第172話 私は葛原さんの事が知りたい

story teller ~雷門来海~


 今日は私の家に星羅ちゃんと優希くんが遊びに来ていた。

 ここ最近は太陽さんたち高校生組も一緒だったので、中学生だけで集まるのは久しぶりな気がする。


「来海ちゃんの家って普通のアパートなんだね。大きな家とか高層マンションとかに住んでると思ってた」


 優希くんはそう言いながらリビングを見渡している。

 自分で言うのは恥ずかしいが、結構有名なアイドルだった為、金を持っていると思われているのだろう。

 実際は、お母さんに稼いだお金を管理してもらっていて、家賃や光熱費、食費などの生活費は共働きの両親の稼ぎでやりくりしているので、みんなが想像しているような優雅な暮らしはしていない。


「うちはお父さんとお母さんのお給料で生活してるんだ。なにかあった時のために取っときなさいって言って、私が稼いだお金はお母さんが貯金してくれてるの。ほとんど私のお金は使ってないと思うよ?」


「来海ちゃんのお母さんってしっかりしてるんだね。私が来海ちゃんのお母さんだったら稼いだ分使っちゃうかも」


 星羅ちゃんは笑いながらそんな事を言ってくるので、大好きなお母さんの事を良く言われて嬉しくなる。

 私としてはお父さんとお母さんに私のお金を使われてもなんとも思わないが、それでも2人は手をつけずにいてくれる。


「アイドル辞める時、お父さんとお母さんには止められなかったの?」


「うん。アイドル始める時も、来海のやりたい事をやりなさいって言ってくれたし、辞めるって言った時もわかったって言われたくらいでそれ以外は特に追及されなかったよ?それに表さんとの事を素直に話した時も、責めるわけでもなく、怖い思いしたね。気づけなくてごめんねって謝られてすぐに引越しの準備してくれたの。お母さんはパートだから良かったけど、お父さんは会社にお願いして、この街にある支社に異動させて貰ったんだって」


「来海ちゃんの為にそこまでしてくれたんだね。いいお父さんとお母さんだ。俺の家なんていつもお母さんが怒っててさ。宿題やりなさい!とかゲームやめなさい!とかうるさいくらいに言ってくるんだよね」


 優希くんはお母さんが怒っている時の真似をするように両手の人差し指を額の前に持ってきて角をつくる。

 私と星羅ちゃんはそんな優希くんを見て笑いながら、それもお母さんの愛情だよと言うと、優しいお母さんがいいなーと呟いている。

 そうは言っても、お母さんの話をしている優希くんはホントに嫌そうな顔はしていないので、なんだかんだで親子関係は良好なのだろう。


「そういえば、来海ちゃんなにか聞きたい話があるんだよね?」


 星羅ちゃんが思い出したかのように私に話を振ってくる。

 2人を家に呼んだのはただ遊ぶためだけじゃなく、聞きたい話があったのだ。


「うん。葛原さんって人の事知りたくて。私はみんなと仲良くなったのが最近だからどんな人なのかとか、なんでこんな嫌がらせみたいな事してくるのかなと思って」


 私は葛原さんとはもちろん面識はなく、穂乃果さんの家で会ったのが初めましてだった。

 それなのに表さんを寄越してきたり、穂乃果さんを利用して私たちに嫌がらせしてきたりしたのにはどんな理由があるのか気になっていた。


 島にいる時にみんなに聞こうと思ったのだが、なんだか聞ける雰囲気じゃなかったこともあり、歳が同じこの2人なら聞きやすいと判断したのだ。

 だが、星羅ちゃんはうーんと顎に手を当てて少し考えた後、1人で納得したように頷く。


「それなら私たちに聞くより、堅治さんか架流さん、それと花江さんに聞いた方がいいと思うよ?」


 なんでその3人なのだろうと思っていると、私の疑問に答えるように優希くんが星羅ちゃんの言葉に補足を加えてきた。


「堅治さんと花江さんは葛原さんと中学校が同じだったし、架流さんは太陽さんたちと仲良くなる前は葛原さんと仲良かったみたいだから、その3人の方が色々と知ってると思うよ」


 葛原さんも堅治さんたちと同じ中学だったのは知らなかった。なるほど、だからこの3人に聞いた方がいいって事なのか。と納得すると同時に新たな疑問が浮かび上がる。


「堅治さんと花江さんは太陽さんと同じ中学だったんだよね?」


「うん?そうだよ?」


「という事は、太陽さんと葛原さんも同じ中学だったんだよね?太陽さんには聞いちゃダメなの?」


 私の質問に2人はうーんと頭を悩ませている。なにか言えない事でもあるのだろうか。


「聞いちゃダメってことはないと思うけど・・・。お兄ちゃんなら聞けば話してくれるかもしれないけどさ、なるべく堅治さんたちに聞いて欲しいかも。お兄ちゃん嫌な気持ちになるかもしれないし」


