがワタクシ一人で大丈夫ですわ」
ダニエラはほんの少し悪い笑みを浮かべると、何事もなかったかのように俺が綺麗に拭き終えた席に腰を下ろした。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
そして昼食時、学校の屋上にてダニエラの復讐が始まった。
「それでさ〜あの外国人が偉そうなのよ。だからあいつの席メチャクチャにしてやったんだよねー」
「それで女の反応は?」
「隣の席の男に指示して掃除させてやがんの。マジお嬢様気取りムカつく。だから放課後にちょっと脅して金をパクってやろうと……」
鼻につく声で話していた、飯島を筆頭とするギャル集団。
いや、ただのギャルと呼ぶには普通のギャルたちに申し訳ない。会話内容が完全に不良だ。だが不思議なことにやはりファンは多く、屋上の途中の階段には俺たち以外にたくさんの生徒――主に男子が詰めかけている。おそらくきっと彼らはまともではないのだろう。
現に明希は眉を顰め、俺は思わずこの場から逃げ出したい気持ちでいっぱいだった。
しかしそんな不良たち、もとい飯島へ勇猛果敢に歩み寄っていく少女が一人。ダニエラだ。
「愚民の皆様方、ごきげんよう。たまたまあなた方のお声が聞こえて来てやって参りましたの。ワタクシも混ぜてくださいませんこと?」
「げっ」
「アタシらを尾けてたわけ? 何それ気持ち悪いんですけどー」
「仲間に入れるわけないじゃん、気持ち悪い」
「そうですの。やはりワタクシは嫌われておりますのね」
ふふっと笑うダニエラ。彼女は俺に集めさせておいたもの――汚物がたんまりと入った袋を懐からそっと取り出した。
「せめてお話し合いができるのではと考えたのですけれど、無駄だったようです。とても残念ですわ」
そう言いながら彼女は、不良女子たちへ思い切り袋を投げつける。
袋が破けて中身がぶちまけられた。飯島の金髪に汚物が降り注ぎ、目も当てられない惨状と化す。
上がる悲鳴、絶叫。階段下からは飯島のファンの男たちが怒り狂う声が響いた。
「なになになに!?」
「クソ、やりやがったなぁ!」
「これは正式な報復ですわよ」
涼しい顔でそう言うダニエラ。その一言で飯島の怒りは頂点に達したようだった。
「報復に正式も非正式もあるわけないでしょーが! よくも、よくもアタシの髪を……」
「セイヤ、ワタクシを守りなさい」
「え」
それまでただ傍観しているだけだった俺は急に指名され、情けない声を上げるしかなかった。
顔を真っ赤にしてダニエラに飛び掛かっていく飯島。獰猛な獣のごとき彼女を俺が止める? 無理だ。絶対に無理だ。
というかそもそも怖くて一歩も動けない。硬直状態のまま、俺はただじっとダニエラの方を見つめた。
――そして危機に瀕したダニエラの行動は。
「……仕方がありませんわね。令嬢とて、時には力に頼ることもございましてよ。ごめんあそばせ!」
「ごふっ!?」
セーラー服のスカートの中から白く艶かしい足を振り上げ、飯島の太ももを蹴った。
その直後、三メートルほど遠くへと吹き飛ばされていく飯島。倒れ込んだ先、床で四肢をだらしなく広げた彼女は泡を吹き、まるでゾンビのような呻き声を上げるだけになっていた。
今、俺の目の前で一体何が繰り広げられたのだろう?
わからないが、ごく平凡な高校生として絶対に見てはいけないものを見てしまった気がして、おもむろに目を逸らす俺なのだった。
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