第145話 大浴場

story teller ~葛原未来~


 わたしはカフェに入り、窓際に座る男に話しかける。


「こんばんわ表さん」


 その男は夏であるにも関わらずパーカーを着ており、フードを深く被っている。本人は周りの目を気にしているようだが、それだと逆に目立ちそうだ。


「あまり大きな声で名前を呼ばないでくれ」


「失礼しました」


「加藤さんの紹介だからわざわざ来たんだ。手短に頼むよ」


「・・・雷門来海と会わせてあげるわ。その代わり協力して欲しいの」


 この男は世間を騒がせた雷門来海の熱愛報道の相手である。あまり外に出ていたくないのだろう。

 世間話から始めようかとも思っていたが、相手の要望通りに要件を短く伝える。

 雷門来海と言う名前に、表はピクリと反応する。


「会えるのか?来海に」


「ええ、わたしの言う通りにすれば会えるどころかやり直せるわよ」


「・・・・・・俺は何をしたらいい?」


 わたしはスマホを取り出し、地図を見せる。


「この島に行って欲しいの。ここに雷門来海がいるわ」


「行くだけでいいのか?」


「いいえ、雷門来海と一緒に邪魔者がいるわ。そいつらを壊して。あなたの周りにはたくさん協力してくれる人がいるでしょ?」


 そう言いながらスマホを操作して太陽くんの周りにいる人物の写真を見せる

 すると表はニヤリと楽しそうに笑う。


「殴りがいのありそうな奴に、可愛い女の子。あいつらが喜びそうだ」


「お金もわたしが出すわ。もちろん報酬もね」


「報酬はいらない。俺は来海が居ればそれでいい。他の奴らも女の子と遊べれば満足すると思うぜ」


 ******


story teller ~四宮太陽~


 島に着いた時には既に午後16時を回っていたので、遊ぶのは明日にして、今日はゆっくりする事になった。


「それにしてもほとんどの部屋が畳って逆に凄いよなー」


 俺たちの案内された部屋はもちろん、女子の部屋も畳らしい。

 俺の家には畳が存在しないので少し新鮮で、旅館に泊まりに来たような気持ちになるので、それだけで結構楽しい。


「住宅街から少し離れてるから静かだし、窓開けたら風も入ってきて気持ちいいよね」


 周りが森のようになっているので、虫の声が気になるが、それさえ気にしなければのどかな田舎って感じだ。


 男だけでなにする?と言う話になり、善夜がなにか手伝った方がいいのではと言い出し、俺たちは部屋から出て、キッチンに立つ乱橋さんのお母さんに声をかける。


「なにか手伝える事はありますか?」


「あら、わざわざありがとうございます。さっき女の子たちも同じことを聞きに来てましたよ」


 月たちも同じことを考えていたようだ。

 だが、その月たちの姿が見えない。


「みんなはどこに行ったんですか?」


「買い出しをお願いしました。みんなで港近くのストアに行ってると思いますよ」


「じゃあ俺たちはどうする?」


 なにかする事はないかと辺りを見渡して確認するが、人の家でなにを手伝えばいいのか分からず、俺たちはその場に立つ邪魔な置物となっていた。

 すると、乱橋さんのお母さんはそうだ!と何かを閃いたように言ってくる。


「先にお風呂に入ってきたらどうかしら?うちのお風呂は広いからみんなで入れると思いますよ」


「じゃあそうする?」


「みんなでは入るの?ちょっと恥ずかしいかも・・・」


 じゃあそうしますと伝えてから、堅治は恥ずかしそうにしている善夜の肩を組んで強制的に部屋に連れていく。

 まぁこの人数で別々に入る訳にはいかないので仕方ないだろう。


 ______


「いや、広すぎるだろこれ」


「すごい。こんなの大浴場じゃないですか」


 優希くんがそう言いたくなる気持ちがよく分かる。

 ここだけで俺の部屋の1.5倍くらいの広さがあり、謎にシャワーが3つも付いていて、石で出来た浴槽まである。


「ちょっとテンション上がるなー」


「そうですね」


 架流さんも珍しくウズウズしているようだ。

 俺たちは順番にシャワーを浴び、体を洗ってから浴槽に浸かる。男5人で入っても全然スペースが余っている。


「なんか部屋の作りといい、この風呂といい、温泉に旅行しに来た気分だ」


「だねぇ、ここであと何日も過ごせるのは幸せすぎる」


「まぁ温泉と言えば女子風呂覗くのが恒例だけど、それが出来ないのが残念だなー」


 架流さんの発言は俺たちの怒りを買い、4人で架流さんを浴槽に沈める。月の裸は絶対見せたくない。


「ケホケホ。冗談じゃん。僕が見たいのは花江ちゃんの裸だよ」


 そんなことをいってケタケタ笑っているので、水をかける。

 すると、架流さんも俺にかけ返してきてどんどんとそれが広がり、俺たちは年甲斐もなくお風呂ではしゃいだのだった。


 お風呂から上がったあとは買い物から帰ってきた月たちがお風呂に入り、その後は乱橋さんのお母さんが作ってくれた夕飯を食べてから部屋に戻る。


「明日に備えて早く寝ましょう」


「えっ?」


 優希くんの言葉に、枕を持って投球フォームをとっていた堅治の動きが固まる。


「えっ?じゃなくて何しようとしてるんですか?」


「枕投げ」


「いやいや、人の家でやる事じゃないですよね!迷惑ですよ!」


 中学3年生に注意される高校2年生とは一体。

 堅治は渋々枕を置き、敷布団の上に横になる。


「じゃあ明日やろうぜ。明日」


 諦めない堅治に、明日もしませんよと言ってから優希くんは電気を消す。

 普段寝る時間よりもまだ早いが、電気を消して横になるとすぐに睡魔が襲ってきた。

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