 理由は分からないが、星羅ちゃんがそう言うなら太陽さんには聞かないようにしようと心に決める。人を嫌な気持ちにさせてまで聞くことでもない。


「・・・来海ちゃんはお兄ちゃんの過去の話って知らなかったよね?」


 星羅ちゃんは首を傾げながら私に向かってそう聞いてくる。

 太陽さんの過去の話なんて聞いたこともないけど、葛原さんと関係があるのかな?と思いながら頷く。


「それって聞いてもいい話なの?」


「うーん。葛原さんの事を色々知りたいなら、お兄ちゃんと葛原さんの関係を知った方がいいと思うから。この場で話すことは出来ないけど、お兄ちゃんに話してもいいか確認してみるね」


 葛原さんが太陽さんに執着して色々してきている事は聞いていたが、執着している理由までは聞けていなかったので、過去の話が聞けたらその理由も理解出来るのかもしれない。

 この場では話せないなら、星羅ちゃんが太陽さんに確認するまで待つしかない。


「わかった。とりあえず堅治さんか花江さん、架流さんに色々聞いてみるね。ありがとう」


 私はそう言って少し暗くなってしまった雰囲気を変えるように2人に別の話題を振る。

 葛原さんの事が聞きたくて2人を呼んだのだが、せっかく集まったのなら暗いまま終わりにしたくないし、楽しく過ごしたいと思った。


 ******


story teller ~四宮太陽~


('星羅' 来海ちゃんが葛原さんの事色々と知りたいみたいなんだけど、お兄ちゃんと葛原さんの関係とか来海ちゃんに話してもいい?)


 もうそろそろバイトが終わるという頃。相変わらずお客様がおらず暇を持て余していると、星羅からそんな内容のメッセージが届く。

 来海ちゃんはガッツリと葛原の計画に巻き込まれてしまっているので、そのうち話さないといけないなとは思っていた。

 俺は星羅にいいよと返事を返して、俺と葛原の事を話していない人がもう1人いるので、その人にも説明しようと考え声をかける。


「乱橋さん。今日のバイト終わりって時間ある?少し話したいことがあるんだけど」


「えっ!?今日、ですか?・・・時間はありますけど・・・」


 俺に声をかけられた乱橋さんは驚いたように反応した後、なぜか困惑するように返してくる。

 予定があるのかと思い、無理なら大丈夫だよ?と伝えると、無理じゃないです!と強めの声量で答える。


 怒ってる・・・訳じゃないよな?俺なんかやっちゃったかな?


 ______


 出勤時間が終わり、お店の前で待ってくれていた月と合流し3人で帰路につく。

 月には1人で帰れると伝えているのだが、どうしても迎えに行きたいと言って聞かないのだ。俺と一緒にいたいと思ってくれているのかもしれないし気持ちは嬉しいが、夜1人でお店の前で待たせるのは気が引けるのでせめて店内に入って来て欲しい。

 それと月を見た時の乱橋さんは、少しテンションが下がったように見えたが、月となにかあったのだろうか。


 そんな事を考えながら、とりあえず今は乱橋さんに話さなければと思い、歩きながら話すことにする。


「乱橋さんは俺と葛原の関係って知らないよね?」


 俺がそう切り出すと、葛原さんが四宮先輩に執着してるくらいしか聞いてませんよと返してくる。


 しっかりと俺の目を見て話を聞く姿勢を見せてくれていることを確認してから、俺と葛原の話を始めた。乱橋さんと出会う前の堅治と花江さんの事や星羅と優希くんの事、九十九の件も含めて話したが、夏木さんと山田の過去だけは勝手に話す訳にはいかないのでそこだけ説明を省いた。


 話が終わる頃には乱橋さんの家の前に着いており、乱橋さんはいつもの無表情から珍しく表情を変えて、複雑そうな顔をしていた。


「乱橋さんはもう葛原の計画に巻き込まれちゃったし、今後の忠告も含めて話しておかなきゃなと思ってたんだよ。月も乱橋さんも、堅治たちにも、俺のせいで迷惑かけてる。ほんとにごめん」


「なんで四宮先輩が謝るのです?先輩はなにも悪くありません。悪いのは、知らなかったとはいえ葛原さんに利用されて勝手に巻き込まれた私ですよ・・・。私が巻き込まれなければ、こんな話しにくい話を四宮先輩にさせる事もなかったのに・・・」


 乱橋さんはそう言うと俺に向かって頭を下げてくる。

 彼女を責めたかったわけではないので、乱橋さんは悪くないからと伝えて頭を上げてもらう。


「穂乃果ちゃん。あんまり自分を責めないでね?穂乃果ちゃんは悪くないんだから。悪いのは葛原さんだよ」


「月さん・・・」


「それに太陽くんもだよ?俺のせいでとか言わないで?太陽くんはなにも悪くないし、迷惑じゃないよ。私たちは好きで太陽くんと一緒にいるんだから謝るの禁止!」


 月は乱橋さんには優しく諭すように、俺には厳しく叱るようにそう言ってくれる。

 その気持ちがとてもありがたく、乱橋さんと目を合わせてから2人で月にありがとうと伝える。

 月は分かったならよろしい!と俺たちに微笑んでくれた。

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