第123話 1日デート

story teller ~九十九朝日~


 俺はレジに立っているにも関わらず大きな欠伸をする。

 大学をやめ、生活費を稼ぐために始めたバイトだが、なるべく暇そうなコンビニを探したのが仇となった。ここまで暇だとつまらない。


「あー、可愛い女の子でも来てくれたらなー」


 レジに突っ伏して、だらけきった体勢でそう呟く。

 するとレジの後ろにある事務所の扉が開き、オーナーが出てくる。


「九十九くん。またそうやってサボって」


 また小言を言われると思い、めんどくさいが体を起こす。しかし、オーナーはいつもの様に小言は言わず、別の話を振ってくる。


「九十九くんと同じ時間にもう1人アルバイトを雇おうと思うんだが、いいかい?」


「俺の出勤が減るってことっすか?」


 それなら別のバイト先を探さなければと思ったが、オーナーはいやいや減らさないよと言っている。


「今は僕がこの時間に出勤してるけど、もう1人雇って、僕は深夜にまわろうと思ってね。深夜勤の人が1人しかいないからね」


「いいっすね。俺もオーナーいない方が仕事しやすいし」


「君はサボりたいだけだろう」


 バレてたか。オーナーも自分がいない時俺がサボるのはわかっているようだ。それでも俺をクビにしないのはアルバイトの数が少ないからだろう。サボってお金が貰えるのだから俺としてもクビにはなりたくない。


「じゃあバイト募集するから。もし僕がいない時に電話が来たら、名前と連絡先を聞いて、折り返すって伝えてね」


「はーい」


 どうせ電話なんて来ないだろうと思いながら適当に返事をする。

 葛原にはお金なんていらないと言ったが、やっぱり少しは俺にも回して欲しい。


 ******


story teller ~四宮太陽~


 今日は久しぶりに月とデートである。

 最近は遊べてもバイト前だったりで、長く遊べていないので、今日は気の済むまで遊び倒そうと意気込んでいる。

 これから、まず水族館に行く予定だ。


「水族館なんて小学生ぶりくらいだよ」


「俺も最後に行ったのは小学生かも」


 月はウキウキしているのか、スキップをするように歩く。もう少し落ち着いて欲しいが、久しぶりのデートでテンションがあがっているだろうから、止めるのは野暮だろう。


 水族館の受付でチケットを購入し、いざ中へ。

 最初は淡水魚コーナーの様で、小さな水槽の中に、小さな魚が展示されている。


「太陽くん!このお魚見て!口パクパクさせてるよ!可愛い〜」


 水槽に張り付いて一生懸命魚を見る月は子どものようだ。水槽の中の魚に向かうって、おいで〜と声をかけている。


「あっちのもすごいよ。あの魚アロワナだっけ?」


「どれ?・・・・・・そうだね!あの大きいのはアロワナだよ!」


 俺がアロワナの入った水槽を指さすと、今度はそこに向かってかけていく。


 その後も、あっちみたりこっちみたりして、月は忙しなく動き回る。

 次は海水魚コーナーに差し掛かり、大きな水槽が並んでいる。その中を様々な魚が泳いでいて、なんとウミガメまでいるようだ。


「カメさんだ!ウミガメは生で初めて見た」


 感動しているようで、目でウミガメを追っている。

 ウミガメのいる水槽は通路の真ん中にあり、その周りを1周することが出来る。

 月はウミガメを追ってどんどんと進んでいくので、はぐれないように手を掴む。


「どうしたの?」


「はぐれたら嫌だし、それにせっかく一緒なんだから、一緒に見て回りたい」


 素直な自分の気持ちを伝えると、月はごめんと謝って、嬉しそうに手を握り返してくれる。

 俺たちはゆっくり館内を見て回った。


 ______


 水族館を見たあとは、様々なスポーツが出来るスポーツランドへ行き、汗をかいた。

 意外だったのが、月の投球センスだ。ストラックアウトでバンバン的に当てていき、景品のお菓子を貰っていた。


 その後は月たっての希望で、俺のバイト先に来ていた。

 休日に休みを貰っておいて、食事をしに行くのは申し訳ないなと思っていたが、暇なのかカウンターには乱橋さんしか立っていなかった。


「いらっしゃいませ。先輩たちはデートだったのですか?」


「うん、久しぶりに太陽くんとたくさん遊べたんだよ!」


「それならよかったです」


「ごめんね。急に休み貰って」


 俺が謝ると、大丈夫ですよと言ってくれる。乱橋さんは仕事を覚えるのが早いので、ある程度のことは1人で出来るようになっていて非常に助かる。


「コーヒーも注文したいんだけど、店長は事務所?」


「かえぴ。違いました。店長は買い出しに行っていて、もうすぐ戻ると思います」


 今完全にかえぴょんって呼ぼうとしていたが、スルーしよう。結局店長がかえぴょんって呼んでってしつこかったしそのせいだろう。


 俺たちは店長が戻るまでコーヒーを我慢して、軽食を頼むと、少しして店長が戻ってきた。


「あー!四宮くんが休み取ってデートしてる!」


「こんばんわ、楓さん。今日は太陽くんのお休みを私がいただきました」


「こんばんわ月ちゃん。いいよーいいよー。恋人のいない私が頑張って働くからー」


 月は俺がバイトを始めてからちょこちょこ遊びに来ている。そのため、いつの間にか店長と仲良くなっていた。店長も、友だちとか連れてきていいよって言ってくれるのでありがたい。


「それで、月ちゃんたちは今日なにしたの?それともこれから夜の街に遊びに行くの?」


「今日は水族館とスポーツランドにいきましたよ。凄く楽しかったです」


 月はほんとに楽しかったようで、今日撮った写真を店長に見せている。楽しかったのはいいんだけど、そろそろコーヒーを注文したい。


「店長コーヒー注文したいんですけど」


「今忙しいから待ってね。・・・これってウミガメ?めっちゃ可愛いじゃん」


 話に夢中で全然聞いてない。

 結局乱橋さんの退勤時間まで俺たちはお店にいたが、コーヒーを飲むことは無かった。

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