2階『フードコートにて』

モール内の3階にある映画館を後にしたシエルとユリは、お互いの死角をカバーしながら進み、最寄りの止まったエスカレーターを歩いて降りていく…


「ユリは、どうして拳銃の扱いに慣れているの?」

先頭を行くシエルが問い掛ける。


「それは、毎年の様にグアムにいる親戚に会いに行くついでに、親の趣味である射撃に付き合わされているからよ…」

シエルに背を向けた状態で、ユリが答える。


薄暗いモールの中…人に似た小さな影が素早く走る…


「うん?なに今の…ユリ見た?」

シエルは小さな影が走り去った方角に、手に握る拳銃【USP】の銃口を向ける。

「いいえ…ゾンビのお次は小さな妖精のオジサンかしらね?」

ユリが冗談交じりに視認出来なかった事を伝える。


「小さな妖精のオジサン?なにそれ?」

小さな影が走り去った方に進むシエルは、頭を傾げる。

「ふっふふ…海外にいる時間の方が長い、貴方には通じない冗談だったわね…」

ユリは怪奇的な空気を少しでも和ませる為に放った冗談がスベった事に対して苦笑する。


「オホン…私達以外にも生存者がいないか確認しつつ…1階に降りてモールの外の状況を確認する事を優先するわね。」

気を取り直したユリが、シエルに対して提案する。


「オッケー、さっきの人影が子供の可能性もあるし…このまま直進する感じで良い?」

提案に対して賛同したシエルが、逆に問い掛ける。

「えぇ…薄暗い不気味なショッピングモールの中…我々がゾンビの次に見た謎の影の正体とは一体!?」

同意したユリが、わざとらしく一芝居打つ。


「あぁ…それは、私のパパが酔った時にする昔のテレビの物真似だから…何となく知ってるよ…」

シエルは、本当に同年代の高校生なのか?という増している疑念を口にする。


「むっむむ…昔…私の父も同じテレビ番組を見ていたのかしらね…」

ユリがあたふたする。


ーーー


謎の影を追いかけて2人は、モール内のフードコートに近付いていく…


次の瞬間…女性の悲鳴が周囲に響き渡る。


「急いだ方が良いみたい…」

「えぇ、急ぎましょう!」

急ぐシエルとユリは拳銃のグリップ部分を握る力が一際、強くなる。


「いや、これ以上来ないで下さい!痛い目を見ますよ!」

虚勢を張る異質な装いの女性の耳は細長く…魔法を放ちそうな杖を持つ手は震えている。


「えっ!?ゾンビの次は、まさかのファンタジーゲーム?」

目の前の現状にシエルは驚きを漏らす。

「先ずは、恐らく私達が追っていた影の正体を片付けましょう。」

そう告げたユリは、手にしている拳銃【ガバメント】を躊躇いなく撃つ。


「ヒギャァ!」

ユリが放った45口径の銃弾を食らった小型の化物ゴブリンが倒れる。

標的にしていた存在とは異なる脅威と接触したゴブリン達が、シエルとユリに襲い掛かる。


「数は多いけど…正面から突撃してくるとは、格好の的なんだよね。」

シエルは次々とゴブリンの眉間に一発撃ち込み、難なくと制圧していく。


「シエル、後ろよ!」

ユリの声にハッとしたシエルが背後を振り返ると…一体のゴブリンが、手にしている斧を投げてくる…


「ッゥ…危なかったな…もう!」

斧を回避出来たが…勢い余ってフードコートのテーブルに激突してしまった痛みを、シエルは引き金に込めて更に一発放つ。


「殲滅するまで気を抜かないでよ。」

ガバメントに新たな弾倉を込め、次弾を装填したユリが更に狙いを付ける。


2人が討伐しているかん…杖を持つ細長い耳の女性は、ずっとブルブルっと震えている…


「ふぅ…一先ずは落ち着いたかな…」

周囲にゴブリンが居ないか見渡したシエルが、一息つく。

「そうみたいね…えっと、貴方は大丈夫かしら?」

ユリが、異質な装いの女性を気遣う。


「あぁ…はい…危ない所を助けてくれてありがとうございます。」

ユリへ頭を僅かに下げた女性が続ける。

「私は【レイチェル】と言います…見ての通りエルフで回復系の魔術師をやっています。」

そう自己紹介したレイチェルは、シエルとユリが手にしている拳銃を不思議そうに見る。


「私は、ユリよ…高三の学生よ、よろしく。」

先にユリが自己紹介する。

「そして、私がシエルねよろしく。拳銃が扱えるのは、アメリカに居たからなんだよね。」

シエルが続けて自己紹介するが…


「はぁ?…よろしくお願いします。降参の学生?…アメリカ?…アメリカってどこのことでしょうか?」

レイチェルは、二人が切り出した聞き慣れない単語に対して、首を傾げる。


「えっ…アメリカを知らないって…どういうこと?」

シエルとユリもほぼ同時に疑問符を浮かべる。


「あっ!?…シエルさん、先ほど転んだ時に怪我をされたみたいですね…少し動かないで下さいね…」

そう指示を出したレイチェルは、シエルの僅かに出血している右足の太股に手をかざすと…

2人には理解出来ない単語を複数、詠唱する。


次の瞬間…手をかざした箇所が暖かい光に包まれて、瞬く間に傷口が塞がっていく。


「えぇ…エルフってコスプレじゃあなかったんだ…」

「嘘でしょ…どういう理屈なのかしら?」

シエルとユリは、目の前の現象に対して理解が追い付かない。

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