第36話 出発

 時は、カイルとアレシアが2人で一緒に夕食を取った翌日の朝にさかのぼる。


 アレシアとネティはいつものように、宮殿の敷地内を通って徒歩で神殿に向かうのではなく、多くの馬車が行き交う正面玄関にいた。

 ネティがアレシアのために馬車を手配し、2人は馬車に乗り込んだ。


「……良いのですか?」

 ネティが心配げにアレシアに声をかけた。


「ええ」


 アレシアは落ち着いている。その落ち着きのまま、宮殿の門も馬車であっさりと通ってしまった。


 アレシアは御者ぎょしゃに「神殿へ」と言ったのだ。

 御者ぎょしゃは当然のように、宮殿から大通りを通って、隣にある神殿の正門へと向かう。


 アレシアはいつもの巫女服姿に、簡素な包みをひとつ座席に置いていた。

 正装の際に付ける大切な飾り帯はそこに入っている。


 馬車を見送った宮殿を守る騎士も、門番も、まさかこのまま姫巫女と侍女がリオベルデへ向かうとは思わない。


 にっこりと笑って、「お務めご苦労様です」と声をかけ、お辞儀じぎをしてくれた。

 馬車はじきに神殿に着いた。

 アレシアとネティは馬車を見送る。


「アレシア様」

 ネティは不安げにアレシアを見上げた。

 しかし、アレシアは微笑んで言った。


「さあ。緑の谷に帰りましょう」

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