学年で1番可愛い子が俺に一目惚れしていた話
ゆとり
第1話 連絡先
「連絡先を教えてください!」
放課後の誰もいない静かな廊下。
意を決したように目の前の女の子がそう言うと、スマホをこちらに差し出してくる。
顔は下を向いていて表情は確認できないが、心做しか手が震えているように見える。
「えっと・・・春風さん?」
俺は突然の事でどうしていいかわからず、その女の子の名前を声に出す。
俺に名前を呼ばれた女の子、
夕日のせいか頬は少し赤く染まっている気がする。
「・・・急に連絡先を教えてってどうしたの?」
春風さんは学年で1番可愛いと言われている女の子であり、入学してから今までほとんど会話をした事がない。
そんな女の子が俺なんかの連絡先を知りたがるのは罰ゲームかなにかだろうか。
マイナス方向に考えてしまうのは、それだけ俺と春風さんのクラス、学年での立ち位置が、存在のレベルが違うからだ。
「えっとね、もう入学して1ヶ月経つでしょ?でもまだ四宮くんとは仲良くなれてないから、その・・・仲良くなりたいなと思って。迷惑かな・・・・・・?」
春風さんは上目遣いにそう答える。
元々整った顔をしているが、上目遣いだからなのかいつもよりも可愛く見えてドキッとしてしまう。
心臓の鼓動が早くなるのを感じるが、なるべく平静を装いながら返事をする。
「め、迷惑じゃないよ。全然大丈夫・・・です」
「・・・じゃあ連絡先交換してくれる?」
春風さんは俺に1歩近づき、首を傾げながらそう聞いてくる。
少し距離が縮まっただけで、より脈が早くなる。
「う、うん、いいよ」
そう言うとスマホでメッセージアプリを立ち上げ、春風さんが表示してくれているQRコードを読み込む。画面が暗転し、すぐにMOONというユーザー名と春風さんが友だちと一緒に写るアイコンが表示される。
あっ、名前が月だから'MOON'なのか
そんなことを思いながら画面の下に表示された、追加を押す。
「あっ追加来たよ!ふふっ、名前が太陽だから'SUN'なんだね。私たちネーミングセンスが似てるかも」
「そう、なのかな?」
似てると言われ少し照れくさくなる。
「連絡先教えてくれてありがとう!」
「いいえ、こちらこそありがとう」
まさか自分が学年1可愛いと言われている女の子から連絡先を聞かれるとは。嬉しいけど、罰ゲームとかじゃなければいいな。
「じゃあ帰ったら連絡するね!また後でね!」
そう言うと春風さんは手を振りながら校舎の中央階段にかけ出す。
「わかった。またあとで」
彼女の笑顔を見送りながら俺も手を振った。
______
自宅に帰り、制服から部屋着に着替える。
ポケットからスマホを取り出し、通知を確認するが春風さんからのメッセージはまだ来ていなかった。
「まぁ社交辞令かもしれないし、期待はしないでおこう」
そう呟き、手に持ったスマホで、SNSのタイムラインを流し見し、春風さんからの連絡が来ないことなど頭から抜け落ちるほどスマホに夢中になってしまっていた。
充電が少なくなってきた事を知らせる通知が画面に表示され、そんなに長時間スマホみてたっけ?と思い時間を見ると午後7時、帰ってきてから2時間近くもスマホを見ていたらしい。
少し夢中になりすぎたと思い、スマホを充電し机に置く。
それと同時に部屋の扉がコンコンとノックされる。
「お兄ちゃん、ご飯出来たってさ」
ドア越しに妹、
「わかった、今行く」
そう返答し、1階に降りようとしてスマホを手に取るが、充電したばかりだったと思い諦めて部屋に置いていく事にした。
スマホ中毒ではないと思うが、それでもスマホを持ち歩くのが当たり前になってしまっている。
______
ご飯の後はそのままお風呂に入り、リビングでテレビを見たりした後、部屋に戻る。
そろそろ眠くなってきたな。そう思いながら、スマホの充電量を確認しようと画面を付ける。すると春風さんからメッセージが届いていた。
('MOON' こんばんわ、今日は連絡先交換してくれてありがとう!よろしくね)
画面をパスワードでロックしていないので通知の内容がそのまま表示されている。
社交辞令じゃなくてほんとに連絡来た。
嬉しい気持ちになりながらも、1時間前に連絡が来ていた事に気づき、こちらこそよろしくね!と急いで返信する。
俺がトーク画面を閉じるより先に、送ったメッセージに既読がつく。
('MOON' 寝ちゃったと思ってた。起きてたんだね!)
('SUN' うん、ご飯食べたりお風呂入ったりしてて返信遅くなった。ごめんね)
('MOON' そうなんだ、じゃあこれから寝るところ?)
('SUN' そうだね、少し眠くなってきたし、寝ようと思ってた。)
('MOON' わかった!眠いのにやりとりしちゃってごめんね!また明日!おやすみなさい。)
('SUN' また明日、おやすみ。)
当たり障りのないやりとりをしてスマホを閉じる。
あの春風さんとほんとに連絡先交換したんだ。
少し幸せな気持ちになりながらベッドに横になると、すぐに睡魔が襲ってきたのでそのまま眠りについた。
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