火薬と回復とサムライパーティー【完結済み】

蒼伊シヲン

3階『モール内の映画館』

一年振りに日本へ帰国した【矢須乃シエル】は、友人の美月と共に学校終わりに、ショッピングモールにゾンビ映画を見に来ている。


ゾンビ映画で上映時間が3時間って長くない?っと…その長さに対してツッコミを入れつつも、逆に興味が駆り立てられたシエルは、アメリカ人の母と日本人の父の間に生まれた事もあり、プラチナブロンドの長髪と日本特有のセーラー服が合わさり個性的な雰囲気を放つ少女である。


そのシエルの隣の座席に、座る美月は、どうやらドリンクを飲むペース配分を間違えたのか…上映開始から約2時間が過ぎた頃に途中退席してしまう。


「(まぁ…そういう私は、眠気が来てるけどねぇ…)」

帰国してから間もないシエルは、まだ時差ボケに悩まされており…睡魔が迫って来ている。


「(2丁拳銃なんて…ただの弾の無駄遣いで…殆ど当たらないんだけどねぇ…ヤバぁ…)」

アメリカの射撃場で、元シールズのインストラクターからレクチャーを受けていたシエルは、フィクションに対してツッコミを入れつつも、目蓋が睡魔に負けてしまう。


ーーー


シエルが、一時の睡眠から覚めると…既に上映は終わっており、客はシエル以外は全員退席していた…


「かなり寝てしまったみたい…それよりも、美月は?」

シエルが、親友が座っていた右隣の座席に視線を落とすと、そこには…


「何で…日本の映画館内に拳銃があるの…これは確か【HK USP】だったかな?そのエアガンってこと?」

目の前にある、40口径の弾丸を放つポリマーフレームのセミオート拳銃と数本の弾倉に戸惑いを感じつつもシエルは、直感的に一つの仮説を立てる。


「これは、夢だと認識しているタイプの夢かな…じゃなきゃ、USPが隣の席に転がっている事に説明つかないしね…」

夢の中だし…罪に問われることは無いよねっと安心したシエルは、拳銃を手にしてスライドを引き…40口径の銃弾を薬室へ装填する。


次の瞬間、シエルがいるシアターの扉を勢い良く開く音が、それまでの静寂を突き破る。


「もしかして、美月?…へぇ?」

シエルの目の前に現れた友人が纏うセーラー服は、所々が破れており…シアター内の控えめな照明の中でも分かるくらいに、美月の肌は変色し…ただれていた。


「アァ…シエル…オヌさま…」

少し前まで親友だったそれの足はおぼつかず、ユラユラと肩を揺らしながら…シエルの元へ着実に迫って来る。


「嘘でしょ…なんてね、どうせ夢でしょ。」

親友が唐突にゾンビ変わると言う非現実的な出来事で、夢だと確信したシエルは、躊躇うこと無く銃口を向ける。


「私がアメリカに行く前から借りっぱなしのブルーレイ…さっさと返しなさいよ!借りパクするつもり!」

現実での親友に対するストレスを、40口径の銃弾に込めて、引き金を引く…


シエルが放った弾丸は、見事に親友だった者の眉間を見事に撃ち抜く。

そして、それはバタンっと勢い良く倒れる。


「おぉ…久しぶりに撃ったけれど、一発必中とは…」

自分自身の射撃の腕前に、驚きを隠せないシエル。


「とりあえず、外に出よう…」

今いるシアターの外の状況を確認する為に、拳銃USPと数本の弾倉を手にしたシエルは、警戒しながら移動を開始する。


ーーー


自身がいたシアター内から出たシエルは、不気味な静寂が漂う劇場内をぐるりと見渡す。

そこには…他の客は勿論のこと、映画館のスタッフの姿が一人も見えない。


「この空気感…まさに夢の感じね…」

拳銃を握る緊張感と主導権を握れるタイプの夢であることから得られる高揚感が混ざり合い…シエルの口角が僅かに上がる。


そのシエルの耳に、別のシアター内から銃声が聞こえて来る。

「他にも戦っている人がいるの!?」

銃声が聞こえて来た別のシアターの扉を開けて、進入していくシエル…


すると、そこには…ブレザータイプの制服を着たボブカットの少女が、化物に向けて発砲していた。


「(他にも生存者がいたっぽい…あの子が持っているのは、ガバメントね…)」

手前にある座席を遮蔽物にしながら、様子を伺うシエルの言う通り…ボブカットの少女が持つセミオートの拳銃からは、45口径の弾丸が放たれている。


「誰?出てこないと撃つから!」

シエルの存在に気付いた、ボブカットの少女が声を張り上げる。

「まっ、待って!私は人間だから!」

シエルは両手を上げた状態で、慌てて姿を晒す。


「そう…いきなり怒鳴ってごめんなさいね…あなたも、この訳の分からない状況に巻き込まれたのね…」

シエルの身なりや血色等を見たボブカットの少女は、警戒を緩め近付いて来る。


「うん…寝落ちから眼を覚ましたらこんな状況で…って、私は矢須乃シエル、よろしくね。」

敵意を解かれたシエルは、ほっとして名乗る。


「私と似たような状況ね…私は【綾瀬ユリ】こちらこそよろしくお願いします。」

そう名乗ったブレザー姿のボブカットの少女は、シエルへ握手を求める。


「うん、よろしくね…一先ず、モール全体の状況を把握しよう。」

シエルとの握手を交わした、ユリは提案に乗る。

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