富良野杯〜スポーツのように小説を書く世界〜
六野みさお
第1話 配信者たち
ここは首都東京の、とあるアパートの一室。
二人の男が、彼らのスマホのカメラに向かって喋ろうとしている。画面上右に座っている男は、小太りで、目はぼーっとしている。一方、左の男はひょろりと痩せていて、鋭い目をしている。彼らは元は幼馴染のような関係だったのだが、配信業を始めて以降、すっかりお笑いコンビということで定着している。まあ、それが二人の丁々発止のやりとりを説明する、唯一の手段である。
とにかく、放送開始だ。
「はいどうもみなさんこんにちは、リスナーの皆さん、今日もカズハルを聞いていただきありがとうございます。今日は
もう一人の男が画面に入ってくる。
「はいどうも、よろしくお願いします」
「さて白井さん、今日の注目は誰でしょうか」
「そうですね、やはり頭一つ抜けているのは
「いやいや、今日は小説家としての谷川正だ。音楽家じゃない。でもカズ、やっぱり立石の優位は動かないだろうね」
「それはそうだな。とはいえ、たとえ立石さんがトップ通過だとしても、全国への枠は五つだ。むしろ『その他』に関心が集まっていると思うよ」
「なるほどね。さて、まずは注目どころをおさらいしていきましょうか。白井さん、よろしくお願いします」
「はい、それでは立石紫枝太から見ていきましょう。立石紫枝太は、2005年に十五歳でデビュー。処女作『エンドロールは突然に』でいきなりミリオンヒットし、以後、一カ月に2~3冊という驚異的な執筆スピードを継続して、ぐいぐい知名度をアップさせています。去年の自作の売り上げ額は、
「やはり、聞けば聞くほど立石の実力を痛感しますね」
「強すぎて説明がいらない気もしますね」
「では次、
「彼の作風もずいぶん変わりましたね。僕は『家康伝』で初めて彼を知ったのですが、あの頃とは全然文体もストーリー構成も違いますからね」
「若い世代に合わせて作風を軽くしている、という噂もありますね」
「次は
「最近は大杉に追い上げられている感がありますがね」
「息子の
「さて、今名前も出た、
「香取との新旧福井県推理小説家対決、ということで関心も高いですね」
「どちらにも負けてほしくないけれど、決着するのも怖い気がするよ」
「楽しみですね。では次、
「富良野杯予選は一日で終わる短期決戦ですから、短編が得意な手塚には有利ですね」
「全国大会は三日間かかりますがね」
「また、この福井県予選では、世代間の対決にも注目が集まっています。五十一歳の澤田と四十八歳の香取に対する、十七歳の大杉と十歳の手塚という構図ですね。まあ立石紫枝太は十九歳なので、若手有利といえますが。さて、注目選手はこれくらいですかね。もう少し詳しい情報が欲しい人は、掲示板かまとめサイトをご覧ください。それから、今日の夜には、僕のチャンネルで谷川正の新曲『気まぐれアスレチック』の最速開設、および最速カバーを行います。皆さんご視聴よろしくお願いします」
「宣伝をぶっこむなって。というか、なんでこんなに小説家と言う小説家が音楽に手を出してるんだ」
「当たり前でしょう。富良野杏が音楽家としても知られているからです。年末の交響曲第五番は楽しみだな」
「だから今日は小説の話だっつーの。まあ、まだ始まるまで時間があるから、雑談でもいいんだけれど」
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