第25話 春風さんの家


story teller ~寄宮花江~


 わたしくは久しぶりに対面するその女性に対し、あまりいい印象を抱いていない。

 というのも中学では同じ学校に通っていたが、あまり関わったことはなく、 自身の彼氏である秋川堅治から色々と話を聞いていただけではあるが。


「久しぶり、寄宮さん」


「お久しぶりです、正門で待ち伏せまでしてなにか用ですか?」


 わたくしは目の前の女性に対し、嫌悪感を抱く。


「待ち伏せだなんてやだな、そんな露骨に嫌そうにしないでよ。今日は確認したい事があってきたの」


「確認したいこと?」


 わたくしがそういうと、その女性は自分のスマホを取り出し、わたくしにある写真を見せてくる。


 その写真には、堅治と黒髪の女性が写っていた。


「確か寄宮さんって秋川くんと付き合ってたよね?これ浮気じゃない?」


「堅治さんは浮気なんてする人じゃありません。それに女性の友だちと遊びに行くという報告はしっかりと受けてますので。」


 心配そうな声色で聞いてくるが、毅然とした態度でそう言い放つ。


「そうね。あなたの恋人はそんな人じゃないよね。あなたの恋人はね。」


 含みのある言い方をする女性に、なにが言いたいのですかと言い返す。


「いや、あなたの恋人はただの友だちだと思っていても、相手の女性はどうなんだろう、ね。」


 わたくしの返答を待たずに、それにと続ける。


「人の気持ちは変わるものだから」


 そう言った目の前の女性は、ほそく笑っている気がした。


 ******


story teller ~四宮太陽~


「デカい」


 建物だけを見ても俺の家の2倍、いや、3倍はありそうな建物の門の前に立ちそう呟く。


 今日は勉強会の為、みんな集まるなら広い春風さんの家にしようということになったのだが、こんなに大きいとは思わなかった。

 一緒に帰る時も、近くまで来ると、すぐそこだからと言われていたので、実際に来るのは初めてである。


 門の横のインターホンを押すと、春風さんの声がスピーカーから聞こえてくる。


「あっ四宮くん!少し待ってね!」


「わかった」


 インターホンのカメラで見たのだろう。名乗らずとも玄関を開けて、門の側まで来てくれた。


「こんにちは四宮くん。どうぞ」


 そういうと春風さんは門を開け、俺を通してくれる。

 門を抜けると階段があり、登り終えると右手に広い庭が出てきた。


「外から見ても思ったけど、広い家だね」


「よく言われるけど、小さい時から住んでるからあんまり実感ないんだよね」


 そう言いながら春風さんは玄関のドアを開け、お入りくださいと俺を誘導する。


「お邪魔します」


 挨拶をして玄関に入ると、春風さんのお母さんだろうか、女性が立っていた。


「こんにちは、初めまして。春風さんのクラスメイトの四宮と申します」


「ご丁寧にどうも。初めまして、月の母の桜と申します。」


 お互いにぺこりとお辞儀をする。


「月にこんなカッコイイ男の子のお友だちがいたなんてね〜。お付き合いは順調かしら?」


「もうお母さん!四宮くんとはそんなんじゃないから!」


 桜さんが茶化すと春風さんが真っ赤になって否定する。


 靴を脱ぎ、改めてお邪魔しますと伝えてからあがり、手に持った紙袋を桜さんに渡す。


「これお菓子です。よければ皆さんで召し上がってください」


「わざわざありがとう、四宮くん。まだみんな来てないけど部屋にいこ!」


「ありがとうございます。私は居間にいますから、ゆっくりして言ってくださいね」


 俺から紙袋を受け取ると桜さんは廊下の1番奥の扉に入っていく。俺と春風さんは階段を上がった。


「散らかってるけど、どうぞ」


 扉を開けて案内され、部屋の真ん中にあるローテーブルのそばにクッションを置いてくれたので、その上に座り、部屋を見渡す。


「し、四宮くん!恥ずかしいからあんまり見ないでよ」


「ご、ごめん。広い部屋だと思ったからつい」


 恥ずかしそうにしているが、ピンクを基調とした家具が並び、塵一つ落ちていないのではないかと言うくらい片付いている。

 部屋の広さも、俺の部屋の2倍くらいありそうだ。天井も高い。


「男の子を入れたの初めてなんだ」


 自分の部屋なのに落ち着きがなく、モジモジとしている。

 やばい、可愛い。しかもなんかいい匂いがして俺まで落ち着かなくなる。


「そ、そうなんだ。へ〜」


 とぎこちない感じになってしまう。


 お互いに黙ってしまい、沈黙の中部屋の時計の音だけが大きく聞こえる。

 沈黙に耐えられなくなったのか。


「み、みんなまだかな。早く来るといいね」


「そうだね」


 会話が続かず気まずい空気が流れる中、みんなの到着を心待ちにしていた。

